フランソワ・オゾン監督最新作『危険なプロット』オゾンが見出した新星、
エルンスト・ウンハウワー。


(2013.10.18)

 『危険なプロット』より。 ©2012 Mandarin Cinéma - Mars Films - France 2 Cinéma –Foz

オゾン監督をして「美しすぎて、今後役がつくのか心配だ」とまで言わしめた恐るべき主演俳優、エルンスト・ウンハウワーさん。オゾン監督への思いやクロードの役作り、そして今後の目標について伺いました。

 

—『危険なプロット』はフランスでは動員120万人を超える大ヒットとなり、エルンストさんの故郷シェルブールでは、ご両親も一躍有名人になったそうですね。オーディションでクロード役に抜擢されたとのことですが、映画の完成後、初めての主演作品をご覧になった率直な感想は?

エルンスト・ウンハウワー(以下 エルンスト ):正直なところ、最初に観た時は自分のことしか目に入りませんでした(笑)。ちゃんと演技できているかな?ということばかり気になってしまって。でも、3回4回と見るうちに、改めて映画の素晴らしさを理解し、大好きな作品になりました。結果にもとても満足しています。
 
―ファブリス・ルキーニやエマニュエル・セニエ、クリスティン・スコット・トーマスといったベテラン俳優陣との共演に、プレッシャーを感じませんでしたか?

エルンスト:もちろん、以前からとても尊敬していた俳優の方々だったので、初対面の際には圧倒される部分も確かにありました。でも、役の上ではクロードが彼らを操る立場であったため、なるべくそういった感情を抑えて演じるようにしましたね。

—現在24歳とのことですが、実年齢より年下の高校生役を演じてみていかがでしたか?

エルンスト:クロードは16才の設定ですが、幸いなことに自分は割と若く見える方だし、エキストラの子たちはみんなその世代だったので、彼らから若さを吸収することで役柄に成りきることが出来ました。制服もオーダーメイドで仕立ててもらったんです。オゾン監督にも言われたことですが、これだけのインパクトの強い役柄を演じるには、僕くらいの年齢の俳優が必要だったのではないかと思っています。


クラスメイトであるラファの家族を皮肉たっぷりのトーンで描写したクロード(エルネスト・ウンハウワー)の作文は国語教師・ジェルマン(ファブリス・ルキーニ)の心をとらえていく。

クロードの役作り
物語の核となるナレーションと印象的な視線の動き。

 

—クロードによる自作の小説の朗読が、物語の進行上、重要な役割を果たしています。ナレーションの吹き込みは、どのタイミングで行なわれたのでしょうか。
 
エルンスト:ナレーション部分は、撮影前に一度仮で吹き込み、撮影後に改めてスタジオで録音しなおしました。ナレーションが入る箇所や長さを考慮しながら演技ができたし、本番の録音の際には、ここはこういうシーンだったなと思い浮かべながら吹き込むことができたんです。


—ミステリアスでセクシーなクロードの視線の動きがとても印象的でした。役作りにあたり入念に研究されたのでは?

エルンスト:クロードが周りを観察しているときは、彼は既に小説のためのクリエーションに入っているので、あたまの中で構想を練っているような表情を意識しました。もちろん、不穏な感じを出すために瞳を動かしたり、光に目を細めてにらんでみたり、視線の演技はいろいろ工夫しましたね。


クロードはラファの家に入り込み家の中はもちろん家族、とりわけ美しい母(エマニュエル・セニエ)を観察、”新作”に綴っていく。

ジェルマンだけでなく、その妻ジャンヌ(クリスティン・スコット・トーマス)までもがクロードの”新作”を心待ちにするように。
シリアスなのにコミカル。緊張感溢れるファブリス・ルキーニとの演技対決。

—クロードの文才を見抜き、彼を教え導く国語教師ジェルマンを演じた、ファブリス・ルキーニとの緊張感溢れる演技対決はいかがでした?



