“肉食系”を伝える!? 『2009スペイン映画祭』は、濃かったです。

(2009.12.21)

私、フィルム・フェスティバル・ライターとしましては、秋頃から数重なってくる映画祭を事あるごとにお伝えするべく、前回は『第10回東京フィルメックス』のことを書きましたが、引き続き今回は、この映画祭。いつも前もっての告知より私の体験ルポ的に、報告記事で恐縮ではありますが、お伝えしたいです。この中から一般に上映されるものも出てくるかはお楽しみというしかありませんので、その辺も旬といえば旬と感じていただけたら嬉しいです。このスペイン映画祭は、ラテンビート映画祭に引き続き、同じ会場の新宿バルト9で、2009年12月8日(火)~10日(木)までの3日間行われました。

 
スペイン文化省主催で行った『スペイン:新時代のアーバンカルチャー』の一環として、初の映画祭としてお目見えとなったこのスペイン映画祭。スペイン映画といえば、『ボルベール』などで知られるペドロ・アルモドバル監督が有名です。今年のカンヌ映画祭でも新作『LOS ABRAZOS ROTOS』が上映されました(『抱擁のかけら』として2010年2月6日(土)公開予定)。それ以外の映画がこんなにもたくさんあることをまずは多くの方々に知ってもらうため、映画祭はあるのだといえます。闘牛、パエリア、フラメンコ……のイメージが出てくるといいのですが、私がお伝えするものには残念ながら、それらは扱われていませんでしたね。

つまり、そういうイメージ、メイド・イン・スペインの映画を観たら、私たちが頭に浮かべるスペインは吹っ飛びますよ。本当に吹っ飛ぶ。
今のスペインが、強く、色濃く、様々な監督たちによって自己主張され、オリジナルに表現されている。だから確かに、パエリアのように味わい深く、闘牛のようにハラハラドキドキ、フラメンコのように華々しく……と言うことには違いがないと思いますが。
 

『MAPA DE LOS SONIDOS DE TOKIO』/映画祭邦題『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トーキョー』、監督 イザベル・コイシェ/出演 菊地凛子、セルジ・ロペス、田中泯、中原丈雄ほか。

大の日本好きとしても知られる監督が映し出す日本。こうやって逆輸入的に自分の国を見てみるのも発見があって楽しいもの。

中でも注目の的は、今年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門でも上映された  『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トーキョー』でしょう。『バベル』で一躍国際派女優となった菊地凛子さんが主演しています。
築地の魚河岸で仕事をしながら、裏ではプロの殺し屋という顔を持つ役。気になりますね。同じ日本人として菊地凛子さんが、またまた国際的に活躍していること、殺し屋だなんて攻めの役柄も。私も今年行ったカンヌ映画祭では、“女体盛り”が理解されずジャーナリストたちから攻撃されたりしていましたが、配給が早く決まり、多くの観客の反応を見たいものと、楽しみにしております。ちなみに今回は女性に好評だったそうで、期待は大ですね。

 

『CELDA 211』/映画祭邦題『第211号監房』、監督 ダニエル・モンソン/出演 ルイス・トサル、アルベルト・アンマン、アントニオ・レシネスほか。

血とバイオレンスと緊張感にあふれた作品でも、スペイン映画で欠かせないのが美男美女。主演のアルベルト・アンマンが果敢でいい男を演じていました。一般公開されるべきