from バスク – 13 - バスクの神話と魔法と伝説。

(2010.04.22)
アタウンの村。

スペインのギプスコア県とナバラ県の境界、ゴイエリ地方には山に囲まれた、アタウン(Ataun)というごく小さな村があります。長い渓谷に沿って拓かれた集落はナバラに続く道となり、バスク語でATEA-戸口から名前ととったそうです。

さて、今回は数多く残るバスクの神話ともなるアタウンをモバイルナビの神話説明を聞きながらルートを巡るという、今開発中の摸擬体験を皆様にお話したいと思います。

ルートは今の所4種類、少しハイキングしたいという人向けや、トレッキング、山登りがてらにとちょっと坂のきついコースもありますが、今回私たちがしたのは小一時間のJentil Baratzaコース。

出発地点は村の中心のSan Martin広場、そこにあるSan Martin 教会はバロック様式。

広場にある San Martin 教会、ここからルートが始まる。

神話によると、アタウンに住んでいたキリスト教の村の人々が教会を作るために岩を切り砕いた石を、当初建設予定のメンディオラ丘の上に運んでいました。けれどもその運んだ石は次の日には丘の下の河の近くに移動していると言うのです。それが何度も続いたので、訝しがった村のサインデギ家の女が夜更けに窓から見張りをしていました。すると多くのヘンティル(Jentil/バスク神話の登場人物、ギリシャ神話ではギガースにあたる。巨人で力持ち、人間に似た容姿を持ち呪詛を唱える力も持っていた)が石を運んでいるではないですか。ふと、その女に気付いたヘンティルの一人が「赤い石やら白い石やら、女がこんな夜更けに見てはならぬ物をみたな。」と言ったのです。その瞬間、女は片目を失明してしまいました。そのような事がありましたので、村の人はヘンティルの意を尊重して現在の場所に教会を建てたそうです。

なぜ、ヘンティルはメンディオラ丘に教会を建てて欲しくなかったのでしょうか? ヘンティルは遥か昔からその地に住んでいたのでキリスト教の人間が住み始め、ましてや教会などをどこからでも見える高い丘の上になど建てられたくなかったのです。 そんなヘンティルとキリスト教の村の人々、対立する事も多かったけれどもCasa de Agerre(アゲレ)の農家では村の人々とカード遊びをニワトリが鳴く時間まで過ごしたりするヘンティルも少なくはなかったといいます。

そのようなアタウンの神話や伝説の多くは口承で、まさに大人が子供に聞かせ、それが又その子供へと細かなディティールは時代によって変えられたとしても、大まかな筋は残され、何年もの間続いてきたのです。

それをひとつの文化として認め、人々が忘れ去ることのないようにと、残る限りの話を集めるのに人生を費やした人がJose Miguel Barandiaran。彼はこの地に生まれ育ち、文献や資料、歴史的価値のある物を集め、バスク神話の保護に大きく貢献しました。その結果、現在アタウンにMuseo Mitológico(神話ミュージアム)が開設される予定。このミュージアムには、神話の解説の他、音や映像、匂いを体験できるブースもあり、バスク初として期待も大きいそうです。

皆様も魔女や妖精、ヘンティルの住んでいた場所を訪れ、その豊かな自然や文化に触れる週末というのもいかがでしょうか。

モバイルナビを使う説明。現在開発中で1、2年後にはツーリストオフィスで貸し出しもできるようになる予定。Jentil Baratzaルートは子供連れでも大丈夫。
当初教会の立つ予定だったメンディオラの丘、現在はお墓になっている。
道々で出くわす山羊たち。他にも、牛や羊なども放牧されています。
ヘンティルと村の人たちが夜な夜なカード遊びをしたというCasa de Agerre のCaserío (農家)。
魔女除けとして入り口に飾られているEguskilore。バスク語で太陽の花という意味でピレネー山脈でしか生えていないそう。
San Martin 広場。真ん中にある建物は市役所で、入り口を入った所にはバスク彫刻家のAitor Mendizabal の作品が見られる。