映画の街、ベルリンで開催
ベルリナーレ 2013。

(2013.02.23)

2月7日〜17日 開催された『ベルリン国際映画祭』。ポツダム広場「Berlinale Palast」をメイン会場に約400本の映画が上映。今年は金熊、銀熊賞とも東欧勢が獲得。今年のベルリナーレ、特にドイツ作品にフォーカスしてルポします。世界3大映画祭の中で、一国の首都、大都市で開催されるのはベルリンだけ。実はベルリンは知られざる映画の都でもあるのです。

独語圏映画人の華々しい発表の場
ベルリナーレ。

2013年、審査員長にウォン・カーウェイを迎えた『第63回 ベルリン国際映画祭』。コンペの金熊賞にルーマニア映画『Plzitia Copilului(Childeren Pose)』、銀熊にボスニア・ヘルツゴヴィナの『Eapzoda u zivotu beraca zeljeza(An Episode in the Life of an Iron Picker)』 と東欧勢の活躍が顕著だった。

年々、視聴者数が増えているベルリン映画祭。毎年45万人が訪れ、ポツダム広場の「Berlinale Palast」をメイン会場を中心に約400本の映画が上映される。今年は2013年2月7~17日の10 日に渡って開催。実は広いジャンルと年代のドイツ、独語圏映画人の華々しい発表の場でもある。今年はドイツ映画、ドイツを含む多国籍、多言語の映画が多く出展されていた。 


ドイツを含む多国籍、多言語の映画が多く出展。
ドイツ語圏からのコンペ出品3作。

『Gold』はトルコ系ドイツ人トーマス・アスラン監督の最新作。舞台は1898年のカナダ。金を求めて険しい山の中を探索していくドイツ人移民集団を描いている。7人の参加者の紅一点の主人公がニーナ・ホス演じる。淡々としたテンポから後半は一転して、次々と脱落者が続出する。カナダロケは思っていた以上に小さなグループで進行していたようだが、過酷な環境での演技は評価したいところだ。

オーストリア人監督ウーリッヒ・ザイデルの話題の3部作『Paradise』のLiebe(愛)、Glaube(信仰)に続くHoffnung(希望)は肥満児の夏の合宿ダイエット・キャンプが舞台で13歳の叶わぬ初恋物語り。準備期間を長くとり、台本なしで素人役者の地の部分を引き出し、ザイデル特有のドキュメンたるタッチが見事に表現されていた。


トルコ系ドイツ人トーマス・アスラン監督『Gold』より。カナダでの6週間のロケ。壮大な自然と人間模様を描いた長編。


『Paradise』より。ウーリッヒ・ザイデルの3部作最終版。カメラワークと共に素人俳優の自然さが新鮮。

『Layla Fourie』は女性監督ピア・マレイの3作目のポリテイカル・スリラー。1971年ヨハネスブルクに生まれ、スエーデン、スペインで育ち、現在はベルリンを拠点としてるマレイ。この映画で再びヨハネスブルクに戻り、多くの視聴者の共通の感心でもあるシングルマザーやアパルトヘイトの傷跡の残る人種差別問題を女性の視点から描いている。


『Layla Fourie』より。独 / 南ア / 仏 / 蘭の共同出資、ヨハネスブルグのシングル・マザーを女性監督ピア・マリスが描いた。
映画学生や若手の発表の場、
パースペクティブ・ドイツ映画。

ドイツの新人を紹介する部門ではアネ・ゾラ・ベラヒェンド監督の『Two Mothers』が独仏新人賞を受賞している。バーデン・ヴルテンベルグ・映画アカデミーのプロダクション。同性愛の女性カップルが子供を持つために精子バンクやドナーを探す話。監督は細かいリサーチやインタビューを重ね半ドキュメンタリー化している。実際にありえる設定と2人の母のそれぞれの感情が繊細に描かれていていた。


