5月27日(金)〜TOHOシネマズ シャンテ他公開『神様メール』って、どんなメール? JV・ドルマル監督に聞いてみました。

(2016.05.21)
神は天ではなく、なんとベルギーのブリュッセル在住だった!
神は天ではなく、なんとベルギーのブリュッセル在住だった!
神様のお告げがメールで来る!

長編処女作『トト・ザ・ヒーロー』(91)が、第44回カンヌ映画祭にノミネートされるやいなや、カメラドールを受賞。一躍国際的監督の仲間入りを果たしたベルギー出身のジャコヴァン・ドルマル監督最新作が、『神様メール』。

寡作で知られるドルマル監督、処女作から25年、前作となる『ミスター・ノーバディ』から、15年の時を経て完成させ、待望の4本目となります。原題が『The Brand New Testament』で、「新・新約聖書」というような意味になるのだとか。ずいぶんと、大胆不敵なタイトルですこと。

「不快の法則」を確立してイヒヒと邪悪に笑う神(ブノワ・ポールヴールド)。人間をもてあそんでいるのだ。
「不快の法則」を確立してイヒヒと邪悪に笑う神(ブノワ・ポールヴールド)。人間をもてあそんでいるのだ。

キリスト教の救世主と言えばイエス・キリスト。何度となく映画化され、ロックスター並みの存在ですが、この映画では、そんな彼のことを父親は言い放つのです。「善行を施す奇跡ばかり起こしているから人間に迫害され殺されてしまった理想主義者だ」と。

イエスの父親って、つまりは、「天にまします我らが父」であり、「主(しゅ)」と崇められているあの方。なんと、ベルギーに住みパソコンからいたずら気分で、戦争や大事故や天災を起こす悪魔のような神様として、フランス映画界でも好感度が高いブノワ・ポールヴールドが演じています。

実は神様にはイエスに比べ、まったく知られていないエア(ピリ・グロワーヌ)という10歳の娘がいて、反抗期まっただ中で、父に造反! 新しい奇跡と幸せを人間界にもたらそうと、メールでお告げを送ってしまう。それは、運命に縛られることなく、好きに人生を楽しめるよう、人それぞれの余命を告知してあげるという、これまた迷惑なプレゼント。人間界は騒然! 大混乱!!

 神様の食卓を囲むのは妻の女神(ヨランド・モロー)と娘(!!)のエア(ピリ・グロワーヌ)。壁の最後の晩餐の絵に注目!

神様の食卓を囲むのは妻の女神(ヨランド・モロー)と娘(!!)のエア(ピリ・グロワーヌ)。壁の最後の晩餐の絵に注目!
 
荒唐無稽さを、芸術にまで引き上げる映像美

これをきっかけに、エアは新しい使徒を探して幸せの布教と新約聖書を塗り替えるための旅に出る。そこで生まれる数々の奇跡と幸せが、この作品の見せ場と言うわけです。

荒唐無稽に思えるこの発想こそ、どの作品にも共通したドルマル監督のテーマであり、真骨頂。これを抑え一級の芸術作品に仕上げるのは、監督独特の“詩的な映像美”なのです。

エアの兄貴はキリスト。いつもはフィギュアとしてフリーズしているがエアの相談に乗っている。
エアの兄貴はキリスト。いつもはフィギュアとしてフリーズしているがエアの相談に乗っている。

今回も魔法がかかったような美しいシーンには、目を見張ります。監督の映画についてのこだわりは何なのか、稀代の映像美はどうして生まれるのかなど、来日したドルマル監督に、うかがいました。

「毎回違った映画を作っているつもりなんですが、出来上がってみると、どこか似ているとよく言われます。人が生きるという体験の不思議さ。これに私が憑りつかれているといっても良いのかも知れません。人生って物語のようにはいかないものです。私の仕事は、映像で人の人生を物語ること。その私の人生もまた、物語のようには起承転結がわかっているものではないのです」

映画作りは、「人生は物語ではないんだ」ということを自分に言い聞かせて慰めている行為に近いと言う、ドルマル監督。うーむ、詩的であり哲学的。深いお言葉をいただきました。

 エアは支配的な神に反逆。人間にその余命を告げる福音(!?)メールを送信する。

エアは支配的な神に反逆。人間にその余命を告げる福音(!?)メールを送信する。
 
余命を知った人生の面白さが、見せ場

余命を知って保険屋だった男が殺し屋に転職(笑)、普通のサラリーマンだった男が冒険家になり、鳥を追いかけ北極をめざすとか、なぜ今まで我慢し続けていたのかと言う様な夢を実現していく。(片やメールと縁のない浮浪者は、余命を知らずに、それまで通りの人生を全うし続けると言うのも笑える)。全編には、一途な皮肉が飛び交い、何と小気味良い映画だろうか!

