from パリ(たなか) – 40 - 冬のパリ、スケートと回転木馬。

(2010.02.08)
市庁舎の建物には、彫刻がいったい何体立っているんだろうか。この日のパリの気温は、朝がマイナス2度、午後は3度。

1月末に東京からパリへ戻った。熱帯地方から寒帯地方へ移動したような変化だ。パリは寒いだけではない、とにかく暗い。毎日、冬晴れが続く東京が羨ましい。夕方、日が暮れる時間は東京とあまり変らないが、夜が明けるのは8時半過ぎ。朝7時に起きて、部屋の電気を付けたまま朝ご飯の用意をするのはなんとも気が重い。時差ぼけも重なって、一日中なんだか昼行灯みたいで、しゃきっとしない。パリの冬は鬱病が増える、というのが納得出来る。しかしパリに戻って愚痴ばっかり言ってもしょうがない。ヒートテックにダウンジャケットで身を固めて、セーヌを渡り市庁舎方面へと散歩に出かけた。

午前中のみぞれも止んで、少し気温も上がったようだ。厚い雪雲の間を白い雲がすごいスピードで流れ、時おり青い空が覗く。無彩色の街並みに、淡いトルコブルーが宝石のように美しい。陽が射す時間は貴重だ。やっぱり外に出て歩かないと駄目だ、鬱の雲もいっしょに吹き飛んで行くのがわかる。12月はまだ枯れ葉を少しだけ残していた街路樹も、この季節には完全に裸になって木の骨格標本のようだ。梢に細長い鞘を残してるのはマメ科の木だろうか、刺の付いたぼんぼりみたいな実はスズカケ? あるいはマロニエ? 冬空に影絵のような木のシルエットが美しい。夏の間あれほど勢力を誇った街路樹も葉を落としてしまうと、街の表情が明るく一変する。

サンタンドレ・デザール広場には夏のあいだカフェのテントが立つが、冬には撤去され、プラタナスの屋根が素通しで明るい。
冬の木立は潔い。ノートルダムの前のクリスマスツリーは2月になっても葉を付けたまま立っていた。
ルネッサンス様式の市庁舎と、ロココ調の回転木馬。豪華絢爛、両横綱そろい踏み。
メリーゴーラウンドをフランス語ではカルーセル。回転木馬という日本語の響きが私は好きだ。

去年、クリスマスの前に完成したパリ市庁舎前のスケートリンクまで行ってみた。平日だったせいか、年末ほどの賑わいはなかった。大人も子どももゆっくり回りながら滑って遊んでいる。時々セミプロっぽいスピードで駆け抜ける人もいる。3月6日までやっているそうだが、ということは、その頃まで寒さが続くということか? 広場の中には特設のメリーゴーラウンドも回っている。なんと2階建ての豪華版だ。パリでは大人も子どもも回転木馬が大好きなようだ。オルゴールの音にあわせて上下しながらゆっくり回る姿を、流れる人生と重ね合わせるのだろうか。そんなシャンソンがあったなあ。

15年以上むかしミラノへ旅行したとき、小学生だった娘は街角で見つけたメリーゴーラウンドに乗りたがった。上下する木馬に跨がり、天井からぶら下がったぬいぐるみを上手く捕まえたらもう一回乗れる。係りのオヤジも子どもたちが簡単には捕まえられないように、慣れた手つきで紐を操作してぬいぐるみを上下させる。娘は3度目にぬいぐるみをキャッチした。電車通りの横の広場にあった小さなメリーゴーラウンドは、今もあるのだろうか?