『5windows』瀬田なつき監督 インタビュー 日常的風景に5つの窓が埋め込まれる 映像と音楽が紡ぐ漂流映画館。

(2015.04.18)

Seta Natsuki-08-2

Photos / 谷 康弘
この春の開催された『恵比寿映像祭』。その会場 恵比寿ガーデンプレイスところどころでは瀬田なつき監督の7つのショートフィルムが散りばめられ上映されました。横浜黄金町を舞台に5つの作品から成る『5windows(ファイブウィンドウズ)』と、恵比寿を舞台に新たに撮影された2作品『5windows eb』、『5windows is』。映画を写し出すスクリーンが、まるで窓のように、日常的風景に埋め込まれていました。瀬田なつき監督に自身の作品のことや、監督になるまでの活動を伺いました。

映画を観るときの状況や景色によって
変化する記憶や印象。
−『5windows』の企画のきっかけを教えてください。

瀬田なつき監督:2011年の春頃、節電などで夜の街が暗くなり、外に出る機会がなくなりました。建築家の藤原徹平さんチームの発案で、街の空いているスペース、建物の壁などに映画のプロジェクションを行い、街に出かけるきっかけを作ったらよいのではないか。横浜・黄金町で撮影し、街の各所で上映する「漂流する映画館 Cinema de Nomad」というコンセプトで、そこで上映する作品ということで作ってみないかとお話をいただきました。『5windows』は、そのときについたプロジェクトの名前です。

−『5windows』は2011年から今年にかけて横浜、渋谷、仙台、山口など全国各地のイベントで上映されてきました。監督にとっても思い入れのある作品だと見受けられますが、ご自分で観賞される度になにか変化を感じるものはありましたか?

瀬田なつき監督:映画を観ている時の状況によって映画の印象が毎回変わるように思います。例えば昨日は雨が降っていましたが、寒かったという記憶が残ったり、陽が差している映像と比べて全く違う世界を覗いているような感覚に陥ったりしますね。もともと『5windows』という作品は、最後のストーリー以外どの場面からみても違和感がないように構成されているんです。映画全体を通して伝えるものはありますが、それぞれの場面に決まった意味を持たせることは控えています。なので、この映画の印象は観る人の背景が与える影響が大きいように思います。

『恵比寿映像祭2015』では『5windows』に加えて撮りおろしの『5windows eb』、『5windows is』が恵比寿ガーデンプレイスの7箇所にスクリーンを設けて上映された。
『恵比寿映像祭2015』では『5windows』に加えて撮りおろしの『5windows eb』、『5windows is』が恵比寿ガーデンプレイスの7箇所にスクリーンを設けて上映された。
 

−なるほど。今回恵比寿ガーデンプレイスの映像祭に向けて、恵比寿で撮影された2作品が新たに上映されましたね。現実と重なる風景が映る度不思議な感覚になりました。恵比寿は洗練された都市というイメージですが、監督はどのようなイメージを持って撮影されていましたか?

瀬田なつき監督:実は映像祭に向けて上映場所と重なる恵比寿ガーデンプレイス内での撮影は予定ではもっと多かったんです。でも予想外に撮影許可が厳しくて(笑)急遽ガーデンプレイス外のシーンを増やしたました。恵比寿は洗練されたイメージとおっしゃってましたが、一歩路地へ入ると、意外と雑多な面もあるんですよね。なので、あえてゴチャゴチャしている場所も撮影しました。主演の中村ゆりかさんに日常的な恵比寿の街を自転車でたくさん走ってもらったんですけど、大きな道路は車も多くて大変だったと思います。

『5windows eb』、『5windows is』は映像祭を前に恵比寿ガーデンプレイスのほか、街中で撮影された。
『5windows eb』、『5windows is』は映像祭を前に恵比寿ガーデンプレイスのほか、街中で撮影された。
 
歌詞のない鼻歌が
多角のシチュエーションにはまっていく。

−映画のなかでは、自転車に乗っているシーンとヒロインたちの鼻歌が印象的です。その二つにはメッセージ性や、意図が込められているのでしょうか?

瀬田なつき監督:自転車にも、鼻歌にも特別なメッセージ性は持たせていません。自転車のシーンが多いのは、単純に私が自転車を好きということもありますが、街の風景を映画にたくさんとりいれるのに自転車からの目線は最適でした。

鼻歌に関しては、歌詞を持っていない点が、多くのシーンでとりいれた理由です。先ほどもお話ししましたが、各場面でストーリーを方向づけるような説明的な要素は控えるようにしていました。鼻歌は具体的な意味を提示することもありませんが、役者の悲しい表情や、ワクワクしている表情、どのような場面にも填っていきます。いわばストーリーを繋ぐ役割をしているともいえるかもしれません。

