from 山梨 – 10 - ラグビーを楽しむ その1:紳士の陣取り合戦。

(2010.03.25)

こんにちは。遠藤ひろみです。
前回の記事では、映画『インビクタス』を見て大泣きして熱く語ってしまいましたが、「ラグビーを知らなくても感動した!」なんて感想をちらほらと耳にするにつけ、「確かにねえ、ラグビーってわからないよねえ」と改めて感じる今日この頃。
かく言う私もプロフィールに「ラグビー観戦が趣味」なんて書いていますけど、ラグビーなんてやったこともないし、ルールだってろくにわかっていません。
「ラグビーって、ボールを追いかけてぶつかって積み重なって怪我して、なにやってるんだろう?」と思っていました。
第一、プレーを見ながら「なにやってるんだろう?」という疑問が湧くスポーツなんて、そうそうないんじゃないでしょうか。

ラグビーの聖地、菅平サニアパークで毎年開催されている『関東クラブチームラグビーフットボール交流試合』から .

ここは「エリアナビfrom山梨」なんですが、書いている人間が山梨にいるということで良しとして、何回かに分けて、私が感じていた「ラグビーってなにやってるんだろう?」という疑問に自分で答えてみようと思います。
なんといっても、2019年にはラグビーワールドカップが日本で開催されるし、それより前の2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、7人制ラグビーが正式種目として採用されているんですから。
(オリンピックで採用された7人制ラグビーと通常の15人でプレーするラグビーは、ルールが若干異なります。文中のルールは15人制を想定して書いていくつもりです)

 

「ここからこっちは俺の陣地な。絶対はみ出すなよ。空中もナシだかんな」

さて、もし周りにラグビーをやっている人がいたら、「ラグビーって、なにやってるの?」と聞いてみてください。
おそらく、かなりの高確率で「ラグビーは陣取り合戦なんだよ」という答えが返ってくると思います。
でも「陣取り合戦」と言われると、私には囲碁やオセロのような石を打って陣地を増やしていくというイメージが強くて、どうもラグビーとは結びつかない。
それが最近、ようやくわかったんです。
ラグビーは子供がよくやる、手で線を引いて「ここからこっちは俺の陣地な。絶対はみ出すなよ。空中もナシだかんな」というアレをやってたんですね、全力で。

ラグビーでは、自分の陣地と敵の陣地の境界線は、ボールの位置でゴールと平行に引いた線です(プレーによって例外あり)。
ボールを敵の陣地に運び込みながら前に進めば、進んだ分だけ敵の陣地が減って、自分の陣地が広くなる。
そして最終的にグラウンド全部を自分の陣地にすると得点できるのです。
ラグビーではこの自分の陣地と敵の陣地の境界線(=ボールの位置でゴールと平行に引いた線)の事を「オフサイドライン」と呼んでいます。

 

紳士は他人の家にずかずかと踏み込んで、勝手に冷蔵庫を開けません

とかく「ルールがややこしい」と言われるラグビーですが、わけのわからない色々なルールも、元をたどればたぶん2つか3つくらいの決まりごとに行き着くはずです。
私がラグビーを理解するのに一番わかりやすいと思った大きな決まりごとは「敵の陣地内でプレーしちゃダメ」というものです。
この決まりごとを知るだけで、ラグビーの半分はわかるようになるはず。

実はですね、ラグビーは紳士のスポーツと言われているのです。
紳士は他人の家にずかずかと踏み込んで、勝手に冷蔵庫を開けたりはしませんよね。
だからラグビーでは、「敵の陣地内でプレーしちゃダメ」なんですね。
敵の陣地というのは先に説明したようにボールがある位置より向こうですから、ボールよりも向こうにいる選手は原則として速やかにボールの後ろの自分の陣地内に戻る以外のことはしちゃいけないわけです。
ボールに触ってもいけないし、敵の動きを妨害してもいけません。
ということは、大枠のイメージとして、前に進んで自分の陣地を増やすためには、ボールを持っている選手が自分でボールを持って走っていくしかないってことになりますよね。
ボールより前には、ボールを受け取ることが出来る選手はいないんですから。
ただし、キックは前に蹴っても良い事になっています。
ボールを保持していることより自分の陣地を大きく回復することが優先される場面では、敵にボールが渡ることを前提でボールを蹴ることがあります。
なぜなら、ラグビーはどちらのチームがボールを持っていても、その時点でお互いの陣地の面積は変わらないんですから。
「なんでわざわざ敵に渡すためにボールを蹴るんだろ?」という疑問は、これで解決ですね。

よく「ラグビーというのはボールを前に投げちゃいけないスポーツ」と言われますが、私はそれを聞いて「なんで前に投げちゃいけないんだろ?」と疑問に思っていたのです。
周りのラガーマンにその疑問を投げかけると、「ラグビーというのはそういう理不尽なスポーツなんだ」とかなんとかゴニョゴニョと言われるんですが、実は全然理不尽なんかじゃなくて、「紳士なんだから、他人の家にずかずかと踏み込んで勝手に冷蔵庫を開けてビールを取り出してソファに座ってテレビを見ながら飲んだりしちゃダメでしょう」という、至極もっともな話だったのですね。
だから、「ボールを前に投げちゃダメ」というより、「ボールは前に投げることができない」という表現のほうが適切なんだと思います。
そしてこれは、戦っている相手に敬意を払う事なのです。

 

相手への敬意は自尊心に。

戦っている相手にも、そして自分たちにも、先輩たちが培ってきた歴史や文化があり、現役の選手には、自分たちが積み重ねてきた努力でそれを守り、後輩に伝えて残していく大きな責任があります。
自分たちのプレーで自分たちの陣地を守る(=勝つ)ということは、その責任を果たしていくことであり、試合の中では両チームに与えられた権利でもあるのです。
相手が果たそうとしている責任と、相手に与えられた権利に敬意を払い、尊重することは、自分たちの自尊心につながります。

世界の歴史に目を向けてみると、陣地(国土)を取った取られたという事がどういうことなのかがわかります。
陣地を奪って先住民と共存していく選択がある反面、手段を選ばずに歴史や文化、資源や経済活動、果ては民族そのものを全て搾取し破壊し尽すという選択をしている国もあります。
そういった事にならないために、各国は必死で自国の国土を守っています。

ラグビーは陣取り合戦と言っても、陣地、言い換えれば相手のインゴールに埋まっている全てのものを暴徒が踏みにじって奪うスポーツではありません。
「相手の陣地内でプレーしちゃダメ」というのは、そういう事だと思うのです。

(続く)