from パリ(たなか) – 54 - セーヌを西へ、麦畑の丘をドライブ旅行。

(2010.05.17)
ガイヤール城趾の丘から眺めるレザンドリの町とセーヌ。あちこちに石灰岩の白い段丘が露出している。

フィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトが設計した住宅がパリ郊外の辺鄙な村の、そのまた山の中にあるという。建築好きのイナバさんに誘われて、4月末の週末、見学に行ってみようということになった。バゾッシュ・シュル・グィヨン(Bazoches-sur-Guyonne)という名のその村は、最寄りの鉄道の駅からタクシーを使うしかないような田舎らしく、それだったらパリからレンタカーで行ったほうが便利だと、国際運転免許証を持参して来た私に声が掛かったような次第。春のいい季節だし、どうせだったらついでに一足延ばして、一泊のドライブ旅行にしようと話は展開し、セーヌを西へ下りてノルマンディー方面へ行き、どこかでホテルを探し、翌日アアルトの建築を見学して夕方パリへ戻ろう、というプランになりました。

金曜の朝、パリの南、アントニーでイナバさん夫妻と待ち合わせ、無人電車に乗ってオルリー空港へ行き、Hertz(フランス語になるとハーツではなく、難しい発音)の営業所へ。週末も営業していて、しかもAT車があるレンタカー屋は空港ぐらいにしかないのです、パリでは。イナバさんがインターネットで事前に予約してくれたので、免許証と身分証明を見せ、カードで保証金を預け、キーを貰い、駐車場にある地味なルノーの小型車に乗っていざ出発。空港内をぐるっと回って出た道は、いきなり片側4車線の自動車専用道路。イナバさん夫妻が道路地図を見ながらナビ役で、全く土地勘もなければ地名も分からない私は運転に集中する、という役割分担でスタートしたのだったが……。

左ハンドル、右側通行は初めての経験。信号や道路標識の位置が日本と違うので、注意しないと見過ごしそうになる。ルームミラーも右上なので、意識しないと視線が行かず、後方確認は左のドアミラーばかり見ていました、最初は。専用道の流れに乗ってすぐ、イナバナビの指示で、右側に車線変更〜っ! ヴェルサイユ方面へ右折の準備〜っ! 了解〜ぃ!と順調な滑り出しだったのだが、分岐点をつい行き過ぎてしまい、(地名表示は突然出るし、欧文は読み取りに時間がかかるし)ずいぶん先まで行ってUターンしたり、今度はヴェルサイユ宮殿を横目に見ながら乗る予定ではなかった高速道路にいやいや吸い込まれ、3€だか払って長い長〜いトンネルを走ったりと、いろいろ汗かきました。自動車専用道路は、やっぱり道を知ってないとスムーズに走れませんね。

それにしても案内表示が不親切だと思うなあ、フランスは(責任転嫁)。初日は初体験ばかりでいろいろ大変でしたが、翌日はナビとドライバーの息もぴったり合って順調、でも今度乗るときはホンモノのナビ付きにしようねと話しつつ、まずまず快適なドライブを楽しむことができました。いや、パリ郊外の田舎道ドライブは素敵ですよ、ほんと。ふだんクルマに乗らないイナバさん、お疲れさまでした。

そんなこんなで、パリ近郊を脱出するのに手間取り、ジヴェルニーのモネの庭へは寄らず(寄れず)、でも県道沿いのレストランでしっかりランチ休憩はとり、この日の目的地レザンドリ(Les Andelys)には午後3時前に余裕で到着。ルーアンより手前、セーヌ河口とパリの中間あたり、セーヌがぐねぐねと蛇行している辺り。イナバさんにホテルの予約をしてもらい、この町で唯一最大の名所ガイヤール城跡の丘へ登る。

レザンドリはセーヌ沿いの小さな町。教会の黒いスレートの屋根瓦は、ノルマンディー特産だそう。右は町一番のホテル、我々が泊まったのは町二番のホテル。
ツーリングのおじさん達、ホテルのテラスで一休み。ヘルメット被れば気分は若者、晴れた日はクルマよりバイクの方が気持ち良さそう。久しぶりに乗りたくなったなあ。
ホテルの中庭の前に、船着き場があった。遊覧船だけでなく、大きな貨物船がしょっちゅう行き来している。
ガイヤール城趾は近づいてみると巨大な構築物だ。ノルマンディー辺りは昔から戦場だったのか、空はこれほどに青く広いのに。

12世紀にイングランドのリチャード獅子王が築いた難攻不落の城を、13世紀になってフランス軍が奪還し、そのまま放置され、今では強者どもが夢の跡。ノルマンディー地方はイギリスとフランスの文化が混ざっている所なのですね。丘の上のからは、セーヌの向こうに海峡が見えそうな感じがする。町の中心には教会、後の丘には緑の麦畑と牧場、まるで安野光雅の絵のようなフランスの田舎の町。

夕方、セーヌをさらに下流方面へドライブする。センターラインのない道路は制限速度70キロ。外国に来てまでスピード違反で捕まりたくないし、メーター見ながら走っているとガンガン追い越される。対向車とすれ違う時、つい右へ寄りすぎて未舗装の路肩にはみ出しそうになる。道路に段差が見えるので減速すると、集落へ入る合図。思い出したように信号があったり。見渡す限りの麦畑の丘、所々いちめんの菜の花畑、写真を撮ろうと思いながら心地よいので停めるのを忘れ、そのうち明るい森の中に入ると道端はタンポポと白い一輪草、フランスの田舎って絵のようにきれいだなあと、だんだん運転にも慣れてきた。パリから1時間半くらいなのに、日本のような中途半端な郊外の景色がなく、すぐに田舎だなあ。いや、これは褒め言葉。

宿に戻り、1階のレストランで暮れゆくセーヌを見ながら晩ご飯。我々以外に2組のカップルがいた。定食は18ユーロと28ユーロ、中間が欲しかったが18ユーロにする。これが大正解。前菜のカマンベール(ノルマンディー名産)のタルティーヌ風?はアツアツで香ばしかったし、鶏肉のクリームソースもナチュラルで、添えたポテトもカリッと美味しい。代々の伝統料理をていねいに作っている印象で気持ちがいい。何よりも感激したのはデザートのタルト・タタン。ノルマンディーはリンゴが美味しい所なのかな、リンゴ酒(シードル)の産地でもあるし。さて、美味しいもの食べたし、明日はアアルトの建築を見なきゃ。(次週に続く)

セーヌ沿いのレザンドリの町。
柱の組み方がノルマンディー風。後の丘の上に見えるのはガイヤール城趾。
セーヌ川と支流のウール(Eure)川が合流するあたり、ゆったりとして流れがよく見えず、一面が湖の集合のように見える。
有名なカマンベールチーズは、ノルマンディーが原産地だそう。
鏡餅のように見事なタルト・タタンがレストランのテーブルに鎮座していた。
たっぷりのクリームと一緒に食べるのがフランス風。デコっぽい皿も使い込んでいい感じ。