from 北海道(道央) – 26 - 消防犬 ぶん公。

(2010.02.22)
今でも小樽に火事が少なくなることを、見守ってくれているかのような「ぶん公」。
「消防犬 ぶん公」の剥製。ぶん公が老衰で亡くなったという記事は新聞にも大きく取り上げられ、ぶん公の大好物であったキャラメルが多くの皆さんから手向けられた。

小樽の火事。そして固有の「景観」へ。

木造の建築物が多い我が国では、火災が起きると「大火」となって、街全体を一気に焼け野原へと変貌させたという歴史はあちこちの街に残されているでしょう。

その対策として、防災用に道路を広めに作ったり、石造の建物を作るとか、地域によって様々な工夫がされてきました。

小樽の街は、天狗山をはじめとする山々に囲まれて、なおかつ、日本海との間に広がる前後に狭隘な地形の中で密集して建物が建てられて成長してきた経緯があります。加えて、「坂の街」であることから、一度火災が発生すると、消火に手間取るなど、大きな被害をもたらしてきました。

そうした経緯から、小樽運河沿いに代表される煉瓦や石造の建物が、街のあちらこちらに見られるとともに、今日では、それが歴史的建造物としての小樽固有の「景観」形成にも役立つことになったのです。

防火対策も兼ねて小樽の街並は石造り、煉瓦造りの建物が増加していきましたが、それが小樽固有の「景観」を生み出すことに。

 
「消防犬 ぶん公」活躍の実話。

小樽市の消防制度は1927(昭和2)年にようやく本格的に整備され、消防自動車などを含めて近代的なものへと変容していきました。そのような折りに、消防組(現在の「小樽市消防本部」)で火事の際に活躍した犬がいます。

その名は「消防犬 ぶん公」。

火事の焼け跡で鳴いていたところを、消防組の方に助けられ、その後消防組で大切に育てられたそうです。以下、2006(平成18)年7月に「消防犬ぶん公記念碑建設期成会」が設置した、「消防犬ぶん公」の銅像に刻まれた碑文です。

「ぶん公」はなんでもおじさんたちのまねをしました。火事があるとすぐに消防自動車に飛び乗り、現場に着くとホースをくわえて筒先係に渡したり、ホースのもつれを直したり、野次馬の整理にも役立ちました。昭和の初め頃に活躍した「ぶん公」の出動回数は千回以上にもなり、新聞・雑誌やラジオで全国に知られ、子どもたちや多くの市民から愛されておりました。しかし、1938(昭和13)年2月3日、24歳で亡くなりました。

戌年の今年「ぶん公」の功績をたたえ、防火の大切さ消防への理解を深めるためここに、記念碑を建設いたします。」

ぶん公が颯爽と消防車に乗っている写真が、ぶん公の銅像の横に飾られている。

 
絵本の原作者、水口忠さん。

ぶん公の活躍を児童向けの絵本『消防犬ぶん公 ほんとうにあった話』((株)文溪堂)に取りまとめたのが、水口忠(みずぐち・ただし)さんです(絵は、梶鮎太(かじ・あゆた)さん)。

出版されてから10年以上経ちますが、この本は、全国の小学校低・中学年の子どもさん達に絶大な支持を得て、今も「消防犬ぶん公」の伝記として語り継がれる本なのです。児童だけではなく、話の内容はとても素晴らしいので、是非大人の方であっても一度は目を通していただきたい絵本の一つです。

小樽在住の水口忠さんは、明治期に活躍した文人・石川啄木(いしかわ・たくぼく。1886(明治19)年-1912(明治45)年)の愛好家でつくられた「小樽啄木会」の会長を務められています。

ちなみに啄木は、1907(明治40)年9月末に函館から小樽に移り住み、翌年1月には家族を残して一人小樽を離れ釧路へと移り住み、北海道内での放浪時代を送りましたが、小樽にいた短い期間に20もの歌詩を残したと言われています。

そのような縁から、「小樽啄木会」は1913(大正)2年に数人の有志が集い開いた「啄木忌日会」が前身とされ、第2次大戦後から本格的な活動を開始し、現在まで続いている歴史のある会でもあります。

水口忠さんは、齢を重ねた今でも、御自宅のパソコンでホームページの更新作業を行い、今回の記事掲載に当たっても自分にメールをくださったりと、本当に精力的に御活躍されている数少ない「小樽在住の文化人」のお一人なのです。

その御活躍には、ただただ頭が下がるばかりで、我々も「水口さんを見習わなければならない」と励みにもなっています。

 
「北の風信」(水口忠さんのHP)

とても温厚でにこやかに接してくださる水口忠さん。『消防犬ぶん公 ほんとうにあった話』とともに。
JR小樽駅を左へと歩いて三角市場への階段を登り切ったところに設置された「石川啄木歌碑」。家族を小樽に残して釧路へと旅立つ自身の心境を詠ったのだろう。
「運河プラザ」入口左に置かれている「ぶん公」の銅像。運河プラザに立ち寄るときには、忘れずにぶん公に声をかけてあげてください。

 
「ぶん公」の銅像を通じて、小樽の歴史に思いを馳せる。

運河プラザの中庭。夏には、心地よい潮風を受けながら飲む「地ビール」はまた格別。飲んでばかりいずに、鯱(しゃちほこ)に注目。

さて、「消防犬 ぶん公」の銅像ですが、JR小樽駅前を海に向かって真っ直ぐと下って行き、徒歩8分程度、小樽運河の手前にある「運河プラザ」の入口右側に設置されています。

「運河プラザ」の中庭は、夏場は涼しい風が吹き抜けていて、ここで飲む地ビールがまた美味しいのですが、足を運ばれた際には是非屋根にも注目してみてください。屋根には「火除け」の鯱(しゃちほこ)が、置かれていることに気が付きます。

物語のような話ですが、実話としての「ぶん公」の姿に小樽観光の途中是非接していただき、小樽の「街並み」が築かれていった移ろいに、思いを馳せてみていただければ幸いです。

〔参考〕 関西学院大学社会学部 島村恭則ゼミの学生さんのレポートに、とてもよくまとめられておりますので、こちらも参考まで。