圧倒的な風景と独特なセリフ回し。映画『ノルウェイの森』

(2010.12.10)

いよいよ12月11日(土)より公開となる映画『ノルウェイの森』。1987年の刊行以来、世界各国で36言語に翻訳され、日本国内では累計発行部数1044万部を突破し、小説累計発行部数歴代第一位を更新し続けている、言わずと知れた村上春樹による大ベストセラーを、『青いパパイヤの香り』『シクロ』『夏至』で世界的に高い評価を獲得したベトナム系フランス人のトラン・アン・ユン監督が、約6年の歳月と製作費10億円以上かけて映画化した本作は、主題歌に、許諾が極めて難しいとされるビートルズの原盤が使用されていることでも注目を集めています。
 
映像化不可能と言われつづけた村上春樹の長編小説の世界を、「トラン監督ならば」と原作者の心を動かしたことで実現に至った本作。異なる言語での演出をものともせず、日本を代表する若手キャストを起用し、音楽にはレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドを迎え、トラン監督とは『夏至』以来のタッグとなる台湾のカメラマン、リー・ピンビンによる透明感溢れる叙情的な映像で、世紀を越え、原作の登場人物たちに名だたる才能が息を吹き込みました。

劇場公開に先駆け、去る11月23日(祝)には本作のロケ地としても使用された早稲田大学においてジャパンプレミアが開催され、大隈講堂前に敷き詰められたレッドカーペット上に、クラシックカーから主演の松山ケンイチ、菊地凛子、主人公の親友役を演じた高良健吾らキャスト7名とトラン監督が登場。

レッドカーペットでのフォトコール。後列左からトラン・アン・ユン監督、霧島れいか、高良健吾、初音映莉子。前列左から水原希子、松山ケンイチ、菊地凛子、玉山鉄二。

待ちわびたファンの方々へサインをしながら、マスコミのフォトコールに応え、講堂内に移動し満員の観客を前に、舞台挨拶が行われました。マスコミ以外には初のお披露目ということもあり、緊張の面持ちから次第に和やかな雰囲気へと刻々と変わっていく姿をまのあたりにし、役者が不安と期待を込めて公開に臨む瞬間に立ち会っている、という実感がありました。

「役をくれるの?」とトラン・アン・ユン監督に詰め寄ったという、菊地凛子の直子役獲得裏話に監督タジタジ(!?)
主人公ワタナベを演じた松山ケンイチ。役が決まって慌てて水泳を習ったというエピソードも披露。
『ヴェネツィア国際映画祭』コンペティション部門に正式出品した。photo / Kazuko Wakayama

翻訳された原作小説を読んだときから、その世界観に魅了されたトラン監督は映画化を熱望し、この映画はあくまで「日本人の役者で撮影しなければ意味がない」と考えていたそう。キャスティングに際しては、当初監督が考える原作のイメージとは違っていた、という二人を主演に起用。トラン監督は、実際に会って目の前で話し始めた松山ケンイチに主人公ワタナベそのものを、そして自ら一場面を演じた映像を用意した菊地凛子の中に直子の姿を見出し、この映画の骨格が現れ始めます。

さらに難航した緑役には、映画初出演となるモデルの水原希子が大抜擢され、何色にも染まっていない瑞々しい緑像が生まれました。また、自殺してしまう友人キズキ役を演じた高良健吾が見せる笑顔と憂いのある表情が、短い出演ながらも鮮烈な印象を残しています。

村上文学といえば、その独特なセリフまわしが有名ですが、この作品においても、緑をして「私、あなたの喋り方すごく好きよ。」と言わしめる主人公ワタナベの話し方を、松山ケンイチが忠実に再現。文語体ともいえるセリフを映画において役者が実際に口にするのはかなり困難なはずですが、ここはあえてその難関に挑んでいます。もちろん(!)ワタナベの口癖も聞くことが出来ますよ。

これまで誰もが望んでも実現できなかった村上春樹の『ノルウェイの森』の映画化という夢を、自らの手で掴み取ったトラン・アン・ユン監督とスタッフが結集して完成させた映画『ノルウェイの森』。

日本で撮影したとは思えないほどの圧倒的な風景と、忠実に時代が再現されたセット、そしてレトロな衣装や小物などなど、見逃せないポイントがたっぷりと詰まった、果てしなくせつないトラン監督流『ノルウェイの森』を、ぜひ劇場で体感してみてください。

 

photos, text / Reico Watanabe

 

 

ストーリー

高校時代に親友・キズキ(高良健吾)を自殺で喪ったワタナベ(松山ケンイチ)は、誰も知っている人間がいないところで新しい生活を始めるために東京の大学に行く。そこでワタナベは読み漁っていた本の余白と同じような空っぽな日々を送るが、ある日偶然直子(菊地凛子)と再会する。直子はキズキの恋人だった。

キズキはワタナベにとって唯一の友だったので、高校時代にはワタナベと直子も一緒によく遊んでいた。それからワタナベと直子はお互いに大切なものを喪った者同士付き合いを深めていき、ワタナベは透き通った目を持つ直子に魅かれていく。そして、直子の二十歳の誕生日に二人は夜を共にする。ところが、ワタナベの想いが深まれば深まるほど直子の方の喪失感はより深く大きなものになっていき、直子は結局京都の療養所に入院することになる。

そんな折にワタナベは大学で、春を迎えて世界に飛び出したばかりの小動物のように瑞々しい女の子・緑(水原希子)と出会う。直子と会いたくても会えないワタナベは、直子とは対照的な緑と会うようになっていき、あるとき緑の自宅での食事に招かれて唇を重ねる。それはやさしく穏やかで、何処へいくあてもない口づけだった。

その後、直子から手紙が届き、ワタナベは直子に会いに行けることになる。そこで、ワタナベは直子の部屋の同居人・レイコ(霧島れいか)のギターによるビートルズの「ノルウェイの森」を聴くことになる。それは、直子が大好きな曲だった。

©2010「ノルウェイの森」 村上春樹/アスミック・エース、フジテレビジョン

 

 

『ノルウェイの森』

2010年12月11日(土)より 全国東宝系公開

出演:松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、玉山鉄二、高良健吾、霧島れいか
原作者:村上春樹 
監督:トラン・アン・ユン
撮影:李屏賓(マーク・リー・ピンビン) 
音楽:ジョニー・グリーンウッド 
主題歌:ザ・ビートルズ『ノルウェイの森』
2010年 / 本編 2時間13分 / PG12作品
http://www.norway-mori.com/