ジャン=ポール・ルーヴ監督インタビュー フランスで大ヒットした家族映画『愛しき人生のつくりかた』のつくられ方。
(2016.01.21)本国フランスで100万人を動員したという映画、それがジャン=ポール・ルーヴ監督作品『愛しき人生のつくりかた』です。監督はセザール賞受賞俳優でもある多才な実力派。お話をうかがいました。
家族それぞれの、愛おしい人生づくりとは?
これは……フランス映画が得意とする家族の映画です。何の不安もない平和な毎日を送ってきた家庭を愛する家族たち。しかし、それぞれが人生の転換期を迎えることに。
そのきっかけは、最愛の夫に先立たれた老婦人のマドレーヌがパリのアパルトマンで一人暮らしをすることから始まり、そんな実母を心配はしても同居は避けたいと思う三人の息子たちによって老人施設の暮らしを余儀なくされます。まだまだ若く元気な彼女でしたが、アパルトマンは売り払らわれ、彼女の終の居場所はもうありません。
息子のひとり、長男であるミシェルはといえば定年退職の時を迎えたばかりで毎日をもてあまし、妻のナタリーとの間にも不協和音が生まれています。彼の息子ロマンだけが、祖母を思いやる。そんな時マドレーヌが施設から抜け出し行方不明となる一大事勃発! 捜索するロマンは祖母の生まれ故郷ノルマンディーに行き先をつきとめ、仲の良い祖母と孫の思いがけない旅が始まります。そして彼ら3世代家族の間には新しい出来事が次々と生まれていくのです。すべてが人生の愛おしい思い出となるかのように。
そのまま舞台を日本に置き換えても良いくらいに、今の時代が抱える世界共通の問題を深刻ではなく、あくまで平素で日常的な出来事として映し出しリアリティに富んだ内容に作り上げています。誰もがここに登場する家族の誰かに自分を投影してしまうに違いない。だからこそ100万人動員なのです!
俳優と監督の二つの才能を活かすルーヴ監督。
このリアリティは監督ご自身の経験からに違いないと思うわけで、まずは、監督に直にうかがってみました。来日が叶わず、スカイプを使ってのインタビューです。
「残念ながら(笑)、私自身は両親がまだ若く健在で実際に親の介護経験はありません。35万部のベストセラーとなったダビッド・フェンキノスの同名小説(原題『Les souvenirs』の映画化で、彼から監督やってくれって頼まれたのです。私達二人に共通したセンスがあったから、脚本も彼が手がけることになり、二人して楽しみながら完成させることが出来ました。観客は実体験に感動を得たかったわけではなく、普段忘れているような両親との関係性を思い出すことが出来たという点で、多くの人たちが評価してくれたと思います」
スカイプでは監督の素顔ははっきりとは拝めなかったのですが、『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』(’07)に出演するなど、俳優としても知られ、この作品でもホテルのオーナーでロマンの雇い主として登場。そのジェントルな風貌を知ることが出来たルーヴ監督です。
演じることと監督することをどのように使い分けていて、仕事のエネルギー配分はいかがなものでしょうか、興味ありです。
「演技者たちはカメラの後ろにも立つということがフランス映画の伝統であると考えられています。役者と監督の両方を手がけることは自然です。私はもともとテレビや寸劇のためのシナリオを書いていて、役者以前に作り手でした。もちろんこれからも俳優の仕事は続けていこうと考えていますが、目下もフェンキノスと二人でオリジナルのシナリオを書いているところ。次の映画作品を作る予定です」
愛しい「思い出」は、人生の「お土産」。
本作品の成功の要因のひとつに、キャスティングが注目されます。老婦人マドレーヌを演じている国民的歌手で88歳現役のアニー・コルデイや、定年退職してダメ親父と化すミシェル・ブランの起用にもルーヴ監督のセンスが際立ちました。
ブランと言えば、日本では、90年代フランス映画を代表する作品のひとつとして彼主演のパトリス・ルコント監督作品『仕立て屋の恋』が知られるところです。カンヌ映画祭に出品されるやいなや、元祖怪演俳優の異名をとった存在でしたが、そんな彼が本作では、徹頭徹尾、喜劇役者として演じているのも見どころです。ルーヴ監督に言わせれば、彼は生粋のコメディアンで(『仕立て屋の恋』のような)ドラマも上手いけれど喜劇をやらせたら天下一品で、これが本流なんだとか。
「俳優っていうのは、監督の世界に入り込んでいく仕事。監督っていうのは俳優さんたちを自分の世界に呼び込む仕事。この両方ができていることに今自分はとても満足しているんです」
と、監督であろうが俳優としてであろうが、とにかく映画作りに燃えるルーヴ監督。
最後に、本作の原題『Les souvenirs』とは、「お土産」という意味が一般的だから、何のお土産なのかをうかがってみましたら……。この言葉には二つの意味があり、「お土産」と、もうひとつは「思い出」であると言い、本作では原作ともに後者の意味で使っていると、教えてくださいました。「思い出」とは、人生がもたらしてくれる「お土産」。素敵な言葉です。
今ある幸せを見直す気持ちや、もう一度、家族を大切にしたくなる気持ちにさせられる家族の映画、傑作がもう一つ増えました。
『愛しき人生のつくりかた』
2016年1月23日(土) Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
出演:アニー・コルディ『雨の訪問者』、ミシェル・ブラン『仕立て屋の恋』、シャンタル・ロビー、マチュー・スピノジ、ジャン=ポール・ルーヴ『エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜』
監督:ジャン=ポール・ルーヴ
脚本:ダヴィド・フェンキノス&ジャン=ポール・ルーヴ
原作:ダヴィド・フェンキノス“Les Souvenirs”
製作:マキシム・ドゥネロー&ロマン・ルソー NOLITA CINEMA
撮影監督:クリストフ・オーファンスタン
美術:ロラン・オット
衣装:オーロール・ピエール
編集:クリステル・デウィンター
録音:クリステル・デヴィンター
プロダクション・ディレクター:クリストフ・コルソン
助監督:レオナール・ヴァンドリー
オリジナル音楽:アレクシス・ラウー
2015年/フランス映画/フランス語/93分/
原題:Les Souvenirs/
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
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