from ヘルシンキ - 11 -  「乗り越えるべきことがあるのは、おもしろいこと」by Ritva

(2010.05.31)

「フィンランド女性に学ぶ 幸せ力」
File.10 Ritva Wäre(64歳)

フィンランド女性へのインタビュー、
今回で10回目を迎えました。
読んでくださっているみなさま、
またご感想をくださったみなさま、
いつもありがとうございます。

10回目の今回は、
17年間国立博物館館長を務めて昨年退職し、
学者として第二の人生をスタートさせた
Ritvaさんにお話を伺いました。

 
Work: 仕事は人生そのもの。

昔からアートや建築が好きでしたが、アーティストだった父に、
職業としてアーティストは選ばないようにさんざん言われていました。
それで、美術史学の専門家の道に進みました。
大学院で研究をしながら学芸員として働き、あと一歩で博士号取得というタイミングで、
夫に出会い恋に落ち、結婚、出産。博士号取得は遅らせ、出産後は大学講師をしました。
当時は、保育施設や制度が今ほど充実しておらず、夫の収入が基準以上ある家庭は、
子どもを保育施設に預けることができませんでした。
そのため、母やベビーシッターの力を借りて、子育てと仕事を両立。
1991年に10年越しで博士号を取得し、翌年の1992年から昨年まで17年間、
国立博物館館長を務めました。
館長の仕事はハードワークでしたが、とにかく充実していました。
国立美術館や博物館17施設を統括する立場で、国内外の様々な人と出会いました。
仕事がとにかく好きで、人生そのものでした。

幼い頃の家族写真。(お父さん、妹さんと)

 
Turning Point:部下を100人以上抱える生活から一転、静かで孤独なリタイア生活。

館長の仕事は、63歳から68歳までの間に退職するのが条件でしたが、
63歳で条件を満たした瞬間に退職することを決めていました。
17年間の館長としての生活は、とても充実していました。
でも、これ以上続けるのは自分の健康にとって、組織の健康にとっても
良くないと判断したのです。
リタイア後は、穏やかな生活を思う存分楽しめると考えていたのですが、
現実はそう簡単ではありませんでした。
働いていた頃は、100人以上の部下に囲まれ、各国からのお客様を迎える生活。
何をするか考えなくても常にやるべきことはあり、同僚やお客様のおかげで、
自分の存在価値を感じることが出来ました。
ところが、リタイア後に待っていたのは、家の中での静か過ぎる孤独な時間。
家を見渡せばいくらでも掃除すべき場所はありました。
でも、それは誰かに望まれなければ、してもしなくてもいいこと。
充実感を見出せませんでした。
そこで、自分なりにいくつかのプロジェクトを始めることにしました。
これまでのキャリアや博士号の資格を生かし、学者としての活動をスタート。
今は、本や論文の執筆活動と、大学で講師をしています。
大学の授業の準備は、新しい機材を使いこなさなければならず、
ゼロから学ぶこともたくさんあり苦労しましたが、やりがいを感じています。

リビングにはRitvaさんの大好きな絵画が並んでいます。

Family: 独立した存在として、仕事、趣味、空間を持つこと。

息子は自立し別のところに住んでいるので、今は夫と愛犬ローサとの生活です。
結婚生活は30年になります。
長く連れ添う秘訣、というのは一概には言えないと思います。
考え方が合わないのであれば、別々に生きた方が良い場合もあります。
ひとつ言えることは、夫婦、家族であってもそれぞれに独立した存在として、
自分の仕事、趣味、空間を持つことが大切ということでしょうか。
両親は、父が定年退職したときから関係が難しくなりました。
それまで言わば母の領域だった家の中の事柄に、父が介入することで
ぎくしゃくしてしまったのです。
両親を見てきたからこそ、私は家の中でも、自分だけの空間を持つようにしています。

 
Happiness:幸せは突然訪れるもの。

すべてが順調で恵まれた状況であっても、幸せを感じられないときはあります。
逆に、大変な状況でも、ひとりで地下鉄やバスに揺られている瞬間に、
ふと幸せだと感じることもあります。
私は3年前に、母を亡くしました。当時、まだ館長の仕事をしていたので、
仕事場と母のいる介護施設を往復する生活は、時間的にも体力的にも大変でした。
それでも、母の最期を一緒に過ごせたことに大きな幸せを感じていました。
母は私に、老いること、死ぬことの意味を教えてくれました。
そして、付き添い、手伝える喜びを与えてくれました。
幸せという感情は、様々な状況の中で突然訪れるものだと思います。

Ritvaさんが幸せを感じる場所のひとつ、サマーコテージ。

Dream For Next 10 years:遠い将来よりも「今」を大事に。

今後の夢は、健康で生きていられたらいいです。
10年前に乳癌を患いました。病気は完治しましたが、そのときに感じた
「すべてが終わってしまう」という思いは今でも残っています。
だから遠い将来よりも、「今」を大事にしたいと思います。
昨年愛犬ローサを飼い始めたときに、今後はフィンランドでゆっくり過ごすと
決めました。
 

愛犬ローサとの写真。

 

Message:乗り越えるべきことがあるのは、おもしろいこと。

「グローバリゼーション」が進んだ現代。国を越えて地球社会の一員、
という感覚で物事を考えるのが好きです。
今やインターネットで、世界中の人や情報にアクセスすることができます。
たとえば、私はインターネット上で、愛犬ローサと同じ犬種を飼っている
世界各国の人とのコミュニケーションを楽しんでいます。
日々様々な難題がありますが、大きな視点で捉えることが大切だと思います。
乗り越えるべきことがあるのは、おもしろいことです。
一緒に楽しみましょう!

 

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■取材後記

Ritvaさんの幅広い人生経験にもとづいた、ひとつひとつの言葉。
今、目前にある課題について考えるとき、将来難題に出会ったときに、
力となりヒントを与えてくれると感じました。
桜の花びらが舞い、新緑の美しい季節となったヘルシンキからお届けしました。
 

 
※この内容は、2010年5月取材当時の情報です。