from 北海道(道央) – 61 - 桜前線、北海道に到達。
桜とともに、フレンチに新たな風。

(2012.05.15)

桜前線、ようやく北海道にも到達。

日本列島は南北に約3,020kmの距離を有する。この弓状に長い日本列島を、南から北へと「桜前線」は今年も北上をはじめ、ようやく5月のGW期間中に札幌・小樽へと辿り着いた。

5月中旬には、釧路や根室といった道東地方で、今シーズン最後の花見を愉しむことができるだろう。

今年の札幌・小樽での桜の開花は、開花当日に満開という、極めて珍しい現象となった。

例年を大きく上回る降雪量があった冬が終わり、4月後半に一気に気温が高くなったこともあり、河川、道路、鉄路など北海道内各地で地盤が緩むことによる事故も発生したが、幸いなことに人的被害は今のところ発生しなかったことが不幸中の幸いとでも言えようか。

桜の異常とも言える開花当日の満開という現象は、こうした気候変動にも一因があるのだろう。

まずもって皆さまにお詫び申し上げなければならないこと。それは、私の住む小樽市で開校100年の歴史を有する小樽商科大学において、特定のサークルの学生による構内での飲酒事件により、広く世間をお騒がせする結果となったことについて、小樽市民の一人として心からのお詫びを申し上げたい。また、この事件によって重体となられている学生さんの一刻も早い回復を、心からお祈り申し上げる次第である。併せて、今後の小樽商科大学の名誉回復に向けた最大限の努力を、市民の一人としては期待したい。

JR小樽駅から歩いて5分ほどの小樽警察署。小樽の「ソメイヨシノ」の中でも、小樽警察署構内に植えられた樹の開花を市民は楽しみにしている。
小樽警察署構内の「ソメイヨシノ」は満開。
桜、花見は日本人の「心」に深く刻まれる。

さて、『万葉集』『古今和歌集』『日本後記』を紐解けば、日本の花見のルーツは、奈良時代の貴族による「梅」観賞であり、平安時代に入ってから「桜」を愛でる形へと移行していった断片が記されている。

花見に付きものの「宴席」は、812(弘仁3)年に嵯峨天皇が催した「花宴の節」が記録に残る最初の花宴とされるが、既に1000年以上の時を越えて、日本人の風習、そして文化として根付いているほどに、桜と花見は日本人の「心」に深く刻まれた世界に誇れる年中行事の一つなのであろう。
 
北海道での花見と言えば、桜の木々が植えられた「公園」などで、寒さに震えながらも炭を起こして暖まりつつ、ジンギスカンパーティを行うといった形が定番だったのだが、最近はその準備から後片付けまでを請け負う業者が現れるなど、時代の変化に対応した簡略化が図られつつあるのも現状である。

因みに、北海道の桜と言えば、「ソメイヨシノ」のほかに、「エゾヤマザクラ」「チシマザクラ」など北海道ならではの固有品種が存在しているので、それらを楽しみに北海道に足を運ばれることもお勧めしたい。

北海道の桜の開花は、山菜等「旬」の到来をも告げる。

一方、この季節は特に「山菜」が市場に豊富に出回る時期でもあり、桜を見た後に、レストランで「旬」の食材を活かした料理を愉しむ人々も増えており、寒さが苦手な自分自身も実際にその一人である。
 
『ミシュランガイド北海道 2012特別版』が先月発売されたが、恐らくはミシュランの調査が終了した後、昨年(2011年)12月に札幌・ススキノに『ブラッスリー・セルクル(brasserie Les Cercles)』をオープンさせたのは、私の友人である木村円(きむら・まどか)さん。フードアナリスト(日本フードアナリスト協会)、ドイツワイン上級ケナー(日本ドイツワイン協会連合会認定)などの資格を有し、ドイツワインの北海道内での普及に取り組んでこられていた。
 
木村さんとタッグを組むシェフは、熊本県出身の林信仁(はやし・のぶやす)=ノブ・ハヤシさん。東京プリンスホテルに入社し、高輪、新高輪、池袋勤務を経て、2度の渡仏経験後、小樽にある朝里クラッセホテル総料理長などを歴任されたという凄腕シェフ。
 
「現在、札幌には多様な飲食店があり、中でもフレンチとなれば、グラン・メゾンからビストロまで存在していますが、私とシェフは常々値段があまりにも高すぎることに疑問がありました。フレンチの敷居を高くしたのは、提供するお店側のスタイルではないかと。一皿1,000円以下でアラカルト注文できる店が少ないのであれば、利用する消費者にとっては簡単に利用できないのではないか」と木村さんは、開店するに至ったきっかけを語られた。

北海道でのフレンチの新たなステージを創造。

また、「当店では、一皿を1,000円以上の設定にしない、コース料理・宴会料理や飲み放題をやらない、明るい照明のお店にする、サービスの過剰は絶対にしないといった約束ごとを決めました。

フレンチだからどうのではなく、お客さまが当店のアラカルトのメニューをご覧になって、こんな食材がある、こういう料理法もあるし、ここでしか食べられない料理があるんだということを発見できるようなメニューにすることで、結果として『セルクルに来てハヤシシェフの料理を食べたら美味しかったね!』という言葉をいただければ本望ですし、皆さまが楽しくなれるような店でありたい」とも。
 
ドイツワインの普及に取り組まれてきた木村さんと、「北海道ワインツーリズム」の普及・推進活動をしていた自分との接点は、ごくごく自然なもの。

北海道産ワインの品種は、気候特性が似ているドイツやオーストリアといった、ヨーロッパでは高緯度の地域の品種が多く栽培されている。輸入量の少ない本物のドイツワインやオーストリアワインを飲むことを通じて、北海道産ワインが持つポテンシャルを知ることは、今後の北海道産ワインの動向を占うためにも極めて重要なことだと自分は考えている。
 
そうした背景の下、フランスやイタリアはもちろん、ドイツやオーストリアのワインも常備し、食材や料理に徹底的に拘る木村オーナーとハヤシシェフには、北海道固有の「桜」が存在するように、「食の北海道ブランド」づくりのパイオニアとして、北海道のフレンチに新たな風を吹き込まれるよう、今後一層のご活躍を期待している。