『カフェ・ド・フロール』J=M・ヴァレ監督 マシュー・ハーバートの名曲と愛の記憶が繋ぐふたつの時代。

(2015.03.31)
「この物語の主人公はどう見ても幸せにちがいありません。」のナレーションで物語ははじまり、アントワーヌの姿を追う。『カフェ・ド・フロール』© 2011 Productions Caf? de Flore inc. / Monkey Pack Films
「この物語の主人公はどう見ても幸せにちがいありません。」のナレーションで物語ははじまり、アントワーヌの姿を追う。『カフェ・ド・フロール』© 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films
名曲『カフェ・ド・フロール』がインスパイア。

ータイトルにもなっている『カフェ・ド・フロール』という曲が、現代のモントリオールに生きるアントワーヌを中心にしたストーリーと、1960年代のパリに暮らすジャクリーヌとロランの物語をつなぐ大きな役割を果たしています。この曲から作品は生まれたのでしょうか。

ジャン=マルク・ヴァレ監督:『カフェ・ド・フロール』はマシュー・ハーバードによるインストゥルメンタルの名曲です。ある時、家で音楽を集中的に音楽を聴いてました。とあるコンピレーションの中に入っているこの曲のエレクトロ版を聞いたのです。たぶん『CRAZY』という長編を撮り終えた後ポストプロダクションをやっていたスタジオが、お客さん用に配っていたコンピレーションに入っていたのだと思います。

その頃の僕は『タイタニック』みたいなピュアなラブストーリーを撮りたくてしようがなかった時でもあったのです。この曲が頭から離れなくなってしまったのでいろいろなバージョンで聴きまくりました。特にアコーディオンのオリジナルバージョンを聞いた時、パリの情景が思い浮かんだ。このバージョンは、映画の中でロランが好んで聴くレコードのものと同じです。素敵なメロディ、 ♬ラーラーララー、ララー♬(歌い出す)すごくパリジャンでしょ?

モントリオールでDJとして成功しているアントワーヌ(ケヴィン・パラン)。お気に入りの曲は『カフェ・ド・フロール』。長年連れ添ったキャロルと離婚はしたもののふたりの娘をひきとり、恋人のローズ(エヴリーヌ・ブロシュ)と暮らしている。
モントリオールでDJとして成功しているアントワーヌ(ケヴィン・パラン)。お気に入りの曲は『カフェ・ド・フロール』。長年連れ添ったキャロルと離婚はしたもののふたりの娘をひきとり、恋人のローズ(エヴリーヌ・ブロシュ)と暮らしている。
アントワーヌと別れに苦しむキャロル(エレーヌ・フローラン)。寝ている時、繰り返し見る夢に悩まされ、夢遊病者のように徘徊したり。
アントワーヌとの別れに苦しむキャロル(エレーヌ・フローラン)。アントワーヌの心変わりがどうしても信じられない。寝ている時、繰り返し見る夢に悩まされ、夢遊病者のように徘徊したり。
パリとモントリオールをつなぐ
音楽と、過去の愛の痛み。

ー映画の中でパリを舞台にしたものは、ダウン症の少年 ローランとその母ジャクリーヌ、そしてヴェラという少女の物語ですが、曲を聞いた時に、彼ら登場人物が自然と湧いてきたのでしょうか?

ジャン=マルク・ヴァレ監督:これはもうパリに行ってラブ・ストーリーを撮るしかない、という気になったのですが、でも僕はカナダ人でモントリオール出身だし、パリでどう撮る? どうやったらモントリオールとパリを組み合わせられるだろうと考えた。そんな時にダウン症の子供とその親と知り合う機会があり彼らの関係性の美しさに非常に感銘を受けたのです。説明するのは難しいのですが純粋な愛です。その純粋さを伝えられて、2つの街をつなぐには、痛みを伴う過去の愛の記憶というかたちをとろうと思ったのです。