エルンスト:とても上手く行きましたよ!高校でのシーンが順撮りだったことも、演じる上で助けになりました。僕自身がファブリス・ルキーニという役者を段々と知ることによって、そこに共犯関係のような親しみも生まれてきましたから。


—ウディ・アレン監督の映画ではよく用いられる手法ですが、クロードの語る物語の中で、本来そこにはいないはずのジェルマンが突然登場するシーンは、演じにくくはなかったですか?

エルンスト:コミカルなシーンでとても楽しかったですよ。あくまでも演技なので、他人に横からじろじろ見られながらキスをするのも全然問題ないのですが(笑)、たしかにあのシーンは、映画史上もっともロマンチックじゃないキスシーンだったかもしれませんね。


—では、キスの相手が親子ほど年が離れているという設定に対するためらいは?



エルンスト:愛に年齢は関係ありません(笑)



ジェルマンの指導によるクロードは小説の才能を開花させていく。しかしそれとともにクロードの文章、行動はエスカレートしていく。

—この映画では、年長者への憧れと批判といった複雑な感情が描かれています。生徒であるクロードが教師のジェルマンを斬ったように、エルンストさんがオゾン監督を評するとしたら?

エルンスト:オゾン監督には批判すべき欠点は何もありません(笑)。監督は天下一品の観察者。誰も気づかないようなディテールをちゃんと見ていて、ちょっとしたイントネーションの違いや、動線のわずかな間違いにも、監督はすぐに反応されていました。オゾン監督は、突拍子もないようなアイデアがあたまに詰まっている人なんです。

原題の“Dans la maison”。それぞれの家に家族がいて、暮らしがある。「ずっとあの家の中に入りたかった」とはクロードのモノローグ。

『アリゾナ・ドリーム』や『スナッチ』と出会い、俳優を夢見た少年時代。
そして今後の目標。


—ところで、エルンストさんが俳優を目指されたのはいつごろですか? 

エルンスト:とても早かったですね。7、8歳のころから俳優になりたいと思っていました。演技との最初の接点は、演劇の課外授業だったんですが、その頃テレビで『アリゾナ・ドリーム』(’94)や『スナッチ』(’00)といったさまざまなジャンルの映画を沢山見ていて、自分には映画の方がしっくりくるなと思ったんです。父が写真家ということもあって、かなり早い段階からカメラのレンズを意識していたと思います。

—今後はどんな役を演じてみたいですか?

エルンスト:いまのところダークな作品のオファーが多いですが、いずれはコメディにも挑戦してみたいと思っているんです。いつか共演してみたい俳優は、レオナルド・ディカプリオとジョニー・デップ。 名優と言われる役者とはぜひ一緒に仕事をしてみたいですね。

—では、いずれはハリウッド進出の可能性も?

エルンスト:まだ具体的な話はありませんが、その気になればきっと英語もすぐに身に付くはずなので、「カルペディエム!」(ラテン語で「一日の花を摘め」)、つまり、今日出来ることをやるまでです。



■エルンスト・ウンハウワー プロフィール Ernst Umhauer 1989年フランス シェルブール生まれ。幼い頃から演技を学ぶ。’11年、短編映画『Le Cri』、『マンク〜破戒僧〜』に出演。本作で主人公クロード役に抜擢され、リュミエール賞新人男優賞受賞、セザール賞新人男優にノミネート。

「本当のことを言えば、実は僕はナルトなんです」と、お気に入りのアニメのキャラクターの正体は自分だと明かす、ミステリアスさとユーモラスな一面とをあわせもつエルンストさん。今後の活躍から、当分目が離せそうもありません。

『危険なプロット』
2013年10月19日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか
全国ロードショー

監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ 
ドゥニ・メノーシェ、エルンスト・ウンハウワー、ジャン=フランソワ・バルメール、バスティアン・ウゲット
原題:“Dans la maison”
原作:フアン・マヨルガ『The Boy in the Last Row』
配給:キノフィルムズ

2012/フランス/105分/ビスタ/5.1ch/字幕翻訳:松浦美奈/映倫R-15
©2012 Mandarin Cinéma – Mars Films – France 2 Cinéma –Foz