『さらば、愛の言葉よ』『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』 3Dで新体験する第7芸術 VS 古典芸術 ゴダール、ヴァチカン美術館。

(2015.02.21)
『さらば、愛の言葉よ』 © 2014 Alain Sarde - Wild Bunch
『さらば、愛の言葉よ』 © 2014 Alain Sarde – Wild Bunch
ゴダールの愛犬と一緒に居られる3D体験。

3D映画の進化を大きく牽引したジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(09)は、自らの作品を「観るのではない。そこにいるのだ」と標榜し、私たちを納得させたものでした。劇場から作品世界に観客も入り込んでいけるのが3D映画なのだと。

スペクタクルをよりスケールアップするための技術として役立つだけではない3Dの可能性。自由な表現や、芸術性を高めることへの3Dとの取り組み。それに挑戦した作品が次々登場しています。

現在公開中のジャン=リュック・ゴダール監督『さらば、愛の言葉よ』は、84歳にして初の長編3D作品
。3D動画を高品質のデジカメで生み出すことに無心で無邪気に取り組んだゴダール監督。3Dのヌーヴェルヴァーグと言ってもよいでしょう。

物語の展開はジグソーパズルのようで難解。しかし、老いることのない自由な表現を駆使した、チャレンジ精神漲るゴダール監督のやんちゃぶりが全編から滲んできます。

 映像のポエムと言うべき世界の中に、男と女が登場し別の男が絡む。『さらば、愛の言葉よ』 © 2014 Alain Sarde - Wild Bunch

男と女、そして別の男が絡む。『さらば、愛の言葉よ』 © 2014 Alain Sarde – Wild Bunch

映像のポエムと言うべき世界の中に、男と女が登場し別の男が絡む。そこにゴダールの分身のような、一匹の犬が加わり、人生の断片が赤裸々に綴られる。人と動物が実際の存在を超え、よりリアルで美しく官能的。実に斬新。見慣れたはずの男女の裸体が立体的に映し出されるだけで、これほどまでに肉体はエロチックであったかと感動させられます。

ゴダールの(パートナーのアンナ=マリー・ミエヴィルの)愛犬ロクシーも愛おしく映し出され、カンヌ国際映画祭の最高賞 パルムドールにあやかって授与される犬の最高演技賞パルムドッグ賞を受賞。ゴダール監督はこの作品で、神のように男や女や犬を創造してしまいました。3Dによって。

ゴダール監督の分身のような一匹の犬が加わる。人と動物が実際の存在を超え美しく官能的に映し出される。『さらば、愛の言葉よ』 © 2014 Alain Sarde - Wild Bunch
ゴダール監督の分身のような一匹の犬が加わる。人と動物が実際の存在を超え美しく官能的に映し出される。『さらば、愛の言葉よ』 © 2014 Alain Sarde – Wild Bunch

3D撮影は『ゴダール・ソシアリスム』(10)のファブリス・アラーニョ。3Dでは右目と左目それぞれの画像用に2台のカメラが必要ですが、本作の場合はデジタルカメラ キヤノンEOS 5D Mark II、フル4K撮影も出来るEOS 1D C 各2台、ライカのレンズを主に使用。よりイメージに近い3D動画撮影のためにゴダール監督とあらゆるカメラ、レンズでテスト撮影したといいます。

『ゴダール・ソシアリスム』(10)のファブリス・アラーニョが3D撮影。特製取手を作り、2台のカメラを上下さかさまに乗せて撮影。『さらば、愛の言葉よ』 © 2014 Alain Sarde - Wild Bunch
『ゴダール・ソシアリスム』(10)のファブリス・アラーニョが3D撮影。特製取手を作り、2台のカメラを上下さかさまに乗せて撮影。『さらば、愛の言葉よ』 © 2014 Alain Sarde – Wild Bunch
ミケランジェロまでも3Dで楽しめる!?

イタリアのテレビ局スカイイタリアが、4K3D撮影技術を駆使して制作した『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』は、観るなりヴァチカン美術館に「居る」ことを叶えてくれる作品です。

ローマ観光の中に必ずや組み込まれているこの美術館は、ルネッサンス芸術を代表するミケランジェロ、ラファエロ、レオナルド・ダ・ヴィンチらの作品を観ることが出来ることで世界的に知られています。が、一度でも訪れたら分かることですが、どの作品とも対話すら出来ないままに大勢の観光客がうごめく中、あの有名なミケランジェロ作のシスティーナ礼拝堂の天井画に描かれた『アダムの創造』をただ、ただ拝むため奥へ奥へと歩を進めるという鑑賞の仕方がほとんどではないでしょうか。

この映画は、ヴァチカンミュージアムの世界を超高精細解像度4K3D映像で写しだした、実に挑戦的で自由な手法に溢れた作品です。3Dで新たなイメージを創りだそうという姿勢にはゴダール監督と共通したものを感じます。

劇場公開とテレビ放送両方の目的で4K 3Dと、最先端の3D技術で製作された。『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』© direzione dei musei - governatorato s.c.v 
『ラオコーン群像』アゲサンドゥロス、アタノドロス、ポリュドロス合作、50年頃、ローマ出土、大理石 『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』© direzione dei musei – governatorato s.c.v 

