『アンチヴァイラル』ブランドン・クローネンバーグ監督
セレブ×ウィルス=驚愕の物語。
(2013.05.13)
●『アンチヴァイラル』ストーリー
タバコを口にするように渋い形相で体温計を口に入れ検温する男、シド・マーチ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)。彼は『ルーカス・クリニック』の技師。仕事は有名人から採取したウィルスをマニアに注射すること。『ルーカス・クリニック』の業務はセレブリティたちの風邪などのウィルスを譲り受け、熱狂的なファンに販売することなのだ。ただでさえ世間からモラルが問われるクリニックの仕事の他、シドは危険な副業にも手を染めていた。希少価値の高いウィルスを闇マーケットに横流しするのだ。そんな時「究極の美」ともてはやされ、クリニックで最高値のつく女優 ハンナ・ガイスト(サラ・ガドン)が原因不明の重病に冒されて急逝。ハンナに特別な思いを寄せていたシドは死の直前、ハンナから直接採取したウィルスを自らの身体に注入、異様な幻覚症状に襲われる。そしてウィルスをめぐる巨大な陰謀に巻き込まれていく。
●ブランドン・クローネンバーグ プロフィール Brandon Cronenberg
セレブ・カルチャーの一部を 切り取ってカリカチュア。
B・クローネンバーグ監督 毎日の暮らしの中で、セレブリティについてのニュースを目にしないことはありません。グロテスクな部分もあるクレージーな現象です。もう長いことこの現象は続いていますが、僕は常々これをテーマにしたいと思っていたワケではないんです。数ある興味の対象の中のひとつですが、このカルチャーの一部を切り取ってカリカチュアすることを考えました。この風刺によって何か人々の見方、考え方が変わるのではと思ったのです。
==映画の中でルーカスの社長が「セレブは才能ではなく、集団がつくり上げる幻想だ」といっています。まさにそれは監督の考えですね?
B・クローネンバーグ監督 その通りです。
すべては書くことからはじまる
B・クローネンバーグ監督の映画作り。
B・クローネンバーグ監督 僕の場合、基本的にはテキストからはじまります。でもビジュアルのアイディアがふと浮かんでそれをもとにシーンを作ることもあります。インスピレーションが降りてくる時に、その方法は様々で、セリフのやりとりであったり、自分の実体験だったり、あるいはキャラクター主導であることもあります。でもまずやることは書くこと。そこから始まります。もちろん視覚的なイメージはある程度自分の頭の中にあるものなんですが、それを描き起こすということはしません。
映画の中で肉体が機械のようになってしまうシーンもあります。日本映画でいうと塚本晋也監督の『TETSUO』のように。これにはかつて自分が描いたドローイングを取り入れてみました。
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B・クローネンバーグ監督 芸術的な職業にひかれていたことは事実で、実は小説家を目指していたこともあります。文学を敬愛しています。特に誰が好きかって? 名前を上げることは難しいです、でも今はデヴィッド・フォスター・ウォレスの『インフィニート・ジェスト(Infinit
Jest』を読んでいます、たいへん面白いです。200ページの大作で、まだ半ばですが。
映画はある程度観ていますが、シネフィル(熱狂的映画ファン)ではないし、まだまだ勉強中です。絵画、音楽もやりました。バンドでベースを弾いていたこともあります。あまりに多岐にわたる興味がありすぎて、これをひとつに集約しなければ究めることはできないだろうと考えました。そのすべての要素を持っているのが映画だったのです。
努力して意識しないようにした
デヴィッド・クローネンバーグ監督作品。
B・クローネンバーグ監督 父の作品は意識しないように努力しました。自分の映画を作るにあたって、父の作品と比べられてしまうかも、ということで、それに反抗したり、逆に利用したりとかはしたくなかった。自分の興味のあるものを正直に描こうと努めました。
何かとても面白いことを思いついて「でも、これって父の作品に似てるといわれちゃうだろうな。」と思う。それでその面白いことをやめてしまうのはどうかと思うのです。作品のためになるのだったらやるべきでしょう。だからなるべく父の作品のことは考えないようにしました。
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B・クローネンバーグ監督 これはオープニングのシーンなので鮮烈なものにしたかった。作品のテーマを観客が感じやすいものにしたかったのです。大きなハンナの顔のふもとに小さくシドが収まっている。彼らの存在の大小もありますが、彼女の中にシドが住んでいる、生きているという意味は込められています。このシーンも最初はテキストで落としたものです。
口にしている体温計は、自分の肉体に起きているすべて、ディテールを知りたがっているシドが面白いんじゃないかと思ったのです。
ウィルスのせいで熱があって体温計で検温している。なのにその後、タバコを吸ったりしている(笑)。
『アンチヴァイラル』
2013年5月25日(土)シネマライズほか全国ロードショー
脚本・監督:ブランドン・クローネンバーグ
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、サラ・ガドン、マルコム・マクダウェル、 製作:ニヴ・フィッチマン 撮影:カリム・ハッセン
プロダクション・デザイン:アーヴィンダー・グレイウォル 編集:マシュー・ハンナム 音楽:E.C.ウッドリー
スチル・フォトグラファー:ケイトリン・クローネンバーグ、スティーブ・ウォルキー コスチューム・デザイン:パトリック・アントシュ
コスチューム・コンサルタント:デニース・クローネンバーグ
2012年/カナダ・アメリカ/108分/カラー/ドルビー・デジタル/原題:Antiviral 提供:カルチュア・パブリッシャーズ
配給:カルチュア・パブリッシャーズ、東京テアトル © 2012 Rhombus Media(Antiviral)Inc.