from パリ(河) – 2 - 猛暑のパリを乗り切るためのとっておき料理とは?

(2009.07.13)

暑い夏がやって来ました。セーヌ河のほとりが、日焼けに専念するパリジャン、パリジェンヌでいっぱいになる季節です。夏は夜10時ごろまで明るいフランス。カフェやビストロのテラスが、ロゼワインや、南仏名物のパスティスなどのアペリティフ、夕食を楽しむ人で賑わう開放的な雰囲気に包まれます。

オペラ座の横にある「劇の幕間」という意味の老舗カフェ『L’Entracte(ラントラクト)』。ここのタルタルステーキも美味。1, rue Auber , 75009 Paris

日本では夏に精をつけるための伝統的な料理は、「鰻の蒲焼」ですよね。(男性サラリーマンに圧倒的に支持される夏バテ予防料理ですね。ちなみに、私は広島出身なので、断然穴子派です。)フランスにもこの「鰻」のような存在の夏のスタミナ料理があります。それは牛生肉のタルタルステーキ(Tartare du boeuf)。この料理は生肉を細かくたたいて、塩、こしょう、エシャロット、ピクルス、ケッパー、卵黄などの薬味を混ぜて味付けしたもので、フランス版のユッケみたいなものです。狩猟民族フランス人は、「夏でも肉が食べたい!」けど、「ステーキじゃ暑苦しいなあ」ということで、冷たいタルタルステーキがどのビストロでひっぱりだこです。

パリ2区の証券取引所(Bourse)の横にある1876年開業の老舗ビストロ『Gallopin(ギャロパン)』。伝統的なビストロ料理が味わえます。冬は生牡蠣やポトフが評判。住所:40, rue des Notre Dame des Victoires, 75002 Paris
タルタルと言えば、日本ではカキフライについてくるマヨネーズと卵とピクルスを混ぜたソースのことですが、フランスのタルタルは生の牛肉やサーモンやマグロなどの生魚をこまかくたたいて薬味で味付けたものです。必ずフレンチ・フライ(フライドポテト)が付いてきます。値段は平均16ユーロ。
内装が素晴らしい老舗のビストロ「ギャロパン」では、ギャルソンが目の前でタルタルを作ってくれます。肉の鮮度がとても良いです。

このタルタル、今は牛肉で作られていますが、昔は馬肉が主流でした。どこかの動物保護団体が、「日本人は馬肉食べる野蛮人」と息巻いていたことがありますが、フランスにも馬肉を食べる習慣はあったのです。「馬肉専門の肉屋」もあったし、10年前ぐらいはスーパーでも売られていました。けれど、最近その数はめっきり少なくなり、本家本元の馬肉のタルタルを出すビストロも稀有な存在となってしまいました。

5区にあるうら寂しい馬肉専門店跡。今はお隣のイタリア惣菜屋さんの生ハム保管所となっている。

このタルタルという言葉は、その昔、東ヨーロッパ人がモンゴル系の遊牧民を指すために名付けた「タタール人」に由来すると言われています。このタタール人は、戦があると馬を何頭も引き連れて遠征し、乗用としては使えなくなった馬の肉を細かく切って袋に入れ、それを馬の鞍の下に置いて、移動中の自分の体重で押し潰して柔らかくしてから食していた習慣があったとされています。タルタルステーキは、このタタール人の馬肉料理から来たという説が有力です(ユッケもそうです)。

ちょっと話が生々しくなりましたが、とにかくフランス人はお腹がぽっこり出たムッシューも、スレンダーなマドモワゼルも、老若男女問わず、このタルタルが大好物。付け合わせは皿にてんこ盛りのフライドポテト。日本人には視覚的にまいってしまうほどのボリュームでも、ぺろりと食べちゃいます。

ところで、フランス人が「暑過ぎて何も欲しくないほど」夏バテのときによく食べるものとしては、冷静スープの「ガスパチョ」があります。日本で言うと「そうめん」、「ところてん」のような役どころと言えるでしょうか。このスープはスペインのアンダルシア地方の郷土料理で、トマト、ピーマン、きゅうりをミキサーにかけて作るさっぱりしたスープです。夏になると、多くのビストロが前菜のひとつとしてメニューに加えます。スーパーの店頭にもジュースのような紙パック入りのものが並びます。

スーパーで売っている、二人分ぐらいのガスパチョの紙パック(約4ユーロ)。パッケージもかわいいけれど、味もさっぱりしていておいしい。
フランス人は親しい人を家に呼んでパーティーをするのが大好き。市販のガスパチョは、簡単でおいしい夏の前菜として重宝がられています。

夏にフランスを旅行する機会があったら、タルタル、ガスパチョを試してみてはいかがですか?