カンヌ3冠の天才 グザヴィエ・ドラン監督辛辣なのに美しい、そして切ない
母と息子の葛藤『マイ・マザー』
(2013.12.10)
子役からスタートしたドラン監督の俳優としての魅力。
『わたしはロランス』(’12)での圧倒的な映像と斬新なストーリーテリングで観客の心を掴んだグザヴィエ・ドラン。19歳で初監督した『マイ・マザー』(’09)は、先日東京国際映画祭でお披露目された『トム・アット・ザ・ファーム』(’13)に至るまでの、まさにドラン監督の原点ともいえる要素 「男と女」、「衣装」、「美術セット」そして「映像」が詰まった作品です。
『トム~』同様、監督自らが主演を務め、かつては大好きだった母親に、拒絶反応ともいうべき嫌悪を抱きながら、鬱屈とした日々を送る17歳のユベールを見事に演じています。食べこぼしてばかりの母親の口元のクローズアップと、内なる感情をカメラの前ではき出すユベールのモノクロの独白シーンとの対比によって、この年代特有の残酷なまでの鋭い感受性がスクリーンにあぶり出されるのです。
俳優でミュージシャンでもある父を持ち、5歳の頃からCMや映画の子役スターとして活躍していた、というキャリアが物語るように、監督である以前に、繊細さとある種の狂気を封じ込めた俳優としてのグザヴィエ・ドランの存在感に魅了されます。
スローモーション、シンメトリー、後ろ姿
詩情溢れるドラン作品の特徴そのまま。
『わたしはロランス』で強烈なインパクトを残した後ろ姿のショットは、『マイ・マザー』や『トム~』でも多く見られ、孤独を抱えながらも強く生きる人々を描いたドラン監督の作品の象徴であるといえます。また、車の中の言い争いや、シンメトリーな構図、スローモーションなども、いずれの作品にも共通している「ドラン調」とでもいうべき特徴です。 その表現力の豊かさはまさに「恐るべき子供」でしょう。
美術への造詣も深いドラン監督ですが、本作ではクリムトの『母と子』の絵がインテリアとして飾られているほか、ジャクソン・ポロックを彷彿とさせるドリッピングのシーンが登場するなど、好きなアーティストや作品が及ぼす直接的な影響を随所に見ることが出来ます。さらに、『わたしはロランス』でも圧倒的な演技を披露したスザンヌ・クレマンが、主人公ユベールの才能を理解し、伸ばそうとする教師役として登場しています。
心象風景を投影したビビッドかつ幻想的な映像。
『わたしはロランス』では、色とりどりの服が空から降ってくるスローモーションのシーンが全てを象徴していましたが、『マイ・マザー』においては、紅葉した林の中で花嫁姿の母親を追いかけるシーンに一瞬にして心を奪われます。さらに、美しい旋律とともに挿入される、幼少時の母との美しい記憶。心象風景を投影したビビッドかつ幻想的な映像はドラン監督ならではの唯一無二の世界です。
半自伝的かつ「母との軋轢」という普遍的なテーマを扱いながら、決してひとりよがりではないエンターテインメント作品として見事に昇華されている『マイ・マザー』。それはまさにグザヴィエ・ドランという一人の俳優の身体性と、映像美、そして事象に対する洞察力の高さが成せる技ともいえます。
誰もが知っている感覚を、観たこともない映像で呼び覚ます、ドラン監督の底知れぬ才能に震える映画です。
『マイ・マザー』
渋谷アップリンクほか、全国順次ロードショー 公開中
主演、監督、脚本、製作:グザヴィエ・ドラン
出演:アンヌ・ドルヴァル、フランソワ・アルノー、スザンヌ・クレマン、パトリシア・トゥラスネ、ニルス・シュナイダー、モニーク・スパツィアーニ
撮影:ステファニー・ウェバー=バイロン
編集:ヘレン・ジラール
美術:アネット・ベレイ
衣装:グザヴィエ・ドラン、ニコル・ペレティエ
原題:I Killed My Mother
配給:ピクチャーズデプト
提供:鈍牛倶楽部
特別協力:ケベック州政府在日事務所
後援:カナダ大使館
2009/カナダ/カラー・白黒/100 分/1:1.85/フランス語・日本語字幕/
©2009 MIFILIFILMS INC
Twitter: @XDolanJP
Facebook:www.facebook.com/XDolan1st
カンヌ映画祭監督週間正式出品 C.I.C.A.E賞/Prix Regards Jeune賞/SACD賞 受賞
アカデミー賞 カナダ代表作品選出
セザール賞 最優秀外国映画賞 ノミネート