『第24回 東京国際映画祭』開幕。
見るべき作品『ピナ』『トリシュナ』

(2011.10.17)

10月22日(土)から東京国際映画祭がスタート。30日(日)まで開催されます。24回を迎える今回は、気になる映画が多すぎるというくらいに中身が濃いのです。

世界的評価の監督作品が集まったコンペ部門。

各国を代表してのコンペ作品には、マイケル・ウインターボトム(『トリシュナ』)、セドリック・カーン(『より良き人生』)、オキサイド・パン(『夢遊 スリープウオーカー』)、ペンエーグ・ラッタナルアーン(『ヘッドショット』)などの、すでにその才能を世界的に高く評価された監督の新作が揃っています。中でもカンヌ国際映画祭のお気に入りとも言えるイギリスを代表するウインターボトム監督『トリシュナ』は、期待大で、絶対に観てみたい作品。

79年にロマン・ポランスキー監督によって、トーマス・ハーディの原作の同名の映画化『テス』が、再び蘇ることになるからです。当時はポランスキー監督の、その映像美が高く評価され、テス役の‟ナタキン“こと、ナスターシャ・キンスキーのカリスマ的美少女ぶりはもちろん、監督との恋など、話題の的となりました。

今回のウインターボトム版は『スラムドッグ・ミリオネア』の主演女優フリーダ・ピントが演じ、舞台がインドに移されていることも興味深いものです。

『トリシュナ』

原題 Trishna
監督 マイケル・ウィンターボトム
117分/英語、ヒンディー語/Color/2011年/イギリス

TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen7にて
10月26日(水) 21:00~(Q&A予定)
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen6にて
10月29日(土) 14:30~
 
 

ハリウッドスターが、一味違う演技を見せる。

演じる女優、男優が気になるコンペ作品にも注目しましょう。

あの、ご存知グレン・グローズが、何と男性役を演じる『アルバート・ノッブス』は、19世紀のダブリンに働く執事の人生を演じた作品。また、『戦場のピアニスト』のあの演技が今も忘れることのできないエイドリアン・ブロディの『デタッチメント』に興味津々です。

また、東京国際映画祭で見逃せないのが、カンヌ映画祭やヴェネチア映画祭で高く評価された作品ばかりを集めた「ワールドシネマ」部門の作品も、この機会に観ておくべき。

名だたる映画祭にノミネートされても、日本では一般公開されないこともあり、この映画祭で多くの観客に楽しんでもらおうと、毎回、貴重な作品揃えをみごとに実現させています。

カンヌ映画祭で、特別グランプリ受賞の衝撃作、『ユマニテ』(99)など、出品のたびに高く評価されてきたブリュノ・デュモン監督の作品は、今年のカンヌに出品された『アウトサイド・サタン』。

問題作に挑む姿勢は、まさしく映画づくりの王道であると語った彼の映画制作哲学は以前にも、このウエブ・ダカーポで、私がインタビュー記事としてまとめたことがありましたが、その時の名言が、「映画は自分を映しだす鏡である」でした。

『アルバート・ノップス』

原題 Albert Nobbs
監督 ロドリゴ・ガルシア
113分/英語/Color/2011年/アイルランド
©Morrison Films / Chrysalis Films 2011

TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen7にて
10月27日(木) 21:00〜
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen6にて
10月29日(土)11:05〜

今年のカンヌ、
ヴェネチア映画祭に出た作品も観たい。

同じく今年のカンヌ映画祭に出品されたベルトラン・ボネロ監督『ある娼館の記憶』は絵画の様な映像が素晴らしく、女性としてもぜひ観たいものです。そうなると、パリの伝統的クラブ『クレージー・ホース』の裏側をドキュメントしたフレデリック・ワイズマン作品も同時に観てみたくなります。

スペインの監督、クリスチャン・ヒメネスの作品『Bonsai~盆栽』は、今年のカンヌ映画祭『ある視点』部門に出品された時に、目についていました。この作品タイトルに惹かれます。これが半年たたず、東京で観ることができることに感謝です。
どのように、何が、「盆栽」なのか観てみましょうよ。