ところかわって1969年のパリ。シングルマザーのジャクリーヌ(ヴァネッサ・パラディ)は、美容師として生計を立てながらダウン症の息子ローラン(マラン・ゲリエ)と暮らしている。ローランは『カフェ・ド・フロール』のレコードを聞くことが大好き。キャロルの夢と『カフェ・ド・フロール』がふたつのかけ離れた時代をつなぐ。
ところかわって1969年のパリ。シングルマザーのジャクリーヌ(ヴァネッサ・パラディ)は、美容師として生計を立てながらダウン症の息子ローラン(マラン・ゲリエ)と暮らしている。ローランは『カフェ・ド・フロール』のレコードを聞くことが大好き。キャロルの夢と『カフェ・ド・フロール』がふたつのかけ離れた時代をつなぐ。

ー音楽にインスパイアされて映画を作るということですが、そのあとはどのように映画作りを進めるタイプですか? 映画のシーンをラフなど絵に起こすイメージ派なのか、お話をひたすら文字起こしするテキスト派でしょうか?

ジャン=マルク・ヴァレ監督:僕は監督なのでそのどちらもできるし、両方ともとても好きです。

ー映像についは、まだ若いキャロルが「彼を愛してる!」と叫びながら緑の森を駆けていくシーンや、人物の背面からのショット、アクセントのように挟み込まれる青空を横切る飛行機など、美しいシーンが印象的です。

ジャン=マルク・ヴァレ監督:それらのシーンは脚本の段階から書いていたものですね、キャロルが駆けていくシーンの木は、英語でなんというのかわからないのですが……(本で調べる)weeping willow 、柳の木です、ネイティブ・アメリカンたちは魔力が宿ると考えている木です。しなって泣いているように見えるでしょう。

アントワーヌとキャロルは幼なじみ。音楽好きで、心から愛し合い、お互いソウルメイトであると考えていた。
アントワーヌとキャロルは幼なじみ。音楽好きで、心から愛し合い、お互いソウルメイトであると考えていた。少年時代のアントワーヌを演じるのはまだ子供の面影が残る監督の次男 エミールくん。
映画は私のプレイリストをみなさんに提供しているようなもの。

ー映画の中で幼いロランはママであるジャクリーンにレコードをかけてとせがみます。監督ご自身もそのような音楽好きな子供だったのでしょうか?

ジャン=マルク・ヴァレ監督:父がラジオ局のDJで母も音楽好きでした。家にたくさんレコードがあって ナット・キングコール、ビリー・ホリデイ、ダイナ・ワシントンなどのスタンダード・ジャズやビバップ、トム・ジョーンズ、シャンソン、フランス語のカナダのポップミュージック……いつも音楽が流れている環境に育ちました。12歳でピンク・フロイド、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリン、この3つのブリティッシュ・ロックバンドに目覚めてそれが人生の岐路でした。それからは音楽は僕にとって宗教のようなもの。僕が映画を撮る理由のひとつに、音楽への愛を反映したいということがある。ストーリーを語る時には音楽を入れたいし、音楽とイメージを結びけて、そこにセリフが入って、登場人物に対する共感や感情があったりして映画が出来上がっていく。1本の映画はいうなれば特別な旅です。

常に好きな音楽のプレイリストを作っていて、昔は好きな曲を入れてミックス・テープを作って女の子にあげて気をひこうとしたり(笑)。今もそれと同じようなことを観客のみなさんにしてる。映画は私のプレイリストをみなさんに提供しているようなもの。映画とともに音楽体験もしてもらえたらうれしいです。

 
■ジャン=マルク・ヴァレ監督プロフィール Jean-Marc Vallée

Café de Flore-06

1963年モントリオール生まれ。モントリオールケベック大学映画学科卒業。『ダラス・バイヤーズクラブ』(14)はアカデミー賞主演男優賞、助演男優賞、メイク・ヘアスタイリング賞を受賞した。最新作の『Wild(原題)』はアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。

『カフェ・ド・フロール』

2015年3月28日(土)より
恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中

出演:ヴァネッサ・パラディ、ケヴィン・パラン、エレーヌ・フローラン、エヴリーヌ・ブロシュ、マラン・ゲリエ
監督・脚本:ジャン=マルク・ヴァレ
撮影:ピエール・コットロー
© 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films
R-15
2011年 / カナダ・フランス / カラー / 英語・フランス語 / シネスコ / 5.1ch / 120分  
原題:Café de Flore 
配給:ファインフィルムズ