from 山梨 – 21 - 山梨紅葉便り~山梨市~
清流とトロッコ軌道の西沢渓谷。

(2011.11.02)


 

日中に汗ばむことがあっても、朝晩にはきっちりと気温が下がり、街中の街路樹もあちらこちらで色づいてきた今日この頃。
10月29日の土曜日に、山梨県山梨市にある西沢渓谷を歩いてきました。
西沢渓谷は、奥秩父山塊を中心とした埼玉、東京、山梨、長野の一都三県にまたがる『秩父多摩甲斐国立公園』の一部。
とうとうと流れる渓谷の清流沿いに整備されているトレッキングコースはこの季節、見事な紅葉で訪れる人々を迎えてくれます。
 
登山に比べればさほどの高低差もなく、一周3~4時間で気軽に楽しめるハイキングコースとして紹介されている西沢渓谷ですが、コースの途中には危険なところも結構あるんですよね。
濡れた岩をよじ登るところや、鎖につかまって水の流れる岩場を歩くところ、水の多い時には沢の水に靴を入れなきゃならないところもある。
勢い良く流れる川の横に設けられている歩道は狭く、人と人がすれ違うこともできない箇所も多いために、途中で引き返すこともままならない。
公園を散歩するような気軽さで歩くところではありません。

竜神の滝。
七ツ釜五段の滝。



 

西沢渓谷を散策される皆さんへ。

渓谷への入り口にあるトイレ横の掲示板には、
 
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◇ 西沢渓谷を散策される皆さんへ ◇
渓谷はハイキングコースであっても登山です。次の点に注意して散策をお楽しみ下さい。
◇サンダル・ハイヒールはダメ!岩場、砂地が多い渓谷です。履き物は運動靴か登山靴で散策を!
◇渓谷内は譲り合いましょう。渓谷内の遊歩道は狭く、渓谷は深いので、ぶつかりあって転落等の事故に遭わないように注意しましょう。
◇川淵の石や岩には上がらないでください。岩は苔や水で滑りやすくなっています。淵に転落すると水流で岩下に押し込まれて浮上できません。
◇美しい景色を見るために脇見をして転落する事故が発生しています。足もとをしっかり確認して、散策を楽しんでください。
◇犬などのペットを連れての散策はご遠慮下さい。渓谷内遊歩道は狭く転落の危険があります。また、ペットを怖がる方もいます。
◇渓谷内はトイレがありません。
 
緊急時連絡先
日下部警察署 0553-22-0110
山梨県観光課 0553-39-2121
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という張り紙が掲示されています。
いつも「ここへ来てからこの張り紙を見てもどうすることもできないだろうに」と思っていたので、この機会に転記してみました。
 
日々の生活の中では様々な仕組みや装置に守られて気付かないままやりすごしている身の回りの危険も、自然の中では自分で予知して事前に防ぐための注意と努力が必要です。
危険な目に遭っても、人のせいにはできません。
そういう意味では、比較的気軽に楽しめる西沢渓谷のようなところを歩きながら、日常の暮らしですっかり退化してしまった危険予知能力を少しずつ磨きなおす時間は、現代人にとって必要な時間かもしれません。

鎖につかまりながら、濡れて滑りやすくなった石の上を登ったり降りたり。
遊歩道は川のすぐ横。


 

川沿いの遊歩道を歩く前半。

この記事トップにある画像を拡大表示していただくとわかるように、西沢渓谷は川の周囲をぐるっと周るように遊歩道が設けられています。
コースは大きく前半と後半に分かれていて、前半は音を立てて流れる変化に富んだ川の流れを左手に見ながら、川沿いの遊歩道を登るようにして歩きます。
『滝の上の展望台』で折り返すようにして、後半は『三塩軌道』という名称のトロッコ軌道跡をゆっくりと下りながら戻ってきます。
前半、歩き始めてまず目を奪われるのが、エメラルドグリーンの水の色。
遊歩道にある説明パネルでは、西沢渓谷の水がエメラルドグリーンである理由について
 
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澄んだ渓流の水に光があたると、波長の短い青い光が散乱すると同時に、水中を通り抜けた光が水底の白い岩石(花崗閃緑岩)に反射して返ってきます。その間、赤い光は水にすべて吸収され、残った青や緑の光は水中で散乱するためエメラルドグリーンに見えるのです。
この渓谷の水は、上流域の2千ヘクタールに及ぶ森林地帯に降った雨水が、豊かな森の土壌と花崗岩の砂礫できれいに濾過されたものです。
また、ここにはイワナ・ハコネサンショウウオなどの水生生物が生息しています。
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と説明されています。
季節や天候や時間、そして水深によって変化する水の色は、何度行っても飽きない西沢渓谷の魅力のひとつです。