余命5年2か月17日と告知された、カトリーヌ・ドヌーヴ演じる有閑マダムは、愛の冷めた夫に決別する踏ん切りがつき、ゴリラとベッド・イン。新しい恋に落ちるって…ここまで来るとちょい、悪趣味か否か(笑)。

兄貴を見習って使徒探しの旅に出たエア。メールを受け取った人々は人生でやりたかったことをはじめる。余命5年2ヶ月17日のマルティーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は……。
兄貴を見習って使徒探しの旅に出たエア。メールを受け取った人々は人生でやりたかったことをはじめる。余命5年2ヶ月17日のマルティーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は……。
 使徒にスカウトされたのはマルティーヌのほか孤独な美女オーレリー、会社員のジャン=クロード、保険屋のフランソワ、セックス依存症のマルク、余命53日の小学生 ウィリー。それぞれのこれまでと余命を悟った後の姿は福音書記 ヴィクトワールによって綴られる。

使徒にスカウトされたのはマルティーヌのほか孤独な美女オーレリー、会社員のジャン=クロード、保険屋のフランソワ、セックス依存症のマルク、余命53日の小学生 ウィリー。それぞれのこれまでと余命を悟った後の姿は福音書記 ヴィクトワールによって綴られる。

「人は運命を信じ、それをすべて神様に委ねようとして人生を自分で切り開くことに勇気が持てないでいます。ベルギーでは多くの人々がキリスト教の信者ですから運命を甘受しないことは罰が当たると思い込んでいます。それをやめて、もっと自分らしく生きることを応援したい、そう思って、私はいつも映画で好きなことをしてお見せしているんです(笑)」
ちなみに監督は無神論者だそうで、神様はいないと思っていると言います。

この作品にはそういう気持ちが顕著に込められ、キリスト教に限らず、神様とか救世主を痛烈に“いじり回し”ているところが、なるほどに面白い。それをブラックまでに持って行かず、ビター・スイートに味付けしてしまうところが、ドルマル監督が手練れの所以です。

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ジャコ・ヴァン・ドルマル監督プロフィール Jaco Van Dormael
映画監督。1957年ベルギー生まれ。ベルギー映画学校、ルイ・リュミエール映画学校で学ぶ。1991年『トト・ザ・ヒーロー』で第44回カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール賞を獲得。『八日目』(96)は第49回カンヌ国際映画祭でダニエル・オートゥイユ、パスカル・デュケンヌのふたりが主演男優賞受賞。『ミスター・ノーバディ』(09)は第23回ヨーロッパ映画賞観客賞受賞。いつも子供の心を忘れない作風は児童演劇の監督をしていたというキャリアからもうかがい知れる。 2016© by Peter Brune

「ベルギーはチョコレートやビールから始まり、作るものがとにかく芸術的職人芸というものが発達して来た国なので、この作品もそういう環境から生み出されたと思って味わってください」

監督のこの言に従って、メイド・イン・ベルギー映画を味わいましょう! 今までにない新鮮な驚きに包まれ、昨日と違う幸せをがたらされる。間違いなしの、福音=喜ばしい知らせ 映画です。

使徒は既存の12人に6人加わり18人に。余命が尽きそうなウィリーを囲んで奇蹟を願うエア。最後はこんなニコニコ顔に。
使徒は既存の12人に6人加わり18人に。余命が尽きそうなウィリーを囲んで奇蹟を願うエア。最後はこんなニコニコ顔に。

LE TOUT NOUVEAU TESTAMENT - THE BRAND NEW TESTAMENT-09

『神様メール』2016年5月27日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他〈ミラクル〉ロードショー!

出演:ピリ・グロワーヌ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ブノワ・ポールヴールド、フランソワ・ダミアン、ヨランド・モロー
監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
脚本:ジャコ・ヴァン・ドルマル、トーマス・グンズィグ
原題:LE TOUT NOUVEAU TESTAMENT/THE BRAND NEW TESTAMENT
2015年 フランス、ベルギー、ルクセンブルク / カラー / 115分 / スコープサイズ / 5.1ch サラウンド / フランス語 / 日本語字幕:松浦美奈 / 【PG12】
配給:アスミック・エース

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