濃ゆいキャラと昭和歌謡をマッチング
『愛と誠』のみどころ。
(2012.06.15)
歌謡曲のあの名曲を
妻夫木聡が、武井咲が、歌う。
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誠を一途に思い続ける正真正銘のお嬢様・早乙女愛は武井咲が好演。怒りを胸に生きてきた誠や不良連中の中にいると、墓場に咲く一輪の百合の花のように美しいのですが、場違い。その場違いぶり、カン違いぶりで笑わせます。可憐に恋を謳歌しながら『あの素晴らしい愛をもういちど』(作詞:北山修、作曲:加藤和彦)の歌うのですが、「あのー、すばらしいあーいーをもういちどー」のサビ、「あーいー(愛)」の部分で、手で鼻をつまみ、上に伸ばすようなジェスチャーをします。あの振付はいったいどう意味が? 「愛」のポーズ、でしょうか。
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誠と心を通わせる静かな女子高生、高原由紀を演じるのは大野いと。誠をかくまうトイレで『圭子の夢は夜ひらく』(作詞:石坂まさを、作曲:曽根幸明)を歌いますが、ほとんど無表情、抑揚のない歌い方が変にリアルで不気味です。この、一見おとなしそうな由紀は、ある言葉を聞くと、人格が変容してしまうという内面が仮面ライダーのような女子高生。誠と仲良くなることで、愛と誠と由紀の三角関係が発生。物語のキーを握ります。
愛に激しく恋する優等生・岩清水弘を演じる斎藤工は、7・3にぴっちりハンサムに横分けた前髪の重たい感じ、太い黒縁メガネ、断言調のセリフ、とすべてが暑苦しい中で「あいしてるー ほんとにー あいしてるー とてもー」と『空に太陽がある限り』(作詞・作曲:浜口庫之助)を熱唱。それはもう見事な暑苦しさのてんこ盛りで、笑いの要となっています。「君のためになら死ねる。」と、70年代なら共感を持って迎えられたであろう愛情を伝える言葉が、2012年の現在には、ギャグにしか聞こえないのは、なぜでしょうか。劇画そのままの、感情にストレートなセリフが、時代を一回り、笑いをともなった新しい詩情を生み出しています。それは、言いすぎでしょうか。
日本映画史上に残る!? ワル女キャラ、
安藤サクラのガム子。
誠に嫉妬する不良、座王権太を演じた伊原剛志は大迫力ですが、とても高校生には見えません。「おっさんにしか見えへん病」を患った高校生という苦しい設定が笑えます。不良どもを従えて『狼少年ケンのテーマ』(作詞:大野寛夫、作曲:小林亜星)を「うわ~ぉ、わぉっ、わぉっ」と歌いながら登場するシーンは、マイケル・ジャクソンの『Bad』のポジショニングで『Thriller』を踊る、といった感じです。
ミュージカルといわれていましたが、期待していたよりもダンスは少なめ。だからでしょうか、愛の父、早乙女将吾を演じた市村正親の本気のミュージカルが目立ってます。その歌唱力、立ち姿の美しさ、はっきりしたセリフ回し、キレのある体の動き……ミュージカル俳優40年のキャリアの本物ぶりを見せつけます。早乙女家のゴージャスな大広間、階段で妻・早乙女美也子役の一青窈とともに歌い踊るのですが、市村正親のゴージャスさは広間の調度品ではないかと思われるほどピッタリ。一青窈は歌って踊るのが楽しくてしようがない様子が画面からも伝わってきて、可愛いお母さんになっています。余貴美子が演じた誠の母・太賀トヨのボロボロに疲れきった母とは対照的です。
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総じてこの映画『愛と誠』は、「あのスターがあの名曲を歌ったら」というスターのど自慢大会のような面白さと、「え! あの人、こんなこともできるの?」という新春かくし芸大会のサプライズを兼ね備えた
恋愛歌謡エンターテインメントである、
と、観察しました。
『愛と誠』
2012年6月16日(土) 新宿バルト9他全国ロードショー!
出演:妻夫木聡 、武井咲、斎藤工、大野いと、安藤サクラ、前田健、加藤清史郎、一青窈(特別出演)、余貴美子、伊原剛志、市村正親
監督:三池崇史
脚本:宅間孝行
音楽:小林武史
振付:パパイヤ鈴木
配給:角川映画・東映
©2012「愛と誠」製作委員会