岩のくぼみにはめ込まれた宝石のようなエメラルドグリーン。
初夏にはツツジのピンク色が水の色に映えて美しい。


 

トロッコ軌道跡を歩く後半。

『滝の上の展望台』を過ぎてトロッコ軌道跡に入ると、ここからはずっとなだらかな下り坂が続きます。
西沢渓谷がある山梨市は2005年3月に、(旧)山梨市、東山梨郡牧丘町、三富(みとみ)村が合併して誕生した市。
西沢渓谷はかつての三富村に位置しています。
トロッコは木材搬出に使われていたもので、遊歩道の途中に設置されている説明パネルには
 
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トロッコの由来
 
 このトロッコ軌道跡は、三富村と塩山駅を結ぶ三塩軌道と称し、昭和八年~昭和四三年まで、主に西沢・東沢一体の県有林の木材搬出に活躍したものです。
全長は三六キロメートルで、自然勾配をせび(ブレーキ)だけで塩山駅まで下り、登りは馬で二台づつ引き上げていましたが、昭和二〇年頃からはディーゼル機関車で六~八台を広瀬ダムの対岸にあった中土場(なかどば)まで運び、そこから奥一六キロメートルは、馬に頼っていました。
 木材搬出の行程は、伐採を専門とするものと、積子(つみこ)といって丸太をトロッコに積む者、及び、運材夫といって中土場まで運び、これを塩山駅まで運ぶ業務をそれぞれ分業で行っていました。県有林からの木材搬出の合間に、民間の者も炭・薪・繭(まゆ)等の搬出、米を始め、あらゆる生活物資の搬入に、このトロッコを利用していました。
 これらは、軌道使用料条例によって、塩山林務事務所が発行する切符により、その荷重と距離により使用料が定まっていました。三塩軌道は、戦後の食糧難等、幾多の危機を乗り越えて、昭和三七年頃まで全盛を続けていましたが、やがて国道が整備され自動車輸送に変わり、いつしか衰退し、昭和四一年、中土場~塩山駅間の軌道は撤去されました。
 かつては、戦前黒金山の鋼鉱採掘による鉱石運搬・また鶏冠山から採掘された硅石(けいせき)の運搬は最後まで行われていましたが、昭和四三年その歴史を閉じました。
 
山梨市
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と書かれています。
遊歩道には当時のレールや枕木がそのまま残っている箇所も多く、また、あちらこちらのポイントには例えば、彦一さんが転げ落ちてしまったからという理由で名付けられてしまった『ひこいっちゃんころばし』などといった、敷設や運用当時の苦労をうかがい知ることのできる名称が残っています。
西沢渓谷の後半は、木材搬出で栄えていた当時の様子を想像しながらのんびりと歩くことのできる、前半とは全く趣の違うのんびりとした遊歩道です。

トロッコのレールの上を歩く後半の遊歩道。
遊歩道の途中に最近置かれた、トロッコを再現した展示。



 

無条件に人間を甘やかしてくれる自然なんてない。

3月11日の震災では、遊歩道のあちらこちらで落石や崩落がありました。
しかしそれも時間と共に、なるようになっていくのが自然。
5月に歩いた時にはまだ震災の爪あとも生々しかった崩落箇所も、なんとなく馴染んでおさまり始めているようでした。
とはいえ、遊歩道のあちらこちらには『落石注意』の表示が新たに設けられていたり、鎖や柵が新設されていたり。
西沢渓谷は気軽に楽しめるとても気持ちの良いハイキングコースですが、訪れる人を甘やかしてくれるところではありません。
無意識のうちにいろいろな物事を他人任せにしてしまいがちな日常と一線を画すと意識して初めて、気軽に楽しめるところになるのだと考えたほうが良さそうです。
海も山も川も、自然というのはいつでもどこでもそういうものですね。
さて、肝心の紅葉はと言うと、ほんの少し早かったみたいです。
紅葉は今週いっぱいが見頃になりそうです。
 

今年の5月には、3月の震災で崩落したところがそのまま残っていました。
トロッコ軌道跡の周囲は日中日陰になっているところが多く、木々の色彩もぐっと落ち着いています。


西沢渓谷
http://www.city.yamanashi.yamanashi.jp/sight/climb/ravine/nishizawa.html