6/14公開 浅野忠信、二階堂ふみ 『私の男』 なぜか、女の人が強くなっちゃう。熊切和嘉監督インタビュー。

(2014.06.13)
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© 2014 by peter brune
大阪芸術大学の卒業制作『鬼畜大宴会』(’97)が第20回ぴあフィルムフェスティバルにおいて準グランプリに輝き、劇場でも大ヒットを記録。その後も、繊細な心理描写を得意としながら、容赦のない暴力と真っ向から向き合い、「静と動」ともいえる極端な作風により、コンスタントに映画を撮り続けてきた熊切和嘉監督。『海炭市叙景』『夏の終り』に続く最新作は、直木賞を受賞しベストセラーとなった桜庭一樹原作による『私の男』です。禁断の純愛を描いた衝撃的な内容から、映画化不可能と言われた本作に、監督は一体どうやって挑んだのか―。公開に先立ち、熊切監督にお話を伺いました。
故郷である北海道を舞台に、
「禁断の愛」を真っ正面から描きたかった。

―まず、原作についてお聞きします。監督は原作のどの部分に一番魅力を感じ「映画化したい」と思われたのでしょうか。

熊切監督:やはり一番は、いわゆる「禁断の関係」を逃げずに描いているところです。日本映画って際どいテーマを避けがちじゃないですか。描くとしても、横溝正史的な作品で「忌まわしき過去」のように扱うくらいで。でもこの作品は対象に近づいて描いているところに惹かれましたね。

ー監督ご自身が北海道のご出身ということも、本作に興味を持った理由の一つですか?

熊切監督:それはすごくありましたね。地元を離れて大阪で大学生活を送っていたころ、ちょうど奥尻島で地震が起きたり、北海道拓殖銀行が破綻したりしたことがきっかけで、90年代以降の北海道の負の歴史に興味を持って調べていたんです。そういうこともあって、オホーツク海の流氷がたどり着く北海道を舞台に展開するこの作品と出会い、「これは自分が撮る映画だ」と思い込んだのです。

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奥尻島を襲った地震で家族を失った少女・花(左・二階堂ふみ)と、引き取って育てることにした男・淳悟(浅野忠信)の間に芽生える「禁断の愛」。

 

ー地震で家族を失った少女・花と、引き取って育てることにした男・淳悟の間に芽生える「禁断の愛」の象徴ともいえる「赤い雨」のシーンが衝撃的でした。これは映画のオリジナルの部分になりますね。

熊切監督:原作だとここは赤いジャムを塗るシーンなんですが、脚本の段階からこの「赤い雨」のシーンはオリジナルで入れていましたね。より、背徳感を強めたかったというのと、やはり血のつながりを描いた話なので、血に溺れていくようなイメージを出したかったというのがありますね。

唯一無二の個性を持った俳優陣を
キャスティング。

―監督は、原作を読んで、即座に浅野忠信さんを淳悟に重ねられたそうですね。監督とほぼ同世代の俳優でもある浅野さんの魅力を、どのように捉えていますか?

熊切監督:劇場で『眠らない街~新宿鮫~』(’93)を見たときに、犯人役の浅野さんを発見して「うわ、こいつは誰だ!」と思いましたね。そこから初期の作品は全て見るようになって。浅野さんの芝居って、映像における芝居を変えたところがあると思うんです。まぁ、それを単純に真似して失敗してる人もいっぱいいるから(笑)、ある意味、悪影響も与えてると思うんですけど。でも浅野さんは我が道を行っている、日常からお芝居のヒントを得ている感じがするんです。それがやっぱりすごいところで、この役を演じる上でも、淳悟の持っている空虚感だったり、痛みだったりを実感して、あとは素直に口に出すだけっていうか。もちろん台本はあるんだけど、アプローチがほかの役者さんとは全然違う。僕は俳優としてのビートたけしさんも当時から好きだったんです。予定調和の作品でも、たけしさんが出てくるだけでめちゃめちゃ面白いじゃないですか。画面からはみ出すというか。カット割を覆す感じが、浅野さんとたけしさんにはあったんです。