さて、さて、この映画祭のご自慢のグリーンカーペットに象徴されている、「エコ」をテーマにした「ナチュラルTIFF」部門作品には毎回珠玉の映画が詰まっているから見逃せません。
 
今回は、ハーブのパワーを知ることができそうな、『地球がくれた処方箋』、エコテロリストの存在を描く、『もしも僕らが木を失ったら』などなど、今の時代に生きる私たちの琴線に触れてくれそうで、期待大です。

ヘルツオーク健在もうれしい、2作品。

しかし、絶対に観ねばならないと、肝に銘じているのが、『フイッツカラルド』で知られる、ドイツ巨匠のウエルナー・ヘルツオークが共同監督とナレーションを手がけた『ハッピー・ピープル タイガで暮らす一年』。

シベリアのタイガ地域の小さな村の、大自然の中で暮らす人々を描いたネイチャー・ドキュメンタリーです。彼はまた、特別招待作品部門にも、公開を前にした同じくドキュメンタリーの『ケイヴ・オブ・フォゴットゥン・ドリームス』を出品。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーと並ぶニュー・ジャーマン・シネマの旗手として今なお現役と言う存在を、この映画祭で確かめることができるのは、幸運そのものと言えるのです。

その特別招待作品は、一般劇場での公開前のプレミアム上映としても人気が集まりますが、今年はもう、たくさんあって選りすぐり。

涙ナシには見れない余命モノ
なのにオシャレ『永遠の僕たち』

今年のカンヌのある視点部門に出品、オープニング上映された、ガス・ヴァン・サント監督の『永遠の僕たち』。癌で闘病する少女アナベル(ミア・ワシコウスカ)と、ドロップアウトした少年イーノック(ヘンリー・ホッパー)、イーノックの友人で幽霊のヒロシ(加瀬亮)の3人を通して描く、青春と死の物語。監督独特のピュアな映像の魅力はそのまま。さらには『イージー・ライダー』当時のデニス・ホッパーに生き写し、若年寄りのようなたたずまいのイーノック役ヘンリー・ホッパー、『アリス・イン・ワンダーランド』にアリスとはまた異なるデリケートな少女像をうちたてたミア・ワシコウスカ、思索的なカミカゼ特攻隊の幽霊役の加瀬亮、と主演の3人の素晴らしさは必見。ポートランドの秋から冬へ移ろう寒々しい景色を舞台に、繊細なセリフ回し、ファッション、音楽……ただただ涙で終わりそうな「死」に、ユーモアと愛情をもって対峙する姿を描いた秀作です。

『永遠の僕たち』

原題 Restless
監督 ガス・ヴァン・サント
90分/英語/Color/2011年/アメリカ
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©2011 SONY PICTURES ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen7
10月24日(月) 14:45 より(舞台挨拶予定)
公開 12月23日(金・祝)TOHOシネマズシャンテ/シネマライズほか
全国順次ロードショー


アラミス役のルーク・エヴァンスに注目
『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』

最大級は、公式オープニング作品で、映画祭の始まりを飾る『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』。

『バイオハザード』の監督が作った3D版の『三銃士』だそうで、もう、これは面白いに決まっています。

アレキサンドル・デュマの原作に子どもの頃夢中になった私としましては、三銃士の中でも、子どもごころに、女たらしのアラミスが好きでしたが、だからこそ今回作品では、ダルタニヤンではなく、バッキンガム侯爵役のオーランド・ブルームでもなく、もちろん、アラミス役のルーク・エヴァンス、彼だけをずっと見つめていたいと決めています。

『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』

原題 The Three Musketeers
監督 ポール・W・S・アンダーソン
111分/ 英語/Color/2011年/ドイツ=フランス=イギリス
配給 ギャガ
© 2011 Constantin Film Produktion GmbH, NEF Productions, S.A.S. and New Legacy Film Ltd. All Rights Reserved by Constantin Film Verleih GmbH.
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen2
10月22日(土) 16:30 〜(舞台挨拶予定)、20:30〜
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen5
10月22日(土)20:40〜
公開 10月28日(金)TOHOシネマズスカラ座ほか全国3D・2Dロードショー


