米どころ山形。創業100年を超える老舗料亭のおもてなし。

(2010.12.02)

農村風景への憧れ

少し前のことだが、東京にあるホテルのゲストリレーションの人の話を聞いた。外国人からの問い合わせや要望で多いのは「休日にボランティアをしたいのだがどこでできるか」ということ。もうひとつは、「田園風景」が見たいのだということだという。

後者について。そう言われてみれば、海外旅行からの帰路、機内で、「間もなく成田空港へ到着します」のアナウンスとともに眼下を見下ろし、土色、薄緑色、青緑色と、辺り一面に広がる田畑で季節を感じ、「ああ、日本に帰ってきたんだな」とほっとするものだ。

山形県の農家や研究者が十年余りもの期間をかけ開発し品種育成に挑戦してきた新品種のお米「つや姫」が今夏デビューした。炊きあがりの際の白い輝きと冷めても美味しいということで、県をあげてプロモーションに力を注いでいる。都内のスーパーでも見かけるようになってきた。早速購入。確かに冷めても美味しい。

そんな米どころ山形。昨年から外国人の友人たちから問い合わせをよく受けるようになった。「おくりびとを巡る旅をしたいのだが……」「おしんの軌跡を辿るため山形に行きたいのだが……」といった具合に。映画やドラマのストーリーももちろんだが、どうやら、要所要所に映し出される田園風景に心打たれ、訪ねてみたいという気持ちになるという。

やまがた舞子に惹かれ、山形市内の料亭へ

友人に聞かれる機会が増え、山形のことを調べていた。映画『おくりびと』だけではなく、『武士の一分』『たそがれ清平衛』など多くの作品のロケ地ともなり、ミシュラン・グリーンガイドでも星を獲得し紹介された名所が多い鶴岡・酒田周辺。米沢牛で知られる米沢地区。最上川の舟下りなどの新庄地区。そして開湯1900年の蔵王温泉をはじめ、銀山温泉などの温泉地や松尾芭蕉縁の地として知られる山寺がある山形地区……むむっ! このやまがた舞子って何だ!?可愛いじゃないか! ということで、やまがた舞子に惹かれ、山形新幹線で東京から約2時間30分、山形市内の料亭へ!

山形市内には、明治初期に創業の老舗料亭が今も残る。山形は紅花商人が京都や大阪などへ行き来していたことから栄えていたが、山形市が県の中でも政治・文化・経済の中心だった。料亭の繁栄とともに、そこで活躍した芸妓の数も最盛期には約150名とのこと。しかし現在ではわずか10数名になってしまった。そんなことから平成8年に観光協会や商工会議所、市内の企業が力を合わせ、伝統芸能後継者育成との意を込め、通称「やまがた紅の会」を設立。やまがた舞子が誕生した。

やまがた舞子になれるのは18歳以上。試験と面接で選ばれるそうだ。合格の基準を訪ねると、「まっさらな状態の子がよいので、踊りや唄、一切未経験者な方がよい」という話を聞いた。伝統芸能後継者として採用されると踊りや唄、三味線などのお稽古をしてお座敷に出る。観光関係のイベントなど、海外に出かけて芸を披露する機会も多く、来年度は外国語が堪能な舞子を採用したそうだ。現在6名の舞子がいるそうだが、何名かに話を聞く機会があった。

「修学旅行で訪れた京都の舞妓さんに憧れて、県内でやまがた舞子があると知りなりたいと思った」「山形の観光地で働いていたが、山形の魅力をより多くの人に伝えたくてこの道を選んだ」といった話を聞いた。

初代やまがた舞子から芸妓に転身し活躍している人もいるそうだ。


料亭文化は日本文化

市内にある料亭のひとつ創業明治6年の老舗『のゝ村』へ。旬の素材を厳選し、山形の郷土料理などを盛り込んだ日本料理をいただく。木造三階立ての日本家屋は桜の木を取り囲むように建つ。季節毎に変わる庭園も見事だが、夏と秋に二回訪れたのだが、床の間の掛け軸にかかる絵が変わっていた。聞けばこの部屋だけではないそうだ。一度しかこなければ気づかなかったかもしれない。また掛け軸になど目を向けない人もいる。それでも季節毎、お座敷毎に部屋の装飾から料理に至るまでの心配りがおもてなしなのだ。

創業明治6年の老舗『のゝ村

『のゝ村』とは趣が異なる『千歳館』は、大正ロマンを感じる鹿鳴館調の建物が個性的。魚問屋を営んでいた初代が料理旅館を明治9年に開業したが、大火の後再建されたのだ。2000坪の敷地には日本庭園と茶室もある。

市内喧噪から離れた国分寺薬師堂の東方に位置する『亀松閣』は、明治天皇の山形行幸の際、行在所として作られた建物だ。色とりどりの鯉が悠々と泳ぐ池を望む眺めもよい。

もうひとつ『あげつまは、旅籠業も兼ね、大正11(1922)年に山形で初めてのうなぎ・川魚料理専門店として開業した。店の周囲は14の寺院が並ぶ旧寺町で。山形五堰のひとつ御殿堰が流れ、蛍も現れるそうだ。中庭には大きな柳をはじめ、四季の花が咲く。

いずれも、リクエストすればやまがた舞子に会える。

大正11(1922)年に山形で初めてのうなぎ・川魚料理専門店として開業した『あげつま

市内観光名所は、芭蕉の句で知られる山寺 宝珠山・立石寺、旧県庁舎の『文翔館』などあるが、かつて宝幢寺の庭園だった紅葉の名所「もみじ公園」が好きだ。池泉回遊式の古庭園で、心の文字をかたどった池の周りには、秋になると紅葉など季節ごとに情緒がある。

敷地内には、国の登録文化財である清風荘や茶室『宝紅庵』が併設されている。京都の北山杉など厳選された建材と数寄屋造りの技術を用いて建てられた茶室は流派を問わず、今も茶会や茶道のお稽古に使われている。茶庭には、三井物産の創設者であり茶人の益田鈍翁が愛用していた石灯籠などがある。観光客でもよいからと誘われ、たまたま開かれていた月釜に参加させていただいた。貴重な経験だったが、まったくの勉強不足の自分には冷や汗ばかりだったが。

料亭で舞子さんの踊りをみる……なんて、東京都内ではちょっとできない贅沢だが、山形でならできる。ランチではあるが山形舞子御膳5800円プランなどもある。

photos / Sodo Kawaguchi , Yuji Tozawa

大正五年に建てられ、国の重要文化財にも指定されている『文翔館』。
『文翔館』は中庭やギャラリー、会議室などを一般貸出しており、コンサートや展覧会をはじめ、結婚式で利用する人もいる。
山寺 宝珠山・立石寺の参道の途中にある阿弥洞。岩の陰影により仏様の姿が見えるとも。

のゝ村 Tel.023-641-0515(要予約)、山形市七日町4丁目1-6
千歳館 Tel.023-622-2007(要予約)、山形市七日町4丁目9-2
亀松閣 Tel.023-631-3644、山形市薬師町2丁目8-81 
あげつま Tel.023-631-2738(要予約)、山形市緑町3丁目7-48

山形料亭ツアーへの問い合わせ
株式会社いい旅 Tel.03-5405-4053
株式会社アイフィス Tel.03-5395-1201