―それは本作で大塩役を演じた藤竜也さんにも通じるところがありますね。

熊切監督:そうですね。ただそこで生きているだけでいい、という迫力が藤さんにもあります。

ー危うさと色気を漂わせる淳悟は、まさに浅野さんのはまり役で、特にラストの表情が印象的でした。

熊切監督:あのシーンで本当に浅野さんがクランクアップだったんです。だから、どういう顔で来るかなって僕も期待していたところがあったんですが、もうこれは「よし!撮れた!」って直感的にわかりましたね。

kumakiri-kazuyoshi-101奥尻島の地震でひとり取り残された花と、遠い親戚と名乗る男・腐野淳悟が出会ってから18年間の物語。
kumakiri-kazuyoshi-102 中学生になった花は、淳悟の恋人・小町(河合青葉)に自分の淳悟に対する気持ちを隠さない。
kumakiri-kazuyoshi-103 地元の名士・大塩(藤 竜也)は高校生になった花と淳悟のただならぬ関係に気づく。
kumakiri-kazuyoshi-104 大塩はふたりを引き離そうと画策し……。ふたりは東京へ出ることにする。

―浅野さんの存在感もさることながら、二階堂ふみさんも、全身全霊で「花」を演じきっていました。監督が「花」役に二階堂さんを起用した際の、決定打とはなんだったのでしょうか。

熊切監督:「花」って本当に難しい役なんですよ。この映画の企画が立ち上がった当初、知っていた既成の役者の中では全然思いつかなくて、もう新人じゃないとダメなんじゃないか、って言っていた頃に、ちょうど別作品のオーディションがあったんです。「おはようございます。○○から来ました△△です。」って事務所の教育通りに挨拶する子たちの中に、一人だけ不機嫌な美少女が現われて(笑)。それが二階堂さんとの出会いです。もう、目が離せなかったですよ。一人だけ自分の意思で動いているというか芯があるというか。ほとんど一目ぼれに近かったんじゃないかな。

 
アイテムから音楽、題字まで。
熊切監督のこだわり。

―「花」のメガネ姿が生々しく色っぽかったのですが、フレームや形には相当なこだわりがあったのでしょうか。

熊切監督:確かに、メタルフレームのイメージにはちょっとこだわりがありましたね。個人的にメガネっ子が好きっていうのもあるんですが(笑)、可愛い二階堂さんをちょっとイモっぽく見せるためっていうのが一番の理由かな。眼鏡をはずしたときに、だんだんと大人になって花開いていく変化が出せたらというのもあって。

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―本作で音楽を手掛けたジム・オルークさんとは『海炭市叙景』(’10)、『夏の終り』(’13)につづいて3作品目です。どのようなやりとりを経て、作品が出来上がるんでしょうか。

熊切監督:ジムさんのことは若松監督の映画などを通してもちろん知ってはいたんですが、どちらからというと前衛的なイメージがあったんです。『The Visiter』という曲の出だしのフレーズが好きで、『海炭市叙景』のときに試しにプロデューサーからお願いしてもらったら、やってもらえることになって。ジムさんとやるときは、まず編集ラッシュを見てもらって、それから日本酒を呑みながらあーだこーだとイメージを伝え合って、あとは音楽を入れて欲しい箇所のタイムを伝えています。

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ー本作の題字が洗練されていてとても素敵だったんですが、デビュー作の『鬼畜大宴会』(’97)のときから独特な字を使われていましたよね。監督の題字へのこだわりを感じました。

熊切監督:『鬼畜大宴会』のときは、自分でイメージに合うフリーフォントを見つけてきて、それを元に書き起こして使ったんです。うねうねしていて、禍々しいけどかっこいい。「これだ!」と思いましたね。今回のタイトルデザインは津田輝王さんにお願いしています。やっぱりゴシックではないよな、というところで、かといって明朝でもない。絶妙なところです。

