東京国立近代美術館フィルムセンターで 展覧会『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』開催中。

(2014.09.01)
『シェルブールの雨傘』撮影中のカトリーヌ・ドヌーヴとドゥミ© 1993 Ciné-Tamaris
『シェルブールの雨傘』(’64)撮影中のカトリーヌ・ドヌーヴとドゥミ© 1993 Ciné-Tamaris
『ロシュフォールの恋人たち』、『シェルブールの雨傘』で知られるジャック・ドゥミ監督の回顧展『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』が東京国立近代美術館フィルムセンターで開催中です。企画担当の岡田秀則さんに展覧会のきっかけ、内容について書いていいただきました。

シネマテーク・フランセーズで開催された回顧展
『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』を日本に。

ジャック・ドゥミ監督の回顧展”Le monde enchanté de Jacques Demy” は 昨年の4月から8月までまずパリのシネマテーク・フランセーズ(Cinémathèque Française) で開催されたのですが、その前の2012年の夏にシネマテーク側から当館での開催の提案がありました。つまり企画のかなり最初から、彼らの心のうちに日本巡回はあったのです。シネマテーク側は、それについてふたつの理由を挙げました。

まず、ドゥミ監督自身にとって日本が特別な国であることです。企画がなかなか通らず、監督にとって仕事がいちばん難しかった時期に、思いもかけなかった遠い国から『ベルサイユのばら』の企画が舞い込んだことは、監督を勇気づけたと思います。あと、監督の没後になって日本の観客が『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』のリバイバル上映に駆けつけ、情熱的に支持したことを、フランスの映画界は私たちが思っている以上に評価していたようです。

  • 東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』より。
    東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』より。
  • 東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』より。
    東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』より。
  • 東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』より。
    東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』より。
  • 東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』より。
    東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』より。

パリのシネマテークには3つの展示室がありますが、ドゥミ展が開催されたのは、約600平方メートルの大展示室でした。それを「フル・バージョン」としましょう。一方、当方フィルムセンターの企画展の空間は面積にして約1/4ですから、彼らが考案してくれた「小規模版」を採用することになりました。従って、フランスからの提供品は資料類に限定し、衣裳などの展示は見送ることになりました。その分、ドゥミ=ヴァルダ家の友人でもある世界屈指のドゥミ資料コレクター濱田高志氏の所蔵資料をお借りして、ドゥミ映画のエッセンスを会場に満たすように努めました。

 
「自分の作りたい映画」を少しずつ
醸成してゆくことを目指したドゥミ監督。

ドゥミは映画への純粋さを生涯捨てなかった人です。ゴダールやトリュフォーなどいわゆる「ヌーヴェル・ヴァーグ」の監督は今でも人気がありますが、彼らが映画批評からキャリアをスタートさせたのとは対照的に、ドゥミは若い頃から、批評を書くことよりも「自分の作りたい映画」を少しずつ醸成してゆくことを目指しました。その純粋さは、「ヌーヴェル・ヴァーグの真珠」とも呼ばれる長篇デビュー作『ローラ』に見事に結実しています。

『ローラ』(’61) © Agnès Varda
『ローラ』(’61)
© Agnès Varda
 
ドゥミ=ルグランが築いた
音楽とのこの上ない幸福な関係。

また、ドゥミ映画の特徴として挙げられるのは、音楽とのこの上ない幸福な関係を築いたことです。互いを「映画の兄弟」と呼び合った作曲家ミシェル・ルグランとの関係は、世界映画史においても屈指の名コンビでしょう。フランス映画には、フレンチ・ポップスをあしらったキュートな作品もあれば、セルジュ・ゲンズブールのように積極的に映画を挑発してきたソングメーカーもいます。しかし映画の表現形式の根底に至る音楽作りに取り組んだのは、ドゥミ=ルグランのコンビをおいて他にありません。そのめくるめくような実験性は、いつまでも回顧に値します。

もう一つ、ドゥミの作品が振り返られなければならないとすれば、それは、恋愛の裏にある哀しみ、歌うことの歓び、夢の世界への憧れといった普遍的なテーマを彼がいかに映画表現として開拓したか、妥協のないその探究の足あとをたどることができるからです。

一方、不安を湛えた現在のヨーロッパ映画の空気の中で、ドゥミの後継者を探すことは簡単ではありません。

 『シェルブールの雨傘』('64) © 1993 Ciné-Tamaris

『シェルブールの雨傘』(’64)
© 1993 Ciné-Tamaris
 
『ベルサイユのばら』を上映
隠れた魅力にフォーカスするトーク・イベントも。

9/27には『ベルサイユのばら』特別上映会を行います。フランス公開されなかった『ベルサイユのばら』は、あちらでは長年ほとんど誰も知らないドゥミ作品でしたが、昨年のシネマテーク企画でようやく知られるようになりました。フランスでも後に日本のアニメや漫画のファンが急増しますが、その前ですから、これを引き受けたドゥミは先駆的な直感を持っていたとも言えます。