冒頭に登場する紀元50年に作られ、1506年に出土したという古典彫刻『ラオコーン群像』のシーンを例にとってみても、そこに展示されているだけの彫刻に新たな生彩を与えています。この彫刻はギリシャ神話の中でトロイアの神官ラオコーンが大蛇に絞殺される様子を表現した作品で、後世のミケランジェロらに多大な影響を与えたと言われています。3Dの力で肉眼では感じ取れないような、実にリアルな作品の全貌を濃厚に見せつけます。至近距離で彫刻に寄り、作品に触れているかのような錯覚を覚えるその体験は、観る者に官能的な喜びさえ与えてくれます。

『最期の審判』をはじめとするマニエリスムの名画、印象派のゴッホの絵画を3Dで立体的にしてしまったことには賛否両論が寄せられてもいます。しかし、絵にする前にミケランジェロ自らが、頭の中で描いた立体的な神々や人々を垣間見ることも出来る。そう考えると、この問題も、斬新な試みの成果と言えそうです。また、この驚きこそ観る者には3Dがもたらす新体験となるでしょう。

『システィーナ礼拝堂』。天井画は教皇ユリウス2世の依頼を受けたミケランジェロが旧約聖書の9つの場面と預言者、巫女を描き盛期ルネッサンス様式を極めた。それから約20年後教皇クレメンス7世の依頼で壁画『最後の審判』を制作。マニエリスム様式の礎となった。© direzione dei musei - governatorato s.c.v
『システィーナ礼拝堂』。天井画は教皇ユリウス2世の依頼を受けたミケランジェロが旧約聖書の9つの場面と預言者、巫女を描き盛期ルネッサンス様式を極めた。それから約20年後教皇クレメンス7世の依頼で壁画『最後の審判』を制作。マニエリスム様式の礎となった。© direzione dei musei – governatorato s.c.v
ミケランジェロ『アダムの創造』、ラファエロ『アテネの学堂』など名画の世界を3Dで再現。『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』© direzione dei musei - governatorato s.c.v 
ミケランジェロ渾身の『システィーナ礼拝堂 天井画』より『アダムの創造』1508〜12年、フレスコ。そのほかヴァチカン宮殿「署名の間」ラファエロ『アテネの学堂』など名画の世界を3D化。『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』© direzione dei musei – governatorato s.c.v 

ヴァチカンの至宝をとらえた4K3D映像の合間には、西洋美術が2000年の長きにわたり追求して来た命題「芸術とは何か?」、そしてゲーテはじめ先人たちの「芸術とは世界から逃避することであり、現実とつながる方法である。」「芸術とは、神への崇高な思いが昇華されるべきもの。」などの言葉の数々が文字とナレーションによって挟み込まれます。くしくもゴダール監督が「AH DIEU(ア デュー、ああ神よ)」と3Dで浮かび上がるタイポグラフィで提示したように。

第7芸術 映画による芸術表現を追求するゴダール監督『さらば、愛の言葉よ』と、芸術とは何か考え作品を積み重ねきた西洋美術の宝庫を捉えた『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』。芸術の真髄を3Dで体感、考える新体験の2本です。

デジタルシネマカメラ RED EPIC MYSTERUM-X  sensor  5k  2台、パラレルセッティングレンズで撮影。絵画の3D化はDBW COMMUNICATION社の2D→3D変換技術 DIMENTIONALISATIONを採用。3D総指揮スーパバイザーはステファノ・レベチ。© direzione dei musei - governatorato s.c.v
デジタルシネマカメラ RED EPIC MYSTERUM-X sensor 5k 2台、パラレルセッティングレンズで撮影。絵画の3D化はDBW COMMUNICATION社の2D→3D変換技術 DIMENTIONALISATIONを採用。3D総指揮スーパバイザーはステファノ・レベチ。© direzione dei musei – governatorato s.c.v
『さらば、愛の言葉よ』
シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー公開中

監督、脚本、編集:ジャン=リュック・ゴダール
出演:エロイーズ・ゴデ、カメル・アブデリ、リシャール・シュヴァリエ、ゾエ・ブリュノー、ジェシカ・エリクソン
撮影:ファブリス・アラーニョ
原題 :Adieu au langage 3D

第67回カンヌ国際映画祭 審査員特別賞
第14回パルムドッグ 審査員特別賞
配給:コムストック・グループ
フランス / 69分/ 2D, 3D /
© 2014 Alain Sarde – Wild Bunch

『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』
2015年2月28日(土) シネスイッチ銀座ほか全国公開(3D/2D)

監修:アントニオ・パオルッチ(ヴァチカン・ミュージアム館長)
出演:アントニオ・パオルッチ、パオロ・カシラギ
監督:マルコ・ピアニジャーニ
脚本:ドナート・ダラヴァーレ
撮影:マッシミリアーノ・ガッティ
編集:ルチアーノ・ラロトンダ
製作総指揮:フランチェスコ・インヴェルニッツィ、エミリアーノ・マルトラーナ
S3Dスーパーバイザー:ステファノ・レベチ(Ultra HD 4K/3D フィルムカメラ撮影)
© direzione dei musei – governatorato s.c.v
配給:コムストック・グループ 
配給協力:クロックワークス 
日本語ナレーション:石丸謙二郎(『世界の車窓から』)
推薦:カトリック中央協議会広報
原題:The Vatican Museums 3D
イタリア / 66分 / 2D, 3D /