妻夫木聡&松山ケンイチ主演の
話題作『マイ・バック・ページ』

(2011.05.31)

舞台は激動の60〜70年代。

彼らのファンの女の子たちは本作を観て一体どんな感想を持つのだろう。私は珍しくとても気になっている。いつもなら、たとえ良いと思った作品でもここまで皆さんの反応は気にしない。しかし、本作に限っては皆さん(特に女子!)が、どう受け止めるのか興味津々である。

本作は人気コミックが原作でも新進作家のヒット小説の映画化でもない。評論家の川本三郎氏の回想録が原作で、時代は60〜70年代。学生運動が盛んで日本が熱を持っていた、とされる時代。

おそらく彼女達(私を含めて)の生まれていない、何ともとっつきにくい“全共闘”とか“赤軍”といった言葉が右往左往している時代の中で、何かを成し遂げようとした男たちの一連を行動を彼女たちはどう思うのだろう。

松山ケンイチが演じるのは、革命家気取りで銃を集めたり、教室で自らの思想を熱く語る左翼思想の学生、梅山。一方、妻夫木聡は新聞社に勤める、記者にはそぐわないセンチメンタリズムを持つジャーナリスト沢田。彼らはある出来事をきっかけに出会い、沢田は梅山の活動に翻弄され始める。そして梅山の行動は実際にあった朝霞自衛官殺害事件へと発展していく。


 

あの時代を想像しながら、何とかストーリーを追った2時間20分。

正直、ラストシーンまでの2時間20分は長かった。その間、彼らが部屋でギターを弾きながら歌う、まさに“青春!”な共演シーンや、沢田が憧れる東大全共闘議長・唐谷役を演じた長塚圭史や、三浦友和、山内圭哉らの迫力ある演技は見応えがあるものの、どうしても当時のことがわからないからか、ついていくのに努力しなくてはならない自分がいた。

今までの山下敦弘監督に、それはなかった。『リアリズムの宿』に始まり『リンダリンダリンダ』『天然コケッコー』。何となくゆるい流れの中にも独特のリズム感があって、まんまとそれに乗せられてしまう山下マジックにいつも魔法をかけられていた。しかし、今回は監督のそういった空気は一切ない。黙々と目の前のシーンを撮り続ける。そんな寡黙さが漂っていた。

それでも何とかついていった暁に、妻夫木聡演じるラストシーンにたどり着く。それついては、多くの場で語られているがここではあえて語らない。

ただ、このシーンを見て、あぁ頑張ってついて行って良かった、と思う。

そしてエンドロール、いや、見終わった後に、混沌とした時代で何かを成し遂げようとして熱を帯びてしまった男たちの愚かさ、挫折、寂寞といった気持ちが激しい共感と共に胸に巡る。


 

奇しくも今と何かが重なる60〜70年代の若者。

60年〜70年代。私にとっては憧れの時代だった。寺山修司さん、横尾忠則さんらと同じ時代に生きてみたかったと思うし、ボブ・ディラン、ジャニス・ジョップリン、ジョニ・ミッチェル、当時の音楽やファッションだって大好きだった。(おかげで周りの女の子とは話が合わなかったけれど、笑)

この時代をリアルタイムで生きていた監督が撮った作品も数多く見てきた。しかし、ここでの沢田や梅山の存在は、“当時の”といったシンボリックなものではなく、今の自分に突き刺さってきた。何かを信じ邁進することで、自分が世界を変えられると思っていた2人が目の当たりにする現実。信じる対象の危うさ。

人は誰しも、いつの時代においても、何かを強く信じたいと思う。強いエネルギーを持てば持つほど、その信じる力で何かを動かしたいと思う。世の中が混沌とすればするほど、そのエネルギーの強さで人は影響されやすくなり、その強さを持つものは、何かを変える事ができると尚更信じるし、実際、そうして世の中を変えてきた人物は沢山いる。

今の世の中だってそうだ。様々な情報が氾濫し、どの情報が正しいのか信じれば良いのかわからない。ネットが普及したことで、様々な人が声を上げる。その熱に浮かされてしまう人もいるだろう。その一方で、もはや何も信じられず時代の傍観者となって、そのやり取りを見ているだけの人もいるだろう。もしかしたら後者の方が大半かもしれない。

そうした現代にあって、何かを信じようとその先にある未来を夢描いた2人の生き様は、たとえそれぞれ違う形であったとしても、多くの若者に共感を呼ぶのではないだろうか。そこまで熱くなれることを羨ましく思う人もいれば、とはいえチェ・ゲバラのような英雄にはなれなかった2人に気持ちを寄せる人もいるだろう。

いずれにせよ、決して歴史的には取り上げられることはないが、人間的な魅力をおおいに持った沢田と梅山を、観客の皆さんがどのように受け止めるのか、非常に気になるところなのである。


 

『マイ・バック・ページ』

監督/山下敦弘
出演/妻夫木聡、松山ケンイチ、忽那汐里、石橋杏奈、韓英恵、中村 蒼、三浦友和ほか
2011/日本/141分
配給/アスミック・エース
Twitter/http://twitter.com/MyBackPage_528
新宿ピカデリー、丸の内TOEI他全国で公開中。