池田美樹, 池田美樹のLOVE♥ CITY WALK会話しながらお買い物がうれしい、近所で見つけた個人商店。

(2008.07.08)

 皆さんの街には商店街があるだろうか? 私の住んでいる街にはなく、駅から自宅まで徒歩10分の上り坂の途中には小さなコンビニが1軒だけと、とても不便な生活をしている。ちなみに最寄りは山手線の駅。便利だと思われている都心である。周囲は住宅街だ。

 食事の材料を買いに行くスーパーにも徒歩15分かバス利用。ふと思い立ったときに何かを買いに行ったりするには遠いし、風邪で寝込んだりして備蓄食糧が切れそうになると、どうしようかと体調以前に思い悩む。

 そういうときはネットスーパーを使っている。私が主に利用しているのは「西友ネットスーパー」。ネット上でバーチャルなカゴに商品を入れていき、カードで精算を済ませると、その日のうちに届けてくれるのでとても便利だ。ちなみに配送料は500円なので、バス往復とそう変わりはない。

 先日、久しぶりに何も予定を入れていなかった土曜日、近所をぶらぶらと散歩してみた。駅から離れた方向に行ってみたり、路地を入ってみたり。そこで、蔵のような佇まいの建物を見つけた。暖簾がかかっている。質屋? ギャラリー? 近づいてみると「こめや」とある。なんとそれは、お米の専門店だったのだ。

 すだれの奥をのぞいてみると、大きな精米器が動いていた。米袋が積み上げられている。とても一般商店には思えなかったけれど、「こんにちは」と声をかけてみた。しばらく待つと、奥から初老の男性が出てきた。

「このお米、私も買えるんですか?」と聞くと、「大丈夫ですよ。100グラムから量り売りします」。自宅の米が切れていたこともあって、さっそく買ってみることにした。「新潟産、茨城産、栃木産を扱っているけれど、どれがいいですか?」と聞かれたので、「おすすめのものを」と言うと、「じゃあ新潟産を」と選んでくれた。「毎日、食べるわけじゃないので、少なめに買いたい」と、私の食べるペースを話すと、じゃあ1キロでよかろう、ということになり、計ってくれた。

 帰り際、「これからの季節は、冷蔵庫に入れておくといいですよ。虫が付かないし、ある程度長持ちするから」と店主らしき優しそうなおじさま。「へえー。冷蔵庫に保存ですか。知らなかった!」と私。店を出るときは、自然に笑顔になっていた。

 しばらく歩くと、道ばたに何人かの人が寄り集まっている気配がする。近づいてみると、そこは魚屋と八百屋と果物屋が並んだ一角だった。小さな店はくっついて建っており、よく見ると一軒を区切っただけなのだ。老夫婦と、息子夫婦らしき4人がせっせと作業をしている。数人のお客さんが品定めをしている。

「らっしゃい!」と声をかけられて店先をのぞいてみると、様々な季節の野菜や魚が並んでいる。よし、今夜のおかずをここで買おう、と、冷蔵庫に入っている材料を思い出し、頭の中で献立を組み立てて、足りない野菜や豆腐、ぬか漬けなどを買った。

「アスパラはありますか?」と聞く私に、「はい、これ、今朝入ってきたアスパラ。もうこれが今年の最終便かもしれないね」と息子らしき人物。「お店の写真を撮ってもいいですか?」と聞くと、「写真が好きなの?」と老婦人。

「はい、好きです」と答えると、「写真が好きなの、そう、いいわねえ、感受性が豊かな証拠ね」。実は告白すると、こう言われて思わず泣きそうになった。誰かにこんなことを言われたことなんて、もう久しくなかったことだったから。なんだかうれしかったのだ。

 米と野菜の袋を下げて、気分よく自宅へ向かった。商店街がなくても、近所にこんな店があるんだな。昔はきっと、もっとたくさんあったんだろうな。ネットのクリック1回で玄関まで届けてくれるネットスーパーの便利さも捨てがたいけれど、お店の人とこうやって話しながら買い物できるって、なかなかいいものだな。

 故郷を遠く離れて暮らしている私が、この都心の街をちょっとだけ、地元と呼んでもいいような気がした1日だった。夕食のとき、窓辺に風鈴を釣り下げた。今年の夏がはじまる。

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「こめや」の店先。ひねりのない店名がさすが! の貫禄。

「こめや」さんの奥。大きな精米器と、積み上げられた米袋。

つきたての新潟のお米1キロ630円なり。

歩道にせり出す「魚や・八百屋・果物屋」。ちなみに2階が自宅なのだそう。

計算はなんと、この巨大ソロバンで!

散歩の途中で出合ったアジサイの花。