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愛のハートの中には、甘く官能的な特別の日のために、ミルクチョコとブラックチョコが入っている、とHPに説明があった。手前の詰め合わせの箱には、私が好きな丸い緑色のチョコレートが見える。 |
サン・ジェルマン大通りにある『パトリック・ロジェ』のショーウィンドウを、先日通りがかりに見て驚いた。真っ赤なハートのチョコに漢字で“愛”と書いてある。季節ごとに何かしらサプライズを提供してくれるスペースではあるのだが、今回は少し屈折した驚きだった、日本人の私にとって。バレンタインデーにチョコレートをプレゼントするのは、ずっと日本ローカルのイベントだと思っていた。いつ頃から、フランスでもチョコを贈るようになったのだろう?
フランス人が愛のメッセージをチョコレートに託すような奥ゆかしさを持ち合わせているのかどうか疑問だが、まあ、今どきの日本でもバレンタインデーのチョコのやり取りはゲーム感覚だし、昔ながらの“愛のメッセージ”なんて、現代では洋の東西を問わず絶滅危惧種であろう。それにしても日本伝来の“愛”を伝える風習が、果たしてフランスに根付くのだろうか? 興味津々。マンガ文化の土壌がある国だから、可能性はあるのかも。
ところでパリのショコラ好きに評判らしい『ジャック・ジュナン』のショコラを頂いて食べたことがある。シルバーの薄いメタルケースを開けると、一口大の正方形のチョコが6×6=36個整列している。とてもクールな印象。表面には、青や金、ピンク、ベージュなどで、曲線やドット、青海波みたいな小紋、唐草風など様々なパターンがプリントされている。それぞれに、生姜や柚子、胡麻、グレープフルーツ、ミント、ウーロン茶などの香りが封じ込まれていて、三つ、四つと食べ比べながら香りを楽しむことができる。繊細で優雅で贅沢な気分。微妙な香りの違いも分かるように、パターンと香りの図解付き説明書が付いているので大丈夫。(パターン判別が難しいが)パリのチョコレートは進んでいるな!と感心した一方で、食べ物に保守的な私は、チョコレートを食べた!という満足感をもうひとつ得られなかった。美味しかったのだが。
『パトリック・ロジェ』のアマゾンという名前の、美しい緑の半球状のショコラを食べた時の感動は今でも覚えている。視覚と味覚が融合するようなライムの酸味が、なんとも言えない幸せな気分に満たしてくれた。ショコラに合わせた香りだけでなく、人の手で出来た美しいかたちにも満足したのだと思う。いや、私はパリのチョコレートに関してはまだ断片的にしか知らないし、モノプリ(スーパー)で買った板チョコでも不満はない口なのでエラソーなことは言えないのだけど、パリのショコラティエが作る最先端のショコラが、微妙な香りを楽しむ方向にだけ進み過ぎるのはいかがなものかと、ちょっと心配になっただけなのだが。
話を戻して、パリに於けるバレンタインデーとチョコレートの関係を調査すべく、身近な6区にあるショコラティエやパティスリーを覗いてみた。(カメラで覗いただけで、味見はしてません、念のため)驚くなかれ、ハートのチョコレートがあふれていた。聖バレンタインのポスターもあるし、どうやらチョコレート業界全体の販売促進計画なのかな。パリでは、ふだんチョコレートを食べる機会が東京よりも多いような気がするので、さらに消費を掘り起こすのは大変だろうな。
今年のバレンタインデーは日曜日と重なったので、日本では義理チョコの売り上げが落ちたようなことをネットの新聞で見た。異国で一人暮らしの身にとっては、そもそも貰える当てもないチョコレート、食べたい時に自分で買って食べるのがいちばん。(と、開き直り? やせ我慢?)とは言え、10年後のパリで、義理チョコや友チョコがプレゼントされている風景を想像するのは、なんとも複雑だ。
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『パトリック・ロジェ』のウィンドウには、お尻を見せたダンサーのチョコレート彫刻が4~5体並んでいる。その脇に、ハートが入った赤い袋のような物体も。 |
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花屋の店頭にもバレンタインの花束が出始めた。パリではこちらの方が伝統的な習慣か。 |