  • 熊切和嘉(くまきり・かずよし)映画監督。1974年9月1日北海道生まれ。『鬼畜大宴会』(’97)で『ぴあフィルムフェスティバル』準グランプリ、世界の映画祭に出品、イタリアの『タオルミナ国際映画祭』でグランプリ受賞一躍注目を浴びる。『空の穴』(’01)、『アンテナ』(’03)、『揮発性の女』(’04)、『青春☆金属バット』(’06)、『フリージア』(’06)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(’08)など発表する作品はいずれも国内外で高い評価を得ている。12年にはブラジルの映画祭INDIE 2012ではデビュー作品から『海炭市叙景』(’10)までレトロスペクティグ上映された。© 2014 by peter brune
    熊切和嘉(くまきり・かずよし)映画監督。1974年9月1日北海道生まれ。『鬼畜大宴会』(’97)で『ぴあフィルムフェスティバル』準グランプリ、世界の映画祭に出品、イタリアの『タオルミナ国際映画祭』でグランプリ受賞一躍注目を浴びる。『空の穴』(’01)、『アンテナ』(’03)、『揮発性の女』(’04)、『青春☆金属バット』(’06)、『フリージア』(’06)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(’08)など発表する作品はいずれも国内外で高い評価を得ている。2012年にはブラジルの映画祭『INDIE 2012』でデビュー作品から『海炭市叙景』(’10)までレトロスペクティグ上映された。© 2014 by peter brune
  • 熊切和嘉(くまきり・かずよし)映画監督。1974年9月1日北海道生まれ。『鬼畜大宴会』(’97)で『ぴあフィルムフェスティバル』準グランプリ、世界の映画祭に出品、イタリアの『タオルミナ国際映画祭』でグランプリ受賞一躍注目を浴びる。『空の穴』(’01)、『アンテナ』(’03)、『揮発性の女』(’04)、『青春☆金属バット』(’06)、『フリージア』(’06)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(’08)など発表する作品はいずれも国内外で高い評価を得ている。12年にはブラジルの映画祭INDIE 2012ではデビュー作品から『海炭市叙景』(’10)までレトロスペクティグ上映された。© 2014 by peter brune
    熊切和嘉(くまきり・かずよし)映画監督。1974年9月1日北海道生まれ。『鬼畜大宴会』(’97)で『ぴあフィルムフェスティバル』準グランプリ、世界の映画祭に出品、イタリアの『タオルミナ国際映画祭』でグランプリ受賞一躍注目を浴びる。『空の穴』(’01)、『アンテナ』(’03)、『揮発性の女』(’04)、『青春☆金属バット』(’06)、『フリージア』(’06)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(’08)など発表する作品はいずれも国内外で高い評価を得ている。2012年にはブラジルの映画祭『INDIE 2012』でデビュー作品から『海炭市叙景』(’10)までレトロスペクティグ上映された。© 2014 by peter brune
  • 熊切和嘉(くまきり・かずよし)映画監督。1974年9月1日北海道生まれ。『鬼畜大宴会』(’97)で『ぴあフィルムフェスティバル』準グランプリ、世界の映画祭に出品、イタリアの『タオルミナ国際映画祭』でグランプリ受賞一躍注目を浴びる。『空の穴』(’01)、『アンテナ』(’03)、『揮発性の女』(’04)、『青春☆金属バット』(’06)、『フリージア』(’06)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(’08)など発表する作品はいずれも国内外で高い評価を得ている。12年にはブラジルの映画祭INDIE 2012ではデビュー作品から『海炭市叙景』(’10)までレトロスペクティグ上映された。© 2014 by peter brune
    熊切和嘉(くまきり・かずよし)映画監督。1974年9月1日北海道生まれ。『鬼畜大宴会』(’97)で『ぴあフィルムフェスティバル』準グランプリ、世界の映画祭に出品、イタリアの『タオルミナ国際映画祭』でグランプリ受賞一躍注目を浴びる。『空の穴』(’01)、『アンテナ』(’03)、『揮発性の女』(’04)、『青春☆金属バット』(’06)、『フリージア』(’06)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(’08)など発表する作品はいずれも国内外で高い評価を得ている。2012年にはブラジルの映画祭『INDIE 2012』でデビュー作品から『海炭市叙景』(’10)までレトロスペクティグ上映された。© 2014 by peter brune
  • 熊切和嘉(くまきり・かずよし)映画監督。1974年9月1日北海道生まれ。『鬼畜大宴会』(’97)で『ぴあフィルムフェスティバル』準グランプリ、世界の映画祭に出品、イタリアの『タオルミナ国際映画祭』でグランプリ受賞一躍注目を浴びる。『空の穴』(’01)、『アンテナ』(’03)、『揮発性の女』(’04)、『青春☆金属バット』(’06)、『フリージア』(’06)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(’08)など発表する作品はいずれも国内外で高い評価を得ている。12年にはブラジルの映画祭INDIE 2012ではデビュー作品から『海炭市叙景』(’10)までレトロスペクティグ上映された。© 2014 by peter brune
    熊切和嘉(くまきり・かずよし)映画監督。1974年9月1日北海道生まれ。『鬼畜大宴会』(’97)で『ぴあフィルムフェスティバル』準グランプリ、世界の映画祭に出品、イタリアの『タオルミナ国際映画祭』でグランプリ受賞一躍注目を浴びる。『空の穴』(’01)、『アンテナ』(’03)、『揮発性の女』(’04)、『青春☆金属バット』(’06)、『フリージア』(’06)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(’08)など発表する作品はいずれも国内外で高い評価を得ている。2012年にはブラジルの映画祭『INDIE 2012』でデビュー作品から『海炭市叙景』(’10)までレトロスペクティグ上映された。© 2014 by peter brune
いつまでも「映画のことなら熊に聞け」と言われたい。
監督と映画の深い関わり。

