from パリ(たなか) – 76 - 白夜祭り(NUIT BLANCHE)のパリ。

(2010.10.18)
各国語のメッセージに彩られた夜の市庁舎前広場。

10月2日の土曜の晩から翌朝まで、パリはニュイ・ブランシュ(NUIT BLANCHE)という、言ってみれば白夜祭り。パリ市の主催で、市内100カ所ちかくの公園や学校、美術館、教会、区役所、橋の上、通りの壁面などでいろんなアーティストのイベントが夜通し見られるらしい。パリ市のホームページを開くと、動画で今年のアート作品をいくつか紹介していた。面白そう。無料というのもいいし。朝のうちの雨も午後には上がり、まずまずの白夜日和とでも言うんだろうか、夕方とりあえずパリ市庁舎までロケハンに行ってみると、建物前面にネオンサインが点灯し、すでにお祭り気分だ。広場では公式ガイドブックも配っている。新書版サイズ100ページカラーの立派な本で、パリはこういうことには気前がいい。早速もらう。夜明けまでやっているとは言え、一晩ですべてを見ることは出来ない。どうしたもんか迷っていたら、パリ中央地区8カ所巡りのガイド地図があったので、そのコースに決める。

たそがれ時の市庁舎に、“違いを愛する”というメッセージが世界各国の言葉で書かれていた。
読めたのは、日本語、中国語、フランス語、英語、ドイツ語、くらいかな。
日本語もあった。
ポン・ヌフから見るエッフェル塔、ブレてます。白夜祭りとは関係なく、毎晩正時になると5分間の点滅ショーがみられる。
白夜8カ所巡りのマップ。マレにある1番の歴史図書館から、8番のオテル・ドゥ・ヴィル(パリ市庁舎)まで。

この晩、私は白夜とは関係なく、7時から10区のシャトー・ドーにあるエスパス・ジャポンで、Ky(仲野麻紀のサックスと、弦楽、パーカッションのトリオ)の即興ジャズと、夢枕獏が朗読する“陰陽師”のコラボレーションを聞きに行った。この演奏?がとても良くて、今宵の白夜と関係あるようなないような、安倍晴明が乗り移ったような、当日は闇夜だったが月の明かりに照らされた気分でコンサート会場を後にして、8時半、白夜8カ所巡りの1番札所であるマレ地区の歴史図書館へと向かう。

レピュブリックからマレへ、この界隈の夜道は初めてだったので途中迷ったりしたが、ジャズの心地よい余韻を引きずりながら、やがて3区のピカソ美術館付近、パイエンヌ通りの公園へ9時前には辿り着く。公園の中に木造の小屋が一軒、中から明るい光が漏れている。これも白夜アートイベントの一つ、らしい、たぶん。すぐ向かいにあるスウェーデン文化センター(L’institut suedoise)の中庭にも何やら人だかりがしていたので入ってみる。中空から白い帯状の布が吹き流し状に垂れ、風でゆったり揺れる。そこにプロジェクターからの映像が投影されて、なんだかオーロラを見ているような感じで、すごく解りやすい白夜体験ではある。
 

3区、パイエンヌ通りの公園芝生に、山小屋出現。明るい室内を覗きたくなる。
中空から垂れる白い布に映像が写り、風で揺れるとオーロラのようだ。

夜の暗い中庭テラス、コーヒーとタルトで一休みして、カルナヴァレ博物館を左に見ながら1番スタート地点の歴史図書館へ行ってみると、すごい行列。中庭を覗くと首のないステゴザウルスらしき大型オブジェが見えたが、行列に並ぶ気はしないのでパス。この時点で9時半過ぎ。パヴェ通りをサンポール駅方面へ進み、リヴォリ通りを渡る。案内地図を見ると来た道の途中の2番、3番スポットに謎が仕掛けられているらしいのだが、フランス語がよく読めない。夜道は暗いし、と弁解しつつ、猫道のようなプレヴォ通りからサンス館へ出て、マリー橋でセーヌを渡ってサン・ルイ島へ。このあたりから、何やら大晦日の初詣に向かう人出の様相になってきた。小さなサン・ルイ島が沈むんじゃないかと思うような大混雑。4番スポットのローザン館(hotel de Lauzun)は、すでに30分待ちの行列。大広間か何処かで数台の電気掃除機の吸入口にハーモニカをつけて演奏する、というインスタレーションらしいのだが、これもパス。パリの人は行列を待つのも平気で楽しんでるように見える。私はこんな暗い所で30分も待つのはガマンできない。本も読めないし、一人だし。
 

午後9時半の歴史図書館入口。それにしてもこの行列は、なんだ。
歴史図書館の中庭に現れたステゴザウルス?

薄暗いサン・ルイ・アン・リル通り(5番スポット)は、夜間営業してるアイスクリーム屋の前だけ賑わっている。シテ島へ向かう橋の上で、光と音の派手なイベントをやっているのが見えてきた。表面にネットを張った大きな立方体フレームを積み木のように組み立てて、そこに抽象パターンをプロジェクターで投影する。映像はデジタルな音響とシンクロしていて、キラキラ点滅する光と音がセーヌの上で炸裂して、野外コンサート状態。
 

昼間は閑散としているマリー橋を渡って、サン・ルイ島へ。
サン・ルイ橋の上は、一晩だけの特設野外ロックコンサート会場になっていた。

シテ島へ渡り、人混みの流れに乗って辿り着いたのは、元旦の明治神宮状態のノートルダム寺院広場。ここが6番スポット。やっとちゃんと見られそう。正面の薔薇窓が光っている。ふだん教会の中から見るステンドグラスを、屋外から見る非日常の驚き。中と外、昼と夜、明と暗、日常とは位相が逆転しているのだが、すごく自然に感じるのが不思議。次の7番スポットは、広場横のオテル・デュー病院。ホームページにあった、蛍の光のような幻想的なイルミネーションをぜひ見たかったのだが、ここも最後尾が不明なほどの殺人的な行列で、諦める。いやあ、こんな人出だとは全く予想だにしてなかった。セーヌをもう一度渡って8番(ゴール)の市庁舎前広場へ到着したのは11時前。夕方よりも建物前面のネオンが目立つ。“違いを愛する”“Aimer les difference”というメッセージが、15、6カ国語で表示されている。パリらしい、わかりやすくて、含みのあるメッセージだ。8カ所巡って、2カ所しかちゃんと見られなかった。うーん、なんだか正月の七福神巡りみたいだったかな?

一旦アパートへ戻り、一息入れて、午前一時前にもう一度くり出す。外はすごい人出、お祭り気分最高潮。サン・ミッシェルからセーヌ河岸へ降りて、川沿いの石畳をポン・ヌフへ向かう。あちこちで若者が酒盛りして歌ったり踊ったり、騒いでいる。生暖かい川風が頬に気持ちいい。ポン・ヌフを右岸へ渡る頃にちょうど1時。橋の上からエッフェル塔がキラキラ点滅するのを待ち構えて、じっと眺める。5分間の特別ショーが私は大好きだ。エッフェル塔のライトは消えたが、今宵のパリはこれからなのか、サン・ミッシェル広場周辺のカフェはどこも超満員、広場にこんなに人が出てるの見たことない。バスも地下鉄も路線によって夜通し走ってるし、お楽しみはこれから、なのかな……。オジサンは帰って寝ます。