焼きものの郷へ Vol. 3 砥部 若手作家さんが集まる、これからが楽しみな町。

(2010.05.10)
『梅山窯』の先代が暮らしていたという古民家。

焼きものの郷、3つめの旅先は愛媛県の「砥部」です。ぽってりとした日常使いの磁器で知られています。「ぽってり」と「磁器」は正反対のイメージ。ですが、つややかな磁器の光沢と丈夫さを兼ね備えていて、麺類のうつわなどとして毎日の暮らしの中で使われることが多いようです。

まず訪ねたのは、砥部を代表する窯元「梅山窯」。東京や大阪のうつわ屋さんで、「梅」の刻印が入った器を見かけることもしばしば。特徴は、どこか北欧を感じる図柄とフォルム。染め付けの藍色と差し色の赤、うつわの白の3色のみで作られる図柄は、飽きのこないデザイン、日常雑器としての使いやすく壊れにくいシンプルなフォルム。昭和中期、民藝運動の中心人物である柳宗悦や浜田庄司らとの交流があって以来、梅山窯は「用の美」を追求し続けています。

「規模は大きいけど、どの行程もすべて手作業です」と誇らしげに語ってくれたのは梅山窯の6代目であるお嬢様のご主人、岩橋さん。型で作った素地をていねいにろくろで削りだし、流し込みのうつわは、液状の磁器土をひとつずつ型に注いで作る。行程ごとの担当職人さんは、正確に、素早く、黙々と、仕事をこなしています。きれいに整理されたそれぞれの場所ごとに職人さんの気概が感じられます。

そして、成形や施釉、焼成の作業場から靴を脱いで2階に上がり、カーテンとびらを開けると絵付け室が。ささやき声で説明をしてくれる岩橋さん。通常、ここは見学できないそう(梅山窯は、工場見学を受け付けています)。すべてが手描きの絵付け行程は、とてもデリケートな作業なので、気が散らないようにしているのだとか。

梅山窯の代表的な図柄は、約40年前に絵付け師・工藤省治さんによって誕生した唐草模様。ペルシャ絨毯からインスピレーションを受けたそうだけど、なぜかヨーロッパモダンを感じるデザイン。工藤さんは今も、梅山窯の絵付けに携わっているといいます。

型から取り出したくらわんか茶碗を、ひとつずつていねいに削る。
流し込みの方法では、一輪挿しやコーヒーカップの取手などが作られる。
唐草模様は下書きなしで一気に描かれる熟練の技。
仕上げの釉薬も、手作りの道具で、手作業で行われる。

もうひとつ、とってもステキな出会いがありました。それは、作家さんが集まるエリア「陶里ヶ丘」に工房を構える杉浦史典さん&綾さんご夫妻。お二人は、砥部焼という枠にとらわれない、現代作家さんです。東京の美大で出会い、瀬戸の窯業学校で焼きものを学んだ後に、こちらへ移住したのだそう。

史典さんが作る器は、薄く繊細でスタイリッシュなフォルムが魅力の白系のうつわが中心です。一方綾さんは、キュートな絵柄の染め付けのうつわが中心。最初は、焼きものの成形を史典さん、染め付けを綾さんがしようと試みたのですが、史典さんの作るうつわは絵柄が入る余地のない完成されたものだったので、いまではそれぞれの個性を尊重して、綾さんは染め付けを中心にしたあたたかくスイートな焼きものを、史典さんはフォルムを生かすシンプルな焼きものを作ることになったんだそう。こぢんまりとした工房で、夫婦それぞれが好きな焼きものを作るなんて、理想の暮らしではないでしょうか? 

「砥部は、ほかの焼きものの郷に比べると自由だと思います。徒弟制度が厳しいところでもありませんし。若手陶芸家が集まって、盛り上げていこうという気風もあります」と話す史典さん、来ているTシャツの胸には「I♡Tobe」のロゴが。そのロゴ、♡マークのところが、うつわの形になっています。「先日行われた砥部焼のイベント用に作ったものなんです」と話してくれました。

新進の若手作家が集まってきつつある砥部。これからますますすてきな焼きもの街になって行くのでしょうか。楽しみです。

小さな箸置きを作る綾さん。染め付けの柄を想定した形作りが大切。
I♡TobeのTシャツを着る史典さん。釉薬が乾いたうつわを窯へ。
史典さんのコーヒーカップ。するするとすべらかな手触り。
史典さんのうつわ。同じカタチのを……、お持ち帰り。我が家で、シリアル、スープにデザートにと大活躍中。
綾さんの作品たち。雲やドットなど、絵のモチーフがすてき。最近は新しい作風も増えているよう。
呉須の色を陶片を使って試し焼き。さりげなく置かれているとまるでインテリア。

 

梅山窯
Tel:089-962-2311
住所:伊予郡砥部町大南1441

 
スギウラ工房
http://sugiurakoubow.blogspot.com/

写真/斎藤亜由美 ©felissimo

 

 

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