『不機嫌なママにメルシィ!』 ママンと僕自身 二役なんてお手の物 秘密は多孔性!? ギヨーム・ガリエンヌ。
(2014.09.27)自分の子供時代から青年時代までのみならず、大好きなお母さんまで演じるひとり芝居を映画化した『不機嫌なママにメルシィ!』。今年のフランス セザール賞で監督賞、主演男優賞など5冠を制し話題騒然。スターダムに上りつめたギヨーム・ガリエンヌさんに、作品について、創作の原点についてインタビューしました。
グランド・ブルジョワジーの暮らしと
ひとりの俳優の誕生を描く。
ー『不機嫌なママにメルシィ!』は原作者でもあるあなたのひとり芝居として発表され、今年は映画版がセザール賞を5つも採りました。そもそもなぜこの作品を書かれたのでしょう?
ギヨーム・ガリエンヌ:この作品は昔からやりたかった私の夢です。最初から映画にしたかったのですがお金がなかった。コメディ・フランセーズの舞台に立っていた私をブローニュにあるパリ西部劇場(Théâtre de L’Ouest Parisien) の支配人オリヴィエ・メイヤーさんが見て気に入ってくれたのです。彼の劇場でカルト・ブランシュ Carte Blanche 、ギヨーム・ガリエンヌの白紙委任状と銘打って何でも好きなことをやってくれ、というオファーを受けた。それなら前からやりたいと思っていたこの話をやるチャンスだと。それがきっかけでした。その時は僕はギョームとママンの役だけでなく登場人物全員をひとりで演じたんです。
ギヨーム・ガリエンヌ:それが当たってモリエール賞という演劇賞をもらって、テレビでは『ギョームのボーナス』というパロディ番組を持つようになりました。フランス国営ラジオ アンテーヌでもレギュラー番組を持って、私自身がだんだん知られるようになってきたわけですね。するとある日映画のプロデューサーが楽屋に訪ねてきて一緒に映画を作ろう、と。今回の映画ではグランド・ブルジョワジーを描きたかったということがあります。この裕福な階級の特徴には時間、空間を自由自在に飛び越えるところ、行きたいところには行ってしまうようなところがあって、それが映画ならできると思った。それから僕にとってすごく大事な作品、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』みたいに自由自在に時代を飛び越えたり、後戻りしたりを映画として表現しようと思ったんです。
女っぽい、ゲイっぽい……。
レッテルから、そしてママからの解放。
ー劇中のママンは、読書が好きでエレガントなんですけど、口にする言葉がユーモラスで、表現がユニークです。「紅茶飲み過ぎで膀胱満タンだわ。」トイレのあとは「ナイアガラの滝のように流れでたわ。」なんていうセリフもあります。これは実際のあなたのママンの言葉?
ギヨーム・ガリエンヌ:そうです、(笑)面白い表現をするのです。この階層の特徴でもあります。とっても演劇的、エレガントに表現する。この話は冒頭、舞台のシーンからはじまります、そこでは画面はクローズアップが多くてステディカムのカメラの動きも流麗で水平な動きです。ところがだんだんギョームが独立して自分の足で立つようになるとカメラはバーティカル、垂直になっていきます。固定カメラから動きのあるカメラワークになって、フレームが爆発している感じです。これはある意味ギョームが、レッテルから解放されることであり、マナーからの解放ということを語ってます。
そしてこの映画はクリシェについても語っています。世間のステレオタイプだけでなく僕自身のクリシェ、たとえばスペインに行ったらペドロ・アルモドバル監督の映画みたいなんだろうな、というものや、イギリスに行ったらジェームズ・アイボリー風というようなもの。
冒頭の舞台のシーンはリアルを表し、お話のところはフィクションです。それがだんだん混ざり合っていきます、結局のところ何が言いたいのかというと、ひとりの俳優が生まれた、ということを語ろうとしているのです。
ー映画の中の子供時代のギヨームは、ママンが大好きすぎてその声色を真似したり、それだけでは飽きたらずオーストリア皇后シシィと教育係ゾフィー大公妃ごっこをするかなり変わった子です。スポーツよりピアノを弾くのが好きで、コーラスで『ボヘミアン・ラプソディ』を歌うような。実際に子供の時のあなたはそのような子供だったのでしょうか。子供の時は何になりたかったのですか?
