F・ファヴラ監督&L・ラフィット インタビュー 『ミモザの島に消えた母』パッサージュ・デュ・ゴワが象徴するもの。
(2016.07.22)引き潮時に数時間だけ海中から現れる全長4.5kmの「パッサージュ・デュ・ゴワ Passage du Gois 」(ゴワ通路)。この砂州でフランス本土西部ヴァンデ県と繋がるノアールムーティエ島 Île de Noirmoutier を舞台に、30年ぶりに明かされる母の秘密を、緊張感あふれる映像で綴った映画『ミモザの島に消えた母』。2016年7月23日(土)の公開に先立ち、『フランス映画祭 2016』での先行上映に合わせて来日したフランソワ・ファヴラ監督と主演を務めたローラン・ラフィットさんに製作の舞台裏についてお話しをうかがいました。
ストーリーにすべてを捧げる洗練されたシネアスト。
―まずはお二人の出会いについて教えていただけますか? 今回がはじめての顔合わせでなく長きに渡ってのお付き合いがあるということですが。
フランソワ・ファヴラ監督:ローランには私の1作目『彼女の人生の役割』 (04) でアニエス・ジャウイの愛人役を演じてもらったんだ。今回のアントワーヌの役は、始めからローランを思い浮かべながらシナリオを書いていたよ。
―ラフィットさんから見て、ファヴラさんはどのような監督ですか?
フランソワ・ファヴラ監督:席をはずそうか(笑)?
ローラン・ラフィット:今後もまだ一緒に仕事をしたいから、ここで真実を言うわけにはいかないよね(笑)。うーん、そうだね、監督の作品を初めて観たときに、すごく良くできた「音楽」みたいだと感じたんだ。シンプルに聴こえるけど、いざ自分で作るとなると、すごく難しい。一度目は完全にストーリーに引き込まれてしまうんだけど、あとでよく観直すと、とても完成度が高い作品だとわかるんだ。理由は、監督の演出方法にあると思う。何か技術的なものを見せつけたいとか、誇示するようなところが全くなくて、監督は、とにかくストーリーに全てを捧げようと思って演出をしているんだ。そのうえ、手法がすごく洗練されているし、カメラワークも熟慮され、編集はシネアストと呼ばれる作家主義的な手法で行われている。監督の人間性については、あえてコメントは控えるよ(笑)。
一筋縄では解決できないゆゆしき家族の問題。
―映画の冒頭、ラフィットさん演じる主人公のアントワーヌが車の事故をきっかけに過去に遡り、30年前の母の死にまつわる謎を解き明かしていく仕掛けになっていましたが、これは監督独自の演出ですか?
F・ファヴラ監督:交通事故のシーンはもともと原作にもあったけど、何度も書き換えているから、どこまでが原作で、どこからが脚色かといわれると、正確には思い出せないんだ。ただ、観客の興味をそらさないように、フラッシュバックのシーンは特に意識して演出している。脚本段階でもかなり練ったし編集段階でも相当気をつけた。もともとヒッチコックの『レベッカ』のように、捜査の要素が入っている映画が好きなんだ。『レベッカ』では城に捜査が入り、本作のアントワーヌはノアールムーティエ島で家族の謎を探っていく。観客の緊張感をずっと保ち続けて、いったい何が起きているのかを追わせる手法が好きなんだ。
―アントワーヌは離婚のための引っ越しの最中に娘が写真集を見つけたことがきっかけで、母親の過去が気になり始めたのでしょうか。それとも、その過去をずっと引きずっていたために、結婚生活もうまくいかなくなってしまったのでしょうか。
ローラン・ラフィット:彼は離婚の前から精神分析に通っていたんだ。彼の人生において、どうしても片づけなければいけない何かがあったことは間違いないよね。
F・ファヴラ監督:もともと彼は人生そのものが上手くいっていなくて、妻は自分のもとを去り、子どもとのコミュニケーションもうまくとれていない。精神分析医の元を訪ねれば「父親と話してからじゃないと来るな」と言われ、さらには新しいパートナーのアンジェルからも「最後まで徹底的にやるように」と言われてしまう。デンマークのトマス・ヴィンターべア監督が手掛けた『セレブレーション』という映画は観た? これも家族をテーマにした衝撃的な作品なんだけど、私は本作を通じて、家族の問題を解決するのは簡単ではなく、一筋縄ではいかないということを伝えたかったんだ。ちなみに原題のタイトルは、原作と同様「ブーメラン」なんだけど、過去を投げると、自分にまた過去が戻ってくる、という意味が込められている。
危険を冒さないと見えてこない人生の真実。
―こちらの作品における「パッサージュ・デュ・ゴワ Passage du Gois 」(ゴワ通路 )は、干潮の時にのみ現れる細長い砂州で、空と海の色が溶け込む水平線から忽然と現れる様子がたいへん美しく神秘的でした。危険だけれども渡らなければならない道でもあり、それは人生を生き抜いていくうえで、向き合い、探求していかねばならないテーマの象徴とも言えるのではないかと感じました。
ローラン・ラフィット:そのとおりだと思う。それに加えて、道が海に隠れて見えなくなるかもしれないっていうところもね。
F・ファヴラ監督:今までそういう風には捉えたことはなかったけれども、確かにそのとおりだと思うよ。危険を冒さないと見えてこないものや、手に入れられないものがあるということだね。家族の規範や祖母の禁止といったいろんな制約があるなかで、そこを通過しないと母にまつわる記憶は甦らず、謎も解けない。しかもその道は、最終的には「愛」につながっている。まさに「パッサージュ・デュ・ゴワ」は人生の象徴といえると思うね。
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取材が始まるやいなや、こちらの話す日本語の中に聞き取れる単語はないかと、競争を始めたお二人のペースに巻き込まれ、始終笑いの絶えなかった今回のインタビュー。映画の内容とは裏腹に、悪戯っ子のような表情で取材に臨むファヴラ監督と、それを隣で静かに見守りながらも、いざとなると監督のノリに付き合うラフィットさんの、まるで家族のような絶妙な掛け合いが印象的でした。脚本から編集まで練りに練られた『ミモザの島に消えた母』。観直すたびに、何度も新たな発見がありそうです。
『ミモザの島に消えた母』
2016年7月23日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
監督:フランソワ・ファヴラ
原作:タチアナ・ド・ロネ『ブーメラン』(Tatiana De Rosnay “Boomerang”,EDITIONS HÉLOÏSE D’ORMESSON )
撮影監督:ロラン・ブリュネ
音楽:エリック・ネヴー
キャスト:ローラン・ラフィット、メラニー・ロラン、オドレイ・ダナ、ウラディミール・ヨルダノフ、ビュル・オジエ
配給:ファントム・フィルム
2015年/フランス/フランス語/101分/カラー/シネスコ/5.1ch/
原題:BOOMERANG