from パリ(たなか) – 43 - 中華街の春節祭、Bonne Anneeボナネー。

(2010.03.01)
中華料理店の玄関口に獅子たちが集合して、正月を祝う。2階の窓からも見物人が顔を出して。

今年の春節、つまり中国の旧正月は2月14日だった。パリにも中華街があるから、きっとお祭りをやるに違いないと、OVNI(オヴニー・パリの日本人向け情報紙)で調べたら、2月21日に13区の中華街でパレードがあることがわかった。午後1時半にイヴリー通りを出発して、イタリー通り、トルビアック通り、ショワジー通りを通るらしいのだが、付近のオリンピアード駅に去年一、二度行ったきりで、この界隈の土地勘があまりなく、地図を見てもいまひとつルートが理解できない。しかし、行けばなんとかなるだろうと、メトロ7番線に乗ってトルビアックを目指す。はずした時は中華料理を食べて帰ればいいし。

トルビアックは、自然史博物館があるプラス・モンジュの4つ先の駅だ。なぜか最近7番線をよく利用する。駅を出て、ゆるやかな坂のトルビアック通りをイヴリー通り方面へ進む。通りには中華料理店の看板が目立つが、ベルヴィルの猥雑さはない。すぐに五叉路、いや六つ角かな、なんだか人だかりで騒然とした交差点に着いた。斜め右がイヴリー通りらしく、歩道には移動フェンスが設置され、すでに見物人が席を確保している。気がついたら、さっきからずっと車道を歩いていた。すでに交通規制がされていたのか。イヴリー通りの先の方には行列の先頭らしき影が見えた。とその時、付近で爆竹の音がはじけた。

さらに、太鼓と鉦と銅鑼の音も聞こえる。中国のリズム! 中華料理店の前に獅子がいるようだ。赤、白、黄色、5頭はいるかな。自然と小走りになり料理店の前に陣取る。獅子は代わる代わる店先に頭を入れたり、前足というか頭役の人を後足の人が肩車して、ちんちんのポーズを取ったり、玄関の上に竿で吊るされた緑の野菜を食べるような仕草をするのは正月のしきたりか? 獅子舞がひと渡り終わって、店主らしき人と記念撮影も済み、いよいよ店先の街路樹に吊るされた爆竹百連発が炸裂する。石の建物に反射する甲高い花火の音。市街戦さながら、白煙が立ち上がり、あたりに火薬の匂いが充満する。

私は長崎で生まれ育った。長崎の文化や祭りは中国の影響が強い。中国風の鉦や太鼓の音を聞くと、一挙に祭りモードに突入して浮き足立ってしまう。お盆の精霊流しの夜には翌日まで耳鳴りがする程、爆竹の音にまみれたものだ。パリの獅子舞に熱中しながら、長崎の唐寺か新地(しんち)と呼ぶ中華街にでもいるような、涙が出そうな程の郷愁に襲われた。歳を取るとセンチメンタルになって、いかんいかん。横浜にも20年住んで、横浜中華街の春節や新年(太陽暦)の獅子舞もよく見に行ったし、ワタシ、かなり中国系が濃いのかもしれない。

獅子舞に付いて街中を移動する太鼓と鉦(というかシンバル)の音楽隊。銅鑼を叩くのはまだ小さな男の子だ。
獅子の中には、頭と前足の役、後ろ足の役、二人が入って操る。店先にぶら下がったレタスみたいな緑の野菜は、正月の飾りだろうか?
黒い制服の警官に制止されて、これ以上は近づけない。中華パワーの炸裂だ。
春節祭の日は寒くもなく、そこそこの祭り日和だった。パリ13区、中華街のパレードに集まった祭り好きの人たち。もちろん私も。

門付けの獅子舞はパレードとは別行動でゲリラ的に廻っていて、こちらの方が祭りっぽくて楽しいのだが、すぐにパトカーに先導された行列もやってきた。寅年ということで、先頭の台車には虎が乗っている。もちろん飾りの虎だが。その後に色とりどりの龍や獅子、中国の民族衣装、カンフー実演、よくわからないがヨガみたいな伝統武術? 馬祖像(航海の守り)と竹の線香。行列は1キロほど延々と続くのだが、最後の方にはリオのサンバみたいな、カリブのリズムみたいな、強烈なビートの踊りと楽団のチームも参加して、いや、中国とは関係無さそうだけど、カーニバルってことで、まいいか、謹賀新年ボナネーみたいな、それはそれは国際色豊かな楽しいパレードでありました。人波にもまれ、行列を追いかけ、イヴリーとショワジーで3時間近く見物しながら写真撮っていたら電池も切れた。中華料理店はどの店も超満員、長蛇の列で、またもや食いそびれたのでありました。