『バツイチは恋のはじまり』主演ダニー・ブーン。まずは観察。芸術的ビジョンをプラスして新しいものを創りだす。

(2014.09.21)
© 2014 by Peter Brune
© 2014 by Peter Brune
フランス、アフリカ、ロシア……地球狭しと恋騒動を繰り広げるラブコメ『バツイチは恋のはじまり』。美貌のみならずコメディセンスも抜群なダイアン・クルーガーとともに笑いの渦にいざなうのはダニー・ブーン。フランスきってのコメディアン。作品について、笑いの原点についてのお話をうかがいました。
なぜにそんなに面白い? 
悲惨な主人公ジャン=イヴ。

ー美貌のヒロイン イザベルに顔面注射されたり、毛髪喪失、さんざんな目に合うジャン=イヴを演じています。悲惨なシーンがとても面白くて笑いをこらえられませんでした。なぜか笑ってしまうのですが、何ででしょう? 

ダニー・ブーン:なぜでしょうね?(笑)たぶん肉体的な問題じゃないですか?

ージャン=イヴがイザベルといっしょにパーティに行きます。そこでコサックダンスを踊りますよね、ここも、ただ踊っているだけなのに笑ってしまいます。シーンを面白くするコツなどありますか?

ダニー・ブーン:踊っているだけなのですけどね。(笑)シリアスに見えないのか……そういえば17年前、妻と結婚する前にデートでジャズ・コンサートに行った後ディスコに行きました。その時も私は普通に踊っていたのに、彼女はふざけているのかと思った、ということがありましたっけ。

イケメンの彼氏ピエールを付き合って10年、順風満帆なイザベル(ダイアン・クルーガー)。結婚に踏み込めりないでいるワケは一家に伝わる「初婚は失敗する」ジンクス。
イケメンの彼氏ピエールを付き合って10年、順風満帆なイザベル(ダイアン・クルーガー)。結婚に踏み込めりないでいるワケは一家に伝わる「初婚は失敗する」ジンクス。

イザベルはピエールとの結婚が初婚でないものにするために誰でもよいから一度結婚することに。飛行機で隣り合わせた旅行雑誌の編集者ジャン=イヴ(ダニー・ブーン)に狙いを定める。
イザベルはピエールとの結婚が初婚でないものにするために誰でもよいから一度結婚することに。飛行機で隣り合わせた旅行雑誌の編集者ジャン=イヴ(ダニー・ブーン)に狙いを定める。
ジャン=イヴと結婚して即離婚しようと彼の取材先のアフリカに乗り込むイザベル。砂漠でライオンに遭遇したり、マサイ族の結婚式に参加したり。
ジャン=イヴと結婚して即離婚しようと彼の取材先のアフリカに乗り込むイザベル。砂漠でライオンに遭遇したり、マサイ族の結婚式に参加したり。
なかなか離婚してくれないジャン=イヴを追いかけてロシアへ。ここでも日常生活ではなかなか味わえない体験をするイザベルは次第にジャン=イヴに惹かれていく。
なかなか離婚してくれないジャン=イヴを追いかけてロシアへ。ここでも日常生活ではなかなか味わえない体験をするイザベルは次第にジャン=イヴに惹かれていく。
とあるパーティで珍妙なコサックダンスを披露するジャン=イヴ。なぜかわからないけど面白いシーン。特に腕を組んで後退するところに注目。
とあるパーティで珍妙なコサックダンスを披露するジャン=イヴ。なぜかわからないけど面白いシーン。特に腕を組んで後退するところに注目。

ダニー・ブーン:笑わせるコツがあるというワケでなく、自発的にこうなってしまう。私は考えないんです。ワンマンショーでマイムをする時もそうです、鏡の前でリハーサルをしたりはしない。何よりも感情がいちばん大切です。笑わせる、コメディをやるというのはユーモアとこの感情の問題なのです。そして子供の時に最初に感じた感情、感動を引き出してくることです。子供の時の笑った、泣いた、怒ったといった経験とその時の感情、はじめての恋、反抗、最初に感じた恐怖……それぞれパーソナルな感情があったはずです。コメディはこれらと深く結びついています。俳優はこれらの感情を引き出す。だからこそみんなが笑えるものになります。

どんな人も子供の時は俳優なんです。子供の時は、どんな感情でも自由に表現できている。それが教育で抑えることを覚えさせられ、自分の感情を隠すようになります。コメディをやる時は逆にそれらの感情を外に出さないといけない。それは人生で重要な時、恋に落ちた時などと同じ。感情を解放して、好きな人に好きと伝えないといけない。

子供時代の体験、感情を引き出し
共感、笑いを呼ぶ。

ー子供の時はどんな子だったのですか? 人を笑わせるのが好きな子?