ギヨーム・ガリエンヌ:コーラスで歌っていたのは『ボヘミアン・ラプソディ』じゃなくて『ウィー・アー・ザ・チャンピオンズ』ですけど、その通り、そんな子でした。両親の前でそれこそ『ギョームのボーナス』みたいな人物スケッチのコミックをやっていたけど、女役や王様の役を好んでやっていて彼らはちょっと心配していた。(笑)
子供の時になりたかったのは宣教師。枠組みを破壊したいという衝動からクリエイティブなものは生まれるでしょ、そのためには宣教師の仕事はよいと思ったのですけど、活動の場がちょっとオープンスペースすぎた。(笑)そのあとは政治記者になりたかった。伝えることが好きみたい。でも政治記者はちょっと、なんというか単発すぎ。事件が起こる度にそれぞれを追わなくちゃいけなくて。道がどんどん続いていくような、継続性がある、そういうものが僕は好き。だからこそコメディ・フランセーズにいるんだよ。継続性があるでしょう。歴史がある。僕はモリエールから数えて513番目の正座員なんですよ!
ー資料によるとあなたは19歳で俳優になることを決意して演劇の勉強をはじめたとのこと。コメディ・フランセーズへの入団が’96年です。
ギヨーム・ガリエンヌ:コメディ・フランセーズへ入団したかったのは、クロード・マチューがいたからです。彼女と同じ舞台に立ちたかった。クロードは『不機嫌なママにメルシィ!』の共同脚本のひとり。私の師ともいうべき存在です。
ーコメディ・フランセーズでもあなたは女性役をやっているのでしょうか。
ギョーム・ガリエンヌ:女性役は、フェドーの『足手まとい(Un fil à la patte)』でミス・ベッティング、ユゴーの『ルクレチア・ボルジア(Lucrèce Borgia) 』で主人公のルクレチア・ボルジアをやっています。
ーママンの話し方はエレガントですが、声はけっこう低いですよね。『ルクレチア・ボルジア』の時の声も低い?
ギヨーム・ガリエンヌ:いえ、高いです。(笑)役やシーンによって声を変えます。『オブロモフ(Oblomov)』という演目があるんですが、それを稽古していると時々、ママンの声になってます。ママンはちょっと『オブロモフ』的なところ、なまけものなところがあるんです。(笑)『ルクレチア』ではいやがる息子に解毒剤を渡すシーンがあるんですけど、そこでもママンの声になっちゃいますね。(笑)
ギヨーム・ガリエンヌ:声に関していうなら、僕がおばと電話で話しているとそれを聞いていた私の妻に、「声と話し方がおばさんそっくりになってるわよ。」と指摘されたことがありました。ミメーシス、形態模写してしまうんです。それからフランス語ではporosité ポロジテといいますが、多孔性でもある。吸収しやすく体に浸透しやすい。(笑)若い頃は母の喋り方の真似をしすぎてして発声矯正の先生のところに通わなくてはいけなくなってしまったこともありましたけどね。何を言うにも母の声、喋り方になっちゃってて。矯正でどうにかバリトンの声を発達させることができました。
声というのは人間の無意識にいちばん密接につながっているもの。実際の生活で感情にしたがって声色が変わるものですが、今では役どころによって変えることができようになりました。
ー今、お話されている声は、あなた本来の声ですか? ちょっと高いですね。(笑)
ギヨーム・ガリエンヌ:いかにも。それはそうです。(笑)
『不機嫌なママにメルシィ!』
2014年9月27日(土)より 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
第39回セザール賞5部門受賞(作品賞 / 主演男優賞 / 脚色賞 / 編集賞 / 第1回作品賞)
第19回リュミエール賞 男優賞/第1回作品賞受賞
第66回カンヌ国際映画祭 監督週間 アートシネマ賞/SACD賞受賞
監督・脚本・出演:ギヨーム・ガリエンヌ
出演:アンドレ・マルコン、フランソワーズ・ファビアン、ダイアン・クルーガー、レダ・カテブほか
原題:Les garçons et Guillaume, à table! / 2013年 / フランス、ベルギー / 87分 / フランス語、英語 / 日本語
字幕:古田由紀子
協力:アンスティチュ・フランセ日本、ユニフランス・フィルムズ
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル
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