深瀬鋭一郎のあーとdeロハススイス・アート紀行 たぶん世界最古のアート蒐集地のひとつ、バーゼル。

(2015.01.29)
バーゼルのアートめぐりの起点となるバーゼル中央駅(Basel SBB 1909年)
バーゼルのアートめぐりの起点となるバーゼル中央駅(Basel SBB 1909年)

スイス後編は、アートの都バーゼルの紹介です。

空路チューリヒから入って、バーゼルを目指し、時間の余裕があればジュネーブ経由で帰国する、あるいはその逆回りで周遊する想定で書いていますので、前編で簡単に解説したチューリヒ、ジュネーブと併せて読んでみてください。

バーゼルは、ライン川中流のドイツ、フランスとの国境にあるスイス第3の街(人口16万人)で、アートでは世界の中心のひとつです。ライン河口からバーゼルまでは川幅が200mあって大型船が航行できる最終地点だったことから、古来、物流・商業の要衝として栄えてきたためです。1471年に神聖ローマ皇帝皇帝フリードリヒ3世から商業祭(messe)を開催する勅許を得ており、現在でも『バーゼル・メッセ』を会場として、大規模な見本市が開催されています。

バーゼルへは、日本からの直行便はないので、直行便が飛んでいるチューリッヒ(Zurich)でスイス国鉄に乗り換える(所要1時間+乗換時間)か、ジュネーヴ
(Geneve)で国内便に乗り換える(所要3時間+乗換時間)ことになります。イタリアで隔年開催される『ベネチア・ビエンナーレ』や、ドイツで5年毎に開催される『ドクメンタ』、10年毎に開催される『ミュンスター彫刻フェスティバル』の開催年には、これらの大規模国際展とアート・バーゼルをハシゴするアート関係者やコレクターも少なくありません。専用のジェット機が手配されることも多く、筆者のところへもそのツアー案内が送られてきます。

では、バーゼルの交通の中枢であるスイス国鉄のバーゼル中央駅(SBB)前を起点として、施設めぐりをするイメージで説明しましょう。

マリオ・ボッタ建築の『国際決済銀行(BIS)別館』。元々はスイスユニオン銀行のビルだったとのこと。

バーゼルの市内交通はバーゼル市交通局(BVB:Basler Verkehrs-Betriebe)によって運営されているバス(トロリーバス含む)14路線とトラム(路面電車)13路線があり、一枚のパス「バーゼルカード」で乗り降りできるので、とても便利です。基本的には皆パスで乗り降りしているので、パスの提示も求められないことがほとんどです。

中央駅の駅前広場から、グリーンベルトがあるアェッシェングラーベン(Aeschengraben)を5分ほどライン河の方向(北側)に歩くと、旧市街の東にあ
るAeschenplatz広場に出ます。Aeschenplatz駅にはトラムが6系統(3、8、10、11、14、15番)、バスが3系統(41、70、80番)でも行けます。スイスの建築家マリオ・ボッタ(Mario Botta、1943-)設計になる『国際決済銀行別館』(Verwaltungsgebäude der BIZ、1995年)の円形の建物がそびえ立っており、広場の向かい側には、ジョナサン・ボロフスキー(Jonathan Borofsky、1942-)の代表作のひとつ、全高13.5m、重量8tの『ハンマーを打つ人』(Hammering Man、1989年)が置かれています。

ジョナサン・ボロフスキーの『ハンマーを打つ人」はマリオボッタ建築に向かって左側方向に道を渡り直進100m先にあります。
ジョナサン・ボロフスキーの『ハンマーを打つ人』はマリオボッタ建築に向かって左側方向に道を渡り直進100m先にあります。
 
