女子力が生み出した、極めつけ映画、2本。女性の美しさは何になる?
『ヘルタースケルター』

(2012.07.13)

女優と監督そして、原作者。この3者に女性が揃った、奇跡的にパワフルな映画が2本も揃った夏直前。どちらも原作の素晴らしさに加えて、これを映画として完成させたいという強い願いが込められた作品です。前回の『少年は残酷な弓を射る』に続いて、今週は話題作『へルタースケルター』ご紹介いたしましょう。

蜷川実花監督が、沢尻エリカが、
入魂の大胆な傑作。

『ヘルター・スケルター』の原作は岡崎京子。第8回手塚治文化賞漫画大賞に輝く伝説的名作。その後、作者は交通事故に遭い、現在も療養中ということもあり、この作品の映画化は、愛読者にとっても重大な出来事であり、このエポック・メイキングな時に立ち会うこととなるのです。

原作を読んでいない方は、読んでから観るか、観てから読むか、の楽しみがあります。

蜷川実花監督も、初監督作品『さくらん』(07)がベルリン映画祭に出品されるなど、その才能を世界に知らしめましたが、今回作品には宿命のようなものを感じ、7年間の歳月に情熱をたぎらせてきたといいます。

監督は、実に原作にリスペクトを込め、忠実になぞるようにして完成させた感があります。

そして、主演に沢尻エリカを起用し、彼女もまたこの作品に魂を捧げるかのように、監督と一心同体となり、情熱を注いだといいます。

「この作品で、これまでの全てが必然だったと証明してみせる」という言葉さえ残し、彼女は全身全霊を込めた大胆な演技を見せます。

それは、ワンシーン、ワンシーン、胸が熱くなるほど。

りりこは全身整形で出来あがっている美しきクリーチャ―。ファッションアイコンとしての生き様は、壮絶な戦いでもあった。©2012映画『ヘルタースケルター』製作委員会
演技力で圧倒する沢尻エリカ
主人公・りりこそのもの。

劇画のキャラクターを実写にするのは容易なことではないと思います。読者にとっては、すでにイメージがあるわけですから。

しかし、沢尻エリカはまったく違和感を感じさせず、主人公・りりこが乗り移ったかのように、さらに、これは彼女の私生活そのままでは? などと錯覚さえさせる演技力で圧倒するのです。

それは、まるで、私たちに挑戦しているかのようでもあり、恐いくらい。

そして、哀しい。

一度、一世を風靡したアイドルやスターは、滅びて燃え尽きるまで上り詰めねばならない、その悲哀。残酷なまでの聴衆の眼差しに殺される運命。それでも、誰よりも美しく輝き、羨望の的でありたい。この欲望には女と生まれたら、あがらうことはできない。誰もが隠し持つ、この欲望。

全編を彩るアーティフィシャルなポップ・カラーはまさに蜷川ワールド。りりこの部屋のセットには、蜷川監督の私物が半分以上使われたという。
女性監督作品は、このように、
グレード・アップする。

しかし、この欲望に恐れることなく、ものともしないで、我が身を変容していけるのも女の性(さが)。主人公のリりこの体は、「元のままのもんは目ん玉と爪と耳とアソコぐらい。あとは全部作りものさ」と言われるように、自ら整形を重ねた結果の賜物。

そんな彼女の生きている証拠の言葉は、この映画のキャッチ・フレーズにもなっている、「最高のショーを見せてあげる」。そこまで彼女に言われたら、見に行かないわけにはいかないでしょう。恐いもの見たさという予感を抱きながらも、ではありますが……。

また、外見で判断されることが多く、若さ、美しさ、をとかく意識せずには生きることのできない現代女子。作り物でも「美」を勝ち取ったりりこの生き様に、自分の気持ちを重ねて観ずにいることはできないのでは?

りりこのマネージャの羽田(寺島しのぶ)は、りりこの虜になり、彼女の一番の信奉者となっていく。

この映画も、恐いです。女が、女の欲望によって、自ら破滅していく、やはり、残酷極まりない物語。その先にあるのは生か死か。はたまた、待っているのはラッキーか、アンラッキーか。恐くて、面白すぎるストーリーテリングな原作を、蜷川ワールドが頂点まで引き上げていきます。

前回ご紹介した『少年は残酷な弓を射る』、そしてこの『ヘルタースケルター』。この2本、どちらも恐い、それぞれに迫力がある作品です。前者が静なら、後者は動の迫力で、ぐんぐん取り込まれますから、ご注意を。一方は子供を得たことで全てを失い、もう一方は美と名声を得たことで全てを失う。失って、負けたその後の姿に、なにか女性の底力を感じさせます。

まだまだ少ないと言われ続けてきた、女性監督作品ですが、かなりのグレード・アップ度で、それぞれに、「女」とは何かを問いかけるのです。

『ヘルタースケルター』

2012年7月 14日(土)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー

出演:沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文/鈴木杏(友情出演) 寺島進/哀川翔、窪塚洋介(友情出演)原田美枝子 、 桃井かおり

監督:蜷川実花
脚本:金子ありさ
原作:「ヘルタースケルター」(祥伝社フィールコミックス)
音楽:上野耕路
製作:映画『ヘルタースケルター』製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース エンタテインメント シネバザール
配給:アスミック・エース
日本/カラー/2時間7分/日本語
配給:アスミック・エース

©2012映画『ヘルタースケルター』製作委員会