ちょっとへこみそう、しおれそうという時に、やる気と幸せをくれる、フレンチ・メイドな女性のための映画『ココ・アヴァン・シャネル』。

(2009.11.02)

カペル役美男子俳優も全女性の強い味方でした。

ココ・シャネルを描いた映画3本のうちの第2弾が、『ココ・アバン・シャネル』。
この夏の女性たちの注目を一心に集めた、女性のための珠玉のフランス映画なのです。

『ココ・シャネル』は、晩年のシャネルの世界的な目覚ましい復帰を、その頃のシャネルとお年頃も近いシャーリー・マクレーンが演じ、シャネル本人が乗り移ったかのような迫力に感心させられたものでした。

この、『ココ・アヴァン・シャネル』は、ココ・シャネルという一人の女性が、どのようにして、今なお頂点に名をとどろかせる世界的ファッション・ブランドのデザイナーであり創設者として成り得たかの謎に迫り、恋と仕事のサクセス・ストーリーとしても楽しめる作品です。しかも現代フランスを代表する女性監督と女優によるところも、お値打ちのひとつ。

演ずるは、あの『アメリ』で一躍、存在を知られ、『ダビンチ・コード』でハリウッド・デビューしたオドレイ・トトゥ。彼女こそもまた、シャネル同様、幸運の女神がほほ笑み、サクセスを手にした女性の中に加えられた、フランス女性でもあります。姿かたちもどことなくシャネルを彷彿とさせる、黒髪が個性的で、強い意志を感じさせる眼差しが際立つ女優。何とシャネルと同郷の出身でもあるのだとか。シャネルのために女優になったといっても過言ではないかも知れません。

シャネルほどの大物を描くとなれば、どんな監督でもキャスティングには大いに悩み、好き勝手に決められないという責任すら感じるところでしょうが、処女作とも言えそうな『ドライ・クリーニング』を発表するやいなや、ベネチア映画祭で高く評価され、自身もサクセス・ウーマンの仲間入りを果たした、アンヌ・フォンティーヌ監督は、脚本すらできていない時期にトトゥとの出会いがあり、インスピレーションを得たそうです。トトウも、“時代劇”に出演する自分を意識しつつ、シャネルの持つ現代性に強く惹かれたことで、この大役を自信を持って取り組めたとのこと。

この映画は、誰もが知っているシャネルというブランドを作り、偉業を成した一人の女性の伝記を、ただ忠実になぞって映画化をめざしたものではないのです。

今の私たち女性が自由に生き、自由に着る、自由に恋しながら、仕事にまでもサクセスしようとチャレンジする、この現代なら当たり前の女性のアイデンティティ、自由の獲得に関して、まるで冒険小説さながらに、生まれてから死ぬまでを走り抜いた一人の女性の存在、100年ほども前の男性優位の時代に自分の力で切り開いた女性の話、その可能性や神秘性をも描いているのです。その時代の女性は皆、籠の鳥のように、男性に可愛がられたけれど、持っている翼で自由に世界を飛ぶことが出来なかった。がシャネルはそれを可能にした希有な女性たったのです。

監督が、作品作りのベースとしたとされるエドモンド・シャルル=ルーの著作『ココ・アヴァン・シャネル』は、シャネル礼賛の自伝にとどまらず、本人から聞いた内容の考証に厳しく、独自の、ちょっと意地悪いほどの推察が加わった評伝にもなっています。だからこそ、監督は、そのストーリーにただの傍観者のようになり、忠実であることには、小さな抵抗を試みます。シャネルに成りきって、一人の働く女性としての、まなざしを持ってフォンティーヌ版のシャネル・ストーリーを作りあげたのでしょう。

この映画1本すべてが監督のメッセージ、恋にも仕事にもサクセスすることをめざす私たち女性に、シャネルの生き方に敬意を表しながら、「こんな生き方、最高でしょう?」と問いかけてきます。つまり、シャネルは遠くの天上人ではなく、ひょっとしたら「あなた自身ではないですか?」とも。あなたもぜひ、傍観として、また観客として楽しむだけでなく、真剣な当事者としてご覧ください。(まだ、翼が生えてない方には、生えてきそうですよ、翼)となれば、シャネルにとっての白馬に乗った王子様的存在の、永遠の恋人アーサー・カペル。彼もこの映画では彼は、フォンティーヌ監督メイドのカペル像なのです。さあ、『ココ・シャネル』のカペルと比べてみようー!これもお楽しみのひとつなのだ!シャネルに帽子店をやってみたらと背中を押し、資金も援助してくれたハンサムで洗練されたインテリジェンスあふれる男性。(ちなみに、男性に援助されっぱなしを自分に許すわけもないシャネルは、事業が軌道の乗った時点で返済を果たしていますよ)これはもう全女性にとっての理想のパートナーたる存在です。ここから読みとれ、腑に落ちることは、あの、男エチエンヌ・バルサンの風貌。カペルの親友で、もともとシャネルに貴族世界のコネクションを作ってくれた、もう一人のキーパーソン。バルサンは、最後まで女性を男性に依存させないと気が済まない男。やさしくて、愛してはくれても、女性の自由を束縛してやまない男。たくさん出版されている自伝を読む限りでは、カペル同様、美男子を想像させるが、監督がこのエチエンヌをことさら美男子として描かなかったのは、女性の敵として描いたのではないでしょうか。(ごめんなさい、バルサン役のブノワ・ボールブールド様。私のイメージとは違ったので……)