舞台芸術の中心
『バーゼル市立劇場』

では、トラム6、10、16番のTheater駅下車で、『バーゼル市立劇場(Theater Basel)』へ行ってみましょう。

バーゼルにおける舞台芸術の中心で、秋から春にかけてのシーズン中は、オペラや演劇が次々と上演されています。 前庭には、スイス出身の美術家ジャン・ティンゲリー(Jean Tinguely、1925〜1991)の手になる噴水『謝肉祭の噴水』(Fasnachts-Brunnen、1975-77)があります。この作品が特に有名なので、市立劇場というと、通常はこの作品しか紹介されない傾向がありますが、実は劇場周囲や屋上に多くのパブリック・アートが設置されています。

バーゼル市立劇場

『バーゼル市立劇場』前のジャン・ティンゲリー噴水。夏はなかなか良いです。
『バーゼル市立劇場』前のジャン・ティンゲリー噴水。夏はなかなか良いです。
 
 
中世から近現代までの西欧絵画のコレクションが充実
『バーゼル市立美術館』

続いて、Kunstmuseum駅(トラム2、15番)またはBankverein駅(トラム3、8、10、11、14番)下車で、『バーゼル市立美術館(Offentliche Kunstsammlung Basel、通称Basler Kunstmuseum)』に行くことができます。1671年に開設された世界最古の公共美術館の1つです。印刷業などで財を成したアマーバッハ家(Amerbach)のコレクションをバーゼル市が購入し公開したものを基としており、アマーバッハ家が支援していたハンス・ホルバイン(Hans Holbein der Jüngere、1497/8頃-1543)の代表作『死せるキリスト』、『画家の家族』をはじめ、中世から近現代までの西欧絵画のコレクションが充実しています。2016年に新館企画展示棟が竣工予定で工事中です。

夕暮れの『バーゼル市立美術館』外観。古風な石造りの建築が美しいです。
夕暮れの『バーゼル市立美術館』外観。古風な石造りの建築が美しいです。
『バーゼル市立美術館』の中庭。オーギュスト・ロダン『カレーの市民』などが設置されています。
『バーゼル市立美術館』の中庭。オーギュスト・ロダン『カレーの市民』などが設置されています。
 

『バーゼル市立美術館』はすぐそばにある『『バーゼル現代美術館』 (Museum fur Gegenwartskunst) 』とは姉妹関係にあり、入場券が共通で、『バーゼル市立美術館』が所蔵する同時代美術も『バーゼル現代美術館』に展示されています。『バーゼル現代美術館』は、1980年に開館した1960年代以降の美術を専門に展示する美術館としては世界で最も歴史のある美術館の1つです。2つの財団(Emanuel Hoffmann Foundation、Christoph Merian Foundation)とバーゼル=シュタット州により共同設立されており、『バーゼル市立美術館』が運営を受託しています。4月6日まで河原温『One Million』 Years – System und Symptom」展を開催中です。

バーゼル市立美術館&現代美術館

 

有名な『バイエラー・ギャラリー』は
『バイエラー財団美術館』に。

なお、『バーゼル市立美術館』から大聖堂に向かう通り(Rittergasse)より繁華街の方に降
りて行くと、以前は有名な『バイエラー・ギャラリー』があり、アルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)作品などを扱っていたのですが、残念ながらオーナーの死去とともに閉廊されました。スイスの有力画商エルンスト・バイエラー(Ernst Beyeler、1921-2010)と妻のヒルディ・バイエラー(Hildy Beyeler、1922-2008)は、数十年間にわたり20世紀の芸術作品(主に絵画と彫刻)を収集し、子がいなかったことから、1982年にこれらのコレクションをバイエラー財団に委ねました。

バイエラー・コレクションの初公開は、スペインのマドリードの『ソフィア王妃芸術センター』で1989年に行われ、レンゾ・ピアノ(Renzo Piano、1937-)設計になる『バイエラー財団美術館』が1997年に開館しました。

印象派からアンディー・ウォーホールまで、著名な芸術家の名品が揃っています。中央駅からは、トラム2番(Badischer bf.行き)で終点バーディッシャー駅まで行き、そこからトラム6番(Riehen Grenze行き)に乗り換えて、Fondation Beyeler駅で下車、所要30分
程度です。絵画を中心に扱いながらも、自然光を積極的に取り込んでおり、廊下から美術館裏手に広がる広大な畑を眺めることができます。