−鼻歌のアイディアに続いて、台詞も少ないように感じました。その分、役者さんたちの表情が豊かですよね。中村さんの言葉を秘めたような眼差しは強く記憶に残っています。

瀬田なつき監督:その一瞬しか撮れないような役者さんの表情や動きをとても大切にしています。映画を撮る際、役者さんの、その人しか持っていない魅力を映したいという気持ちは常に持っています。役者さん自身もそれぞれが想像を超えるような動きをしてくれるので、ずっと見ていたいと思うくらい、撮影していてとても楽しかったです。

 突如ゾンビが登場するシーンを撮影中。やさしい光が溢れる画面が瀬田作品の特徴だが、面白いと思うものはすぐに作品に盛り込むのも瀬田流。
突如ゾンビが登場するシーンを撮影中。やさしい光が溢れる画面が瀬田作品の特徴だが、面白いと思うものはすぐに作品に盛り込むのも瀬田流。
 
 
ただ映画が好きというファンの存在から現在の姿へ。

−監督をされる前は映画美学校、横浜国立大学、東京芸術大学と3校で映画を学ばれていますね。その頃から自分の作品を通して伝えたいことはありましたか?

瀬田なつき監督:これをどうしても言いたいというものや、何かを映画で伝えたいという想いは特別なかったんです。撮って作品を残したいという気持ちとは別に、とにかく映画が好きでした。

横浜国立大学で映画評論家の梅本洋一先生のゼミをとっていたのですが、そこで映画の見方がガラッと変わりました。ゼミでは映画の批評を書いて提出しなければいけなかったのですが、うまく書けない(笑)。そこで自分で作ってみたら、わかるんじゃないかと撮ってみたのが最初の作品でした。それまではヌーベルヴァーグの作品でも、監督の名前や、他の作品とのつながりを意識して観るということはなかったのですが、ぐっと広い視野で映画を観れるようになりました。

Seta Natsuki-01-2
■瀬田なつき監督プロフィール(せた・なつき)
映画監督。1979年大阪府生まれ。東京芸術大学大学院映像研究科修了。主な監督作品に『彼方からの手紙』(08 東京国際映画祭チェアマン特別奨励賞)、『あとのまつり』(09)などがある。入間人間(いるまひとま)原作による人気ライトノベル『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(11)の映画化を手がけ初長編映画作品として全国公開された。

 

−では監督になることを志したのは映画を撮りだした学生時代からですか?

瀬田なつき監督:実は、映画監督になりたいとそこまで強く思ったことはありませんでした。学校で映画を学んでいくうちに撮ることにも興味を持つようになりましたが、意欲的に自主制作映画を撮っていたわけでもないんです。ただ、最後に修了制作で撮った映画が評価されて、運良く長編映画を撮る機会をいただきました。監督になれたのはその延長線にあるような感覚で、今こうして撮っていられるのも本当ラッキーだったなという気持ちです」

−『東京芸術大学』では黒沢清監督との出会いもあったそうですが、入学されたのは黒澤監督から教わる目的もあったのでしょうか?

瀬田なつき監督:その目的はありました。黒沢監督の映画は自分が好きな作品のひとつでしたので作品としての影響を受けることや、教えてもらうことに刺激がありました。ただ作風も全然違います(笑)世界観を真似することは出来ないです。でも映画を作ることに対する考え方や、撮影するうえでいろんな状況の応じ方はたくさん参考にさせてもらいました」

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好きなことを夢中でやるには計画はいらない。

好きなことを夢中でやり続けてきた瀬田なつき監督。「監督になりたいと思っていたわけではなかった」と素直に語る監督を見て、幸運を掴む為に重要なのは必ずしも周囲と足並みを揃えることでも、計画性を持って行動することでもなく、好きなことをやり続ける勇気なのかもしれないと感じました。

自分たちのペースで歩きながらストーリーを追っていく、漂流映画館というコンセプト。また別の機会に他の場所で開催することがあれば、多くの人にも体験してもらいたいです。

『5windows』恵比寿特別編

『5windows』2011年
監督・脚本・編集:瀬田なつき
出演:中村ゆりか、斉藤陽一郎、長尾寧音、染谷将太
撮影・制作:佐々木靖之
音楽:蓮沼執太

配給:boid

企画:NPO法人、ドリフターズ・インターナショナル、港のスペクタクル2011実行委員会
製作:studio402
2012 /日本映画/16:9/40分
© 映画『5windows』All Rights Reserved.


『5windows eb』『5windows is』2015年
監督・脚本・編集:瀬田なつき
出演:中村ゆりか、染谷将太、ゾンビママ
プロデューサー:松井宏
撮影:佐々木靖之
音楽:蓮沼執太
ラインプロデューサー:滝野弘人
スタイリスト:髙山エリ
ヘアメイク:光岡真理奈
制作:倉本雷大
助監督:登り山智志
撮影助手:深谷祐次
企画製作:第7回恵比寿映像祭(主催:東京都/東京都写真美術館・東京都文化発信プロジェクト室[公益財団法人東京都歴史文化財団]/日本経済新聞社 
共催:サッポロ不動産開発株式会社/公益財団法人日仏会館)

『恵比寿映像祭2015』