from 山梨 – 19 - 卯の花腐し その2
~山の緑でちりめん山椒。

(2011.07.12)

前回の記事で灰汁抜きをした実山椒を使って、早速ちりめん山椒を作ります。

ちりめんじゃこと実山椒を炊き合わせたちりめん山椒は、京都のポピュラーな佃煮。
佃煮というと、いわゆる“醤油で煮しめた常備菜”という印象がありますが、薄口醤油を使って炊く京都のちりめん山椒は、例えば昆布と椎茸の佃煮のような色目のものはあまり見かけません。
まして自家製なら、『多くの人の口に合うように』『常温で日持ちのするように』という部分については多少目をつぶり、この季節ならではの緑色を視覚的に十分堪能できるレシピにすることも思うがまま。
というわけで、灰汁抜きにそれほどの念を入れず、ちりめんじゃこと炊き合わせる時にもあまり長くは火を入れない我が家のちりめん山椒には、“実山椒特有のぴりぴりと痺れる刺激”がだいぶ残っています。
「この刺激が良い」と言って毎年楽しみにしてくれている人もいる反面、辛いものの苦手な方や子供さんが召し上がるのはたぶん無理だろうと思いますので、ご注意ください。
大抵の料理にはお店や家庭の数だけレシピがあるもので、そのうちのひとつという事で参考程度にお読み頂ければ幸いです。

 

 

まず実山椒だけを炊きます。

●材料
灰汁抜きした実山椒:大さじ3強
酒:大さじ2(30cc)
みりん:大さじ2(30cc)
薄口醤油:大さじ1(15cc)

●手順
材料を全て小鍋に入れて弱~中火にかけ、少し煮立たせたら火を止めてそのまま放置しておきます。


 

ちりめん山椒を作ります。

●材料
ちりめんじゃこ:160g
酒:3/4カップ(150cc)
薄口醤油:大さじ2(30cc)

●手順
1. 別の鍋に酒と薄口醤油を入れて煮立たせてからちりめんじゃこを加えて、木べら等で混ぜながら弱火で炊いていきます。

2. 若干の水分が残っているあたりで、先に炊いた実山椒の煮汁だけを鍋に加え、さらに炊いていきます。
 
3. 再び、若干の水分が残っているあたりで実山椒を入れ、水分がなくなるまで焦げ付かないように気をつけながら炊いていきます。
 
4. 水分がなくなったら、ざるなどにあけてさまして完成です。保存容器に移して、冷蔵庫で保存します。

煮立たせた煮汁にちりめんじゃこを入れた時点で、その時によっては煮汁が足りないかな、と思うような時もあるので、そんな時はお酒を追加して調整すると良いように思います。




もうひとつの主役、ちりめんじゃこ。

というわけで、冷凍庫に実山椒が入っていれば1年中いつでもちりめん山椒を炊く事ができる……はずなんですが、ほんのりとした甘みのある、ふんわり細かい色白のちりめんじゃこが山梨ではなかなか見つかりません。
山梨でよく見かけるのは、サイズが大きくて色の濃いものか、あとは釜揚げしらす。
京都では毎年、錦市場の津乃弥さんで買い求めてきます。
こういうちりめんじゃこを山梨であまり見かけないのは、やはりちりめんじゃこを実山椒で炊く習慣が山梨にはないからで、だから生の実山椒が売られているのもあまり見かけないということなのかな。


自然の恵みと人間の知恵

社団法人 農山漁村文化協会編集の『地域食材大百科 第3巻 果実・木の実、ハーブ』 のサンショウの項には、

「……サンショウの果実はフラボノイドを含み、発ガン性のある化学物質の活性化を抑え、動脈硬化を防ぎ、毛細血管を強化する。ビタミンB1が多く含まれ脳の中枢神経や末梢神経の機能を正常に保ち消化を助けるとともに食欲増進の作用がある。また、防腐性があって漬物に使ったり食品の保存に利用したりする。

果皮の柔組織の中には油室があって、この油室中に薬効成分の芳香精油シトロネラールが8%含まれている。この成分は大脳を刺激して内臓の働きを活発にするといわれ、芳香性の健胃、整腸薬として用いられる。(中略)また未熟果にはサンショウアミドを含み、辛味成分は活性酸素から体を守り、免疫機能を高める。」

とあります。
……確かに、「今日は食欲もないし、お茶碗に軽く1杯のごはんとちりめん山椒でいいや」なんて思って食べ始めてついついおかわり、なんて事も多いし、実を噛んだ時の刺激と清涼感でそれまでのぼんやりとした気分がスッキリしたりもする。
食べ物が傷みやすかったり、胃腸が弱って食欲が落ちたり、暑さでぼんやりしたりしがちなこれからの季節に、それらを予防したり改善したりする食材を用意してくれる自然があって、それを上手に利用して美味しく食べる術を身につけている人間がいる。
色々な季節に色々な場所で、様々な恵みをもたらしてくれる自然と、知恵をもってその恩恵にあずかる人間の関係には優も劣もないんだなあ、なんてことを、実山椒の刺激でスッキリした頭で思ったりするのでした。