日本の文脈で言うと、何といっても原作漫画が国民的ブームでしたから、1979年の公開時はやはり原作や宝塚歌劇との「差異」から語られざるを得ませんでした。しかし映画作りにおいては、漫画の中の表現を生身の人間が動く媒体に移植することの難しさに直面したでしょうし、ましてバスチーユ襲撃を本格的に撮影するのはもともと至難の業です。だから今回はこの映画を、原作との関係以上に「ドゥミの作品」とし て観直す必要があると思っています。ドゥミのフィルモグラフィ全体の中でどういう意味を持っているのか、そこから再び語られなければなりません。

『ベルサイユのばら』(’78) © 1979 Riyoko Ikeda/Filmlink International
『ベルサイユのばら』(’78)
© 1979 Riyoko Ikeda/Filmlink International

特別上映に合わせて開催されるトーク・ショーに登場のマチュー・オルレアン氏は、この展覧会のコミッショナー(企画者)です。ドゥミ監督夫人であるアニエス・ヴァルダ監督やドゥミ=ヴァルダ家の皆さんと綿密に話し合ってこの展覧会のコンセプトを固められた方です。またシネマテークの展覧会の仕事とは別に映画評論家としても活躍されています。

この展覧会では他にもトークイベントがありますし、9月には東京飯田橋のアンスティチュ・フランセでドゥミ作品の上映企画も行われます。この展覧会を通じて、色褪せることのないドゥミ作品の魅力に触れていただきたいと思います。

ドゥミの絵画 ロサンジェルスにて(’84) © Succession Demy
ドゥミの絵画 ロサンジェルスにて(’84)
© Succession Demy
『モデル・ショップ』(1968年)のアヌーク・エーメ ©1968-Columbia Pictures/Sony 2008 CPT Holdings Inc.
『モデル・ショップ』(’68)のアヌーク・エーメ ©1968-Columbia Pictures/Sony 2008 CPT Holdings Inc.
『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』

会場:東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室(企画展)
会期:2014年8月28日(木)〜12月14日(日)
閉館:月
9月9日(火)〜12日(金)、10月14日(火)〜23日(木)は休室です。
営業時間:11:00〜18:30
(入室は18:00まで)
料金:一般210円(100円)/大学生・シニア70円(40円)/高校生以下及び18歳未満、障害者(付添者は原則1名まで)、MOMATパスポートをお持ちの方、キャンパスメンバーズは無料
TEL:03-3510-3047


東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』より。
東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室『ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑』より。

特別企画
『ベルサイユのばら』特別上映会

日時:2014年9月27日(土)
料金:一般520円、高校・大学生・シニア310円、小・中学生100円/障害者(付添者は原則1名まで)、キャンパスメンバーズは無料

会場:東京国立近代美術館フィルムセンター小ホール

定員:151名(各回入替制)
11:30分〜 『ベルサイユのばら』特別上映(124分) 
*上映前にオルレアン氏による作品解説あり

15:00〜 『ベルサイユのばら』特別上映(124分)

17:10〜 マチュー・オルレアン氏講演 「ジャック・ドゥミにおける『ベルサイユのばら』の意義」

*トーク・イベントは申込不要、参加無料(展示室内で開催のトークは、観覧券が必要です)。

変容する視野―1970年代以降のジャック・ドゥミ
日時:2014年9月20日(土)
時間:14:30
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター展示室内(7階)
講師:マチュー・オルレアン氏(本展覧会コミッショナー)

作曲家ミシェル・ルグランとジャック・ドゥミ
日時:2014年10月25日(土)
時間:15:00
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター展示室ロビー(7階)
講師:濱田高志氏(音楽ライター、アンソロジスト)

展示品解説
日時:2014年11月29日(土)
講師:岡田秀則(フィルムセンター主任研究員)

関連上映企画「ジャック・ドゥミ、映画の夢」
Jacques Demy, un rêve de cinéma


会期:2014年9月13日(土)・14日(日)・19日(金)・20日(土)・21日(日)・26日(金)

会場: アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ(東京都 新宿区市谷船河原町 15)

*アンスティチュ・フランセ日本の他の支部(横浜、京都、大阪、九州)にも巡回予定

主催: アンスティチュ・フランセ日本

協力: 東京国立近代美術館フィルムセンター、アンスティチュ・フランセ日本

*上映作品
9/13(土)
13:00〜『パーキング』
15:00〜『都会のひと部屋』
18:00〜 『想い出のマルセイユ』

9/14(日)
15:30〜『天使の入江』
18:00〜『パーキング』

9/19(金)
15:30〜『都会のひと部屋』

9/20(土)
13:00〜『ローラ』
15:30〜『モデル・ショップ』
18:00〜『天使の入江』

9/21(日)
15:30〜『ローラ』
18:00〜『モデル・ショップ』※上映後、マチュー・オルレアンによるレクチャーあり。

9/26(金)
19:00〜『想い出のマルセイユ』