パースペクティブ・ドイツ映画『Two Mothers』。同性愛者が子供を作る葛藤を描いたドキュメンタリータッチな力作。
若手映画人の登竜門、
フォーラム。

日本映画も多く出展していた若手部門のフォーラム。陸前高田市に住む77歳の佐藤直志さんのドキュメンタリー映画『先祖になる』はキリスト教団体のエキュメニカル賞を受賞している。ドイツ人監督作品は映画学校を卒業したばかりの新人の作品も発表されている。グルジア人監督ナナ・エクヴティミスヒヴィリはベルリン郊外のテレビ映画学校コンラード・ヴォルフを卒業している。シモン・グロス監督との共同作品『In Bloom』は1992年のポスト・ソビエト時代のトビリシを舞台に2人の少女の友情と環境を描く。グルジア語での映画だが出資はドイツのテレビ局ZDFとArteだ。


若手フォーラム映画部門に出展したグルジアを舞台にした映画『Grezeli Nateli Dgeebi (In Bloom)』の監督Nana Ekvtimishvili。テレビ映画学校コンラード・ヴォルフ卒業生。
カリスマ的な映画が多い
パノラマ。

映画祭ならではの特質したテーマに沿った映画やドキュメンタリーを多く選出しているパノラマ部門は人気が高く、満席で劇場に入れない人も続出する。特に今回、話題だったのが70年台にファスビンダー映画に登場していたエヴァ・マッテス(『ドイツ、青ざめた母』他)やオットー・ザンダー(『ベルリン、天使の歌』)、マリオ・アドルフ(『ブリキの太鼓』)、そしてデニス・ホッパーとも映画を撮ってた伝説の監督ローランド・クリックについてのドキュメンタリー映画『The Hear is a Hungry Hunter』。監督はサンドラ・プレヒテル。クリックは妥協がなく、真の映画好きでサイケデリック・ウエスタン『Deadlock』や『Supermarkt]など名作を残し、80年代、急に引退してしまっている。今回の上映で彼の再評価が高まっている。

http://www.filmgalerie451.de/filme/klick/


『Roland Klick – The Heart is a Hungry Hunter』。60年代~80年代までカルト的映画を撮り、映画界から姿を消したドイツ人監督ローランド・クリックのオマージュ・ドキュメンタリー。
再び脚光を浴びている
ヨーロッパ最大のフィルムスタジオ

ドイツ映画産業としては、ドイツ全土7地方団体が映画の助成金やロケーションの提供に献身的に協力している。ベルリンと郊外のブランデンブルク州では年間300以上の撮影があり、Mediaboard Berlin-Brandenburg GmbHがセールス、ディストリビューションまでカバーしている。

特にベルリン郊外のスタジオ・バーベルスベルクが世界的な映画勢の新たなロケーションになりつつあり、クエンティン・タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』、ローマン・ポランスキー『ゴースト・ライター』、ドイツ映画史上の最高の制作費をかけたトム・ティクバーの『クラウド・アトラス』もバーベルスベルクで撮影が行われている。この春からは第二次世界大戦の歴史映画ジョージ・クルーニー監督、プロデュースの『The Monument Men』の撮影がスタートする。ダニエル・クレイグ、ビル・マレー、ケート・ブランシェット、マット・デイモンと豪華キャストが地元メディアでも既に話題だ。

スタジオ・バーベルスベルク


昨年100周年を迎えたスタジオ・バーベルスベルク。テレビ映画学校コンラード・ヴォルフも隣接している。
市民にも愛されるベルリナーレ
2014年は更に劇場もチケットも増える。

社会的でシリアスなチョイス、カンヌやヴェニスの華やかさには欠けると言われるベルリナーレだが、映画祭自体は拡張している。ディレクターのディーター・コスリック氏は大衆紙BZで以下のようにコメントしている。『今年のベルリナーレはほぼチケットが完売でした。来年は今、西側で改装中の劇場Zoo Palastも完成するので、更に何千枚ものチケットが販売されますよ。』映画人だけでなく、地元や他の都市からも映画を見に来る人が増えている。映画の街ベルリンは来年もまた、寒空の下の熱気が期待できそうだ。

Berlinale:ベルリン国際映画祭 公式ホームページ