from パリ(たなか) – 80 - 冬時間、公園を散歩して、パン屋へ寄って。

(2010.11.15)
マロニエの茶色の葉から、ハート形の黄色い葉へのグラデーション。

水煮牛肉という四川料理があるらしい。名前からのイメージは冷たいしゃぶしゃぶ?みたいだが、とんでもない激辛の鍋料理のようだ。10月最後の日曜日、この料理を由紀子さんが作ってご馳走してくれるということになり、辛いもの好きの細木さんとお邪魔することになった。食べるだけではなんだから、庭の落ち葉掃きでもやりましょうと、先月のブドウ摘み隊が復活再編、じゃ5時頃にということで、私は時間通りに行ったのだが……、なんか変。世の中は、この日から冬時間に変っていたのだった。

この時期にしては暖かい一日で、セーターを脱いで塀の外に散らかった落ち葉を集め、庭ゴミ専用の大きな紙袋に詰める作業を繰り返すうちに汗ばんでくる。ちゃんと冬時間の5時に来た細木さんより長く働いた分お腹もすいて、おいしい料理がたくさん食べられるから、まあ良しとしよう。今朝はテレビもつけなかったからなあ、去年は間違えなかったのに。稲葉さんちの黒猫も、いつもの晩ご飯の時間になっても貰えなくて、催促のポーズ。今日から1時間遅くなるんだから、と言い聞かせても無理だよなあ、人間の都合で変えたんだから。それはともかく、水煮牛肉のスープの辛みは花山椒、豆板醤、唐辛子、ラー油などで出すそうです。パリの中華街へ行くと調味料が安く手に入るそうだ。ご飯に乗せて食べると、辛みが旨い、元気が出そう。先日、中華街で食べたウサギ鍋よりも辛かったかな、晩ご飯でまた汗かいちゃった。

11月1日の祝日をはさんだ前後の週は、学校が休みになる秋のヴァカンス・シーズンなのに、パリは天気がいまひとつスッキリせず、どこか出かけようという気分になれない。ご近所だけど、リュクサンブール公園にでも行って見ようかと重い腰を上げる。いつもとはコースも変えて、サン・ミッシェル大通りの東側入口から入ると、マロニエ並木の葉は殆ど落ちて公園の中が明るくなっていた。久しぶりに落ち葉掃きの経験をしたばかりの私は、この広大な公園の掃除が心配になる。芝生や花壇にマロニエの枯れ葉は落ちたままだし、遊歩道と芝生の境目がわからないほど積もっている場所もある。マロニエの枯れ葉って不細工で、風情ないんだよなあ。若葉の季節はあれほど爽やかだったのに。栗のような大きな実も、ボトボト落ちて頭にでも当たると痛そうだし。
 

写真を撮っていたら、足元を黒い小動物が駆け抜けたのでびっくりした。いつ来ても東京の駒沢公園ほどは散歩の犬を見かけないのが意外だ。
夏の名残の花も、趣がある。遠方左のドームはカルチェラタンのパルテノン。
どこもかしこもマロニエの落ち葉だらけ。こういう菊の植え方もあるんだ。

夏の間、園内のあちこちに散乱していた無数の鉄椅子も、どこかへ集められたのか影を潜め、スッキリはしたものの何か寂しい。とはいえ、据え置きのベンチには必ず誰かが座っていて、寒くなってもフランス人は屋外が好きなんだなあと感心する。テニスコートやブランコがある公園の西側は、葉っぱが桂のような丸いハートの、なんという木なのだろう、並木の下は散ったばかりの黄色い葉が一面に広がって、明るく光っていた。黄葉した樹々の海の中、夏の間は目立たなかった回転木馬の緑のテントの下は、子どもたちでいっぱい。背の高いプラタナスが自然のドームになっているペタンク広場は、おじさん達の静かな熱戦の舞台。金属球の当たる鈍く乾いた音が響くたびに、公園の静けさが際立つ。それにしても、ペタンクって中年男性(いや、老人?)のみが熱中するゲームなのかな? 女性がやっているの見たことない。重そうな金属の玉を投げるのに腕力がいりそうだけど、女子の砲丸投げだって陸上競技にあるしなあ。
 

メディシスの泉で泳ぐ水鳥は、なかなかいい位置で止まってくれない。
十二角形?のあずまや?の、レースの裾のような軒下飾りが美しい。
黄色い樹海に沈んで隠れているような、回転木馬の緑のテント。

 

プラタナスの屋根の下は、オヤジの楽園。
火砕流のようなマロニエの枯れ葉群。気にせず座って、話でもしようや。

のんびり散歩して、小腹も空いたので、このまえ由紀子さんに聞いたパン屋へ寄って帰ろうと思いつく。公園の南側から出て、東へサン・ジャック通りあたり、肝心の店の名前は忘れていたが、たぶんこの店に違いないと思われるこじんまりしたパン屋を発見。ショーウィンドウの大皿に菓子パンが並んでいる雰囲気が、いかにも美味しそう。夕方だったので、大皿の中は空になりかけていたが、ドアを押して店内に入る。40前後の、いかにもパン職人といった風情の店主に挨拶して、クロワッサンとパン・オ・ショコラ、シトロン・ココ、3個買っても5ユーロからお釣りがきた。家に帰りカフェオレをいれて、気になっていたシトロン・ココを早速食べる。レモンクリームのパイにココナツが乗っていて、意外な組み合わせが新鮮。パン生地はむっちりと密度があって、小さいけれど食べ出がある。強めの焼き加減のクロワッサンは、晩ご飯前だし、半分にしておこうか。
 

広く真っ直ぐなサン・ジャック通りが、ちょっと曲がって細くなったあたり。
パンもいいが、大皿も欲しくなる。でも骨董屋じゃなくて、パン屋です。