さて、全女性のあこがれの的、白馬に乗った王子様のカペルこと、アーサー・ボーイ・カペルを今回演ずるいい男は、アレッサンドロ・ニボラ様。『フェイス・オフ』の頃から目をつけていたという目利きの女性もいるほどのいい男です。(これまた、ごめんなさい、その頃私は、大好きなトラボルタ、かつニコラス・ケイジが何と同時に味わえることで頭がいっぱいでその二人以外のキャストに目がいくわけがありませんでした)。彼が来日の折、ちょこっとお話をうかがうことが出来まして、何より驚いたのが素顔の彼は、カペルに勝るいい男だったこと。

—シャネル同様、カペルは実在の男性。カペルになる時のご苦労の程は?
「幸いにというべきか、意外に写真も少ないし、資料も限られていて観客側の皆さんに知られていなかったことがありがたかったです。似てるかどうかということに関してはね。しかし、その分自分も彼のことを完全に知ることはできない。出版されていた書籍を読みイメージを膨らませていきました。実在の彼に似せようというより、彼の考え方や生き方を知ることに時間をかけました」

—女性の味方であるカペルを男性から見てどう思いますか?
「カペルはシャネルの愛人だったエチエンヌ・バルサンからシャネルを紹介されました。
彼もまたシャネルのように、実の両親のもとで育てられた境遇ではなく、エチエンヌのような貴族の家柄でもない。自分の力で自分の地位を築いていこうとする人間でした。その点でシャネルを一人の女性、愛人として見るのではなく、一人の自立した人間になるべき存在として共感を覚えたと思います。女性も男性に頼るだけでなく自分の才能を活かし生きていくことをすべきであると、封建的な時代に考えることのできた数少ない男性だったと思います」

(ここでちょうど、奥様からの連絡が、彼の携帯に入り、しばし中断)

—その時代から1世紀以上たつ現代に生きる男性の代表として、あなたご自身は働く女性の味方でしょうか?
「そうですね。そうならざるを得ないでしょう。先ほど話していた私の妻は、私と同業の働く女性です。彼女が女優という仕事をしている以上、僕も俳優だからといって何でも彼女にウチのことをやってもらったりできないし、お互いに対等で認めあっての結婚生活を続けていますよ。結婚生活を維持するために男性も努力することは当たり前だけど,まあ、言わば、そうだ、犬って人間の1年分で4年分を生きるでしょう?そんな感じかな、女性と人生を共にすることって。つまりもう僕は50年も彼女との結婚生活を続ける努力をしてきているということですよ(笑)。答えになってるかな?」

こんな感じの、カペルに勝るとも劣らぬフェミニストなニボラ様なのでありました。すでにこの映画は多くの女性が何回でもご覧になっているはず。が、素顔の彼と見比べてくださいませ。生写真ご参照のこと。
こんなカペル役のお宝情報をいただきながら、この欄にUPするのがこんなに遅くなったことは誰あろう、このニボラ氏に一番に謝らなくてなりません。日本での大ヒットを今どのように受け止めていらっしゃるか、直接聞いてみたいものです。

そうか、そうなのだ、今や時代はシャネル時代とは逆転し、自由を手にした女性に、男性がかしずかざるを得ない時代。犬の気持ちで女性との人生を歩むのですね。というわけですから、私たち全女性のために先鞭をつけてくれ、ここまでにしたシャネル様には頭も上がらないのだ!シャネル詣で、まだしてない方はもちろん、今からでも間に合う!映画館に走ってください。6日までですよ!
声高にフェミニズムを掲げないで女性の自由を獲得したシャネルは、そこがカッコイイですね。それを受け継ぐかのように作られた、久々の女性映画の名作が、またひとつ増えました。

シャネルとは単なる恋人関係ではなく、共犯者のような想いを分かち合えたふたりだった。時代劇は紳士的な魅力だったが素顔のニボラは、かなりの美男子です。
21世紀、新たなシャネル誕生という気品と気骨をにじませるオドレイ・トトゥ。記者会見の折は素顔の美しさものぞかせた。photo/Reiko Suzuki

『ココ・アバン・シャネル』
監督:アンヌ・フォンテーヌ
キャスト:オドレイ・トトゥ、ブノワ・ポールブールド、アレッサンドロ・ニボラ、マリー・ジラン、エマニュエル・ドゥボス他
2009年/フランス/110分/カラー
配給:ワーナー・ブラザース映画
現在は、2009年11月6日(金)まで、シネセゾン渋谷ほか上映中。