ダニー・ブーン:私は北フランスのたいへん働き者の両親の元で育ちました。父が厳格だった上に、生活に苦労していた。たいへんな思いをしていた母を笑わせようとしたのがすべてのはじまりです。私たちが暮らしていたのは赤煉瓦造りの長屋のようなところだったのですが、夜、両親がテレビを見ているところの隣の部屋の二段ベッドで、私たち子供は早く寝なきゃいけなかった。でも寝たくない。(笑)喋ると怒られちゃうから身振り手振りで兄弟を笑わせていて、考えてみたらこれが私のマイムのはじまりでしょうね。

ー必要に駆られて生まれたマイムですね。(笑)あなたの芸名のダニー・ブーンですが、これはかつてフランスで放送されていたアメリカのテレビ番組『Daniel Boon』と関係があるとか? 

ダニー・ブーン: いかにも、名前の由来はその番組です。ダニエル・ブーンは実在の人物で、アラスカを徒歩で横断したりする冒険家でした、子供の時の私のニックネームですね。

ーそのテレビのダニエルのモノマネをしていたからそう呼ばれていた?

ダニー・ブーン:いや、そうではなく、熱に浮かされて夢見がちなようなところがあったからそう呼ばれていたんだと思います。私の本当の名前もダニエルですしね。

dany boon-01 ダニー・ブーン

■ダニー・ブーン プロフィール
Dany Boon 1966年、フランス・アルマンティエール出身。脚本家、監督、プロデューサーとしても活躍するフランスで大人気のコメディ俳優。脚本、監督、出演を務めた『Bienvenue chez les Ch’tis』(’08/未)は大ヒット、フランス国内の歴代オープニング興行成績第1位を記録した。路上マイムでキャリアスタート。人物スケッチのひとり芝居シリーズで知られるようになる。 映画は’05年『戦場のアリア』出演を機にワールドワイドな俳優に。主な出演作品は『ぼくの大切なともだち』(’06)、『ミックマック』(’09)、『アステリックスの冒険 飛躍を守る戦い』(’12)など。

ープロフィールによると若い頃からストリートで市井の人物や、アニメ漫画のキャラクターを表現する マイムや パフォーマンスをしていて、それがキャリアのきっかけになったとあります。YOU TUBE にはあなたのひとり芝居の動画がたくさんアップされています。

ダニー・ブーン:そうですね、ひとり芝居が評価されたことがきっかけで知られるようになりました。特に『Le déprimé(憂鬱な人)』という作品ですね。アニメ漫画に関して言うと私はもともとアニメーターの仕事をやっていた。ベルギーのサンリュック芸術大学でグラフィックデザインを勉強した後に『Rahan』というターザンのような話やバンド・デシネ原作の『Les Triplés』といった作品の絵を描いてました。

ー俳優が人の特徴を上手に捉えて伝えなければいけないところは、アニメを描くことと共通しているかもしれませんね。俳優のほかあなたは映画監督もしていて、2008年の主演・監督作品『Bienvenue chez les Ch’tis(シュティたちの地にようこそ)』は、フランスで大ヒットしたそうですね、これはどのような内容?

ダニー・ブーン:私が生まれ育った北フランス・パ・ド・カレ地方の暮らしを描いたもので、私が脚本も書きました。この地方独特の言葉のイントネーション、訛りを大きくフィーチャーしました。自分の子供時代そのままの作品といえます。

ー緻密な人間観察を作品に落としこむのがあなたの作風のようです。常にそれを続けていますか?

ダニー・ブーン:その通り、原点は人間観察です。作家も俳優も人を見て、まずその本質を捉える。それを昇華させて個人の芸術的ビジョンを追加することによって他の人とは違う何かを創りだせるのだと思います。

『バツイチは恋のはじまり』
2014年9月20日(土)より、HTC有楽町他公開

出演:ダニー・ブーン、ダイアン・クルーガー、アリス・ポル、ロベール・プラニョル、ジョナタン・コアン、ベルナデット・ル=サシェ、エティエンヌ・シコ、ロール・カラミ、マロン・レヴァナ
監督:パスカル・ショメイユ
脚本:ローラン・ゼトゥンヌ、ヨアン・グロム
原案:フィリップ・ムシュラン
脚本協力:ベアトリス・フルヌラ
プロデューサー:ニコラ・デュヴァル=アダソフスキーヤン・ズヌ ローラン・ゼトゥンヌ
製作:カミーユ・リップマン
撮影:グリン・スピーカート
美術:エルヴェ・ガレ
衣装デザイン:ヴェロニク・ペリエ
衣装:レティシア:ブイ ベアトリス・クソン