『バイエラー財団美術館』

『バイエラー財団美術館』。右端が入口で左側奥は畑です。
『バイエラー財団美術館』。右端が入口で左側奥は畑です。

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ドイツ国境近くにある『バイエラー財団美術館』からは、近くのドイツ領ヴァイル・アム・ライン(Weil am Rhein)にある『ヴィトラ・デザイン・ミュージアム』(Vitra Design Museum)へもハシゴすることが可能です。入国審査などは必要ありませんが、使用通貨がスイス・フランからユーロに変わるので注意が必要です。『バイエラー財団美術館のパンフレットにも『ヴィトラ・デザイン・ミュージアム』への行き方が書いてありますが、『バイエラー財団美術館』近くのバス停からバスに乗り10分程で『ヴィトラ・デザイン・ミュージアム』の最寄のバス停に着き、そこから歩いて10分程です。運営主体であるヴィトラ(Vitra)社は、椅子などで知られるドイツの家具メーカーなので、ガイド付き工場ツアーや安藤忠雄のセミナーハウスツアーも1時間毎(毎時定時)に用意されています。

『ヴィトラ・デザイン・ミュージアム』

 

『ティンゲリー美術館』(Museum Tinguely)は、マリオ・ボッタ(前出)により設計され1996年に開館した、ジャン・ティンゲリー(前出)の作品を展示した美術館です。廃材等を利用した機械仕掛けの彫刻で世界的に知られる美術家だけに、不思議な機械や作品で満ち溢れています。展示作品の多くは足元のボタンを踏むと動きます。ライン川沿いに建っているので、館内のプロムナードからはライン川を一望出来ます。ライン川を中央駅から反対側に渡った、メッセに行く途中の場所にあるので、メッセとその周辺のギャラリーを併せて周遊すると良いでしょ
う。

『ティンゲリー美術館』

『ティンゲリー美術館』の庭。ここにも噴水彫刻があります。
『ティンゲリー美術館』の庭。ここにも噴水彫刻があります。
『ティンゲリー美術館』の外観。
『ティンゲリー美術館』の外観。
 
バーゼル・フェアとして知られる
『バーゼル・メッセ』

『バーゼル・メッセ』(Messe Basel)へは、Messeplatz駅(トラム1、2、6、8、15番)下車で行くことができます。大規模な展示会に際しては中央駅から臨時便が運行されます。消費生活用品見本市(通称MUBA)、時計と宝石の見本市(通称Basel World<日本では何故かバーゼル・フェアと呼ばれています>)、『アート・バーゼル』(前編参照)などが重要な商談の機会となっています。なお東京ビッグサイトや幕張メッセと同じく、いつでも開場しているわけではなく、一般入場可能な展示会の開催時のみ入場可能です。

メッセ広場駅に行くと、周り中がメッセの建物で、その中にレールが走っているので方向感が判りにくいです。拡大地図必携です。
メッセ広場駅に行くと、周り中がメッセの建物で、その中にレールが走っているので方向感が判りにくいです。拡大地図必携です。

『バーゼル・メッセ』

メッセ広場では花屋だってギャラリーです。ブルーメンインセルの一階花屋コーナー。.
メッセ広場では花屋だってギャラリーです。ブルーメンインセルの一階花屋コーナー。.
ブルーメンインセルの2階ギャラリーコーナー。日本人作家のグループ展をやっていました。
ブルーメンインセルの2階ギャラリーコーナー。日本人作家のグループ展をやっていました。

なお、本コラムに掲載した情報は筆者が訪問した時点の情報ですので、トラムやバスの番号は現在と異なっている可能性もありますので、ご留意ください。バ-ゼルは世界の美術の中心地のひとつなので、他にもたくさんの施設がありますから、ぜひ開拓してみてくださいね。