―監督と映画の関わりについて伺います。小さいころから映画がお好きだったそうですが、監督になりたいと具体的に意識されたのはいつぐらいからだったのでしょう。

熊切監督:僕、小学校時代から、クラスで一番映画が詳しいヤツ、っていう立ち位置をずーっとキープしてたんですよね。「映画のことでわかんなかったら、熊に聞けばいいよ」っていうことで市民権を得ていたんで(笑)、やっぱり意地がありますよね。北海道の田舎で映画に一番詳しいヤツっていうのが、大阪に行ってもキープして、東京に来てもそれを死守し続けたいってところですかね。だから、映画監督という職業に就きたいというよりは映画を撮りたいという感じでしたね。漫画を描いたりもしてたんですけど、中学時代はジョン・ウーの『男たちの挽歌』が大好きだったんですよね。バンドとかかっこいいですけど、映画撮るってちょっとオタクっぽくて恥ずかしいところがあって、部屋でこそこそ撮ってましたね。

ーこれまでの作品を拝見しても、監督には潜在的に、女性に振り回されたい願望があるのではないかと思うのですが、実際のところはいかがでしょう?

熊切監督:あぁ~、確かに僕の映画に出たいっていう男の俳優はみんな「女にボロボロにされたい」って言いますね。大体僕の映画って、女の人が男を殴ってる(笑)。なぜか、女の人が強くなっちゃうんですよね。そうじゃないと撮れないんです。

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これまでの暴力全開の激しい作風から想像するに、監督は相当怖い方なのでは…と少々怯え気味で向かった今回のインタビュー。蓋を開けてみたら、どんな質問にも気さくに答えて下さる、とても穏やかな方でした。映画『私の男』には、熊切作品の特性ともいえる、繊細さと狂気が見事に入り混じっています。インタビュー中、監督が椅子の上で胡座をかいていたとは! と、後から写真で気づいたように、表に見えている部分だけでは決して計り知れない、爆発力を秘めている方なのだと推察しました。

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『私の男』
2014年6月14日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

出演:浅野忠信、二階堂ふみ、モロ師岡、河井青葉、山田望叶、高良健吾、藤 竜也
監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
音楽:ジム・オルーク
撮影:近藤龍人

2013年 / 日本 / 129分 / 5.1ch / シネマスコープ / カラー / デジタル / R15+
©2014「私の男」製作委員会