ブリューゲル、
そしてピナ・バウシュのアート系に秀作。

観きれないくらいたくさんの招待作品の中でも、芸術的な作品が多いのも今年の特徴ではないでしょうか。

画家ブリューゲルを、あのルトガ―・ハウワ―が演じるというから思わず惹かれる作品が、『ブリューゲルの動く絵』。
フランドル絵画を代表する彼の作品を映像の中で立体化し動かす緻密な作品づくりは未だ例のない取り組みではと思います。美術館を巡るという感覚を越えて、私たちも絵画作品の中に入り込み、不思議な体感が出来るアート・ムービーです。

そして、不思議体験をさせてくれるという点では、感服の極みを味わった『ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』は、一昨年の東京国際映画祭のオープニングの日に、『アバター』の一部映像を観た時の感覚を蘇らせてくれました。

新しい試みには、いつも、賛否両論ある中、好き嫌いの問題ではなく、「観ることができて、よかった、生きてて良かった」と、新しい進化を遂げた映画との出会いを、自分が至福の時として喜べたことは、絶対に忘れないものです。

自分の細胞が喜ぶような映画との出会い、それこそが映画の存在を永遠にして行くのだと、私は信じているのですが、今年もまた、そういう作品に映画祭で、いち早く会えるのですから、うれしい限りです。

『ブリューゲルの動く絵』

原題 The Mill & The Cross
監督 レフ・マイェフスキ
96分/英語/Color/2011年/ポーランド=スウェーデン
配給 ユーロスペース、ブロードメディア・スタジオ
© 2010, Angelus Silesius, TVP S.A
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen5
10月26日(水) 14:00~(舞台挨拶予定)
公開 12月渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開


アート的3D作品を完成させたヴェンダース。

ヴィム・ヴェンダース久々の新作登場で、そのテーマが、ドイツが誇る天才舞踊家のピナ・バウシュ、とそこまではあってもおかしくないことでしょう。また、この作品を作る計画中に、彼女が亡くなり、それを越えて作りあげられたものだから、親交深かった間柄のヴェンダースが力を尽くしたということにも、もちろん納得です。そんな当たり前の事実を越えた、神がかったパワーがみなぎる素晴らしい芸術映画が生みだされたこと、これは奇跡の様な新しい3D作品と言えるでしょう。それがもう、完璧、芸術、それも最高峰の。

ドイツが持つ、耽美的感覚がみなぎる場面、場面に思わず声が漏れそうになる。でも、声も出ないほどの感動。

そう、今ピナが今行ってしまった場所に観る者が案内されて行くというような感覚。非現実的な世界が目の前に広がるのです。怖いくらいにリアルで、でも、それが夢の様でもある映像世界に出来あがっています。また、彼女の作品としてのダンスシーンに選んだ屋外の数々。

土を感じさせる山間かと思えば、モノレールが通う都会と空だったり、その立体的映像美が今までに観たことのない体験をさせてくれるのです。

この作品は絶対先取り、この映画祭でこそ、先取りしてご覧ください。
ああ、それにしても、3D眼鏡は、まだかなり重いですね…。

と、なると同時に気にしたいのが、「日本映画・ある視点」部門の『今日と明日の果てで』という小林潤子監督の作品。世界的にも注目されているダンサー、首藤康之を追いかけたドキュメンタリーも、気にかかるのです。

そんなわけで、映画は、フランスの監督が言うように、自分を映し出す鏡だとしたら、自分と向き合う東京国際映画祭の9日間、存分に映画鑑賞していただき、自分についての発見もお楽しみに。
 

『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』

原題 Pina
監督 ヴィム・ヴェンダース
104分/ドイツ語、フランス語、英語、スペイン語、クロアチア語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語/Color/2011年/ドイツ=フランス=イギリス
提供・配給 ギャガ
©2010 NEUE ROAD MOVIES GMBH, EUROWIDE FILM PRODUCTION
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen5にて
10月25日(火) 14:00~(舞台挨拶予定)
公開 2012年2月25日(火)日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9他全国順次3D公開

第24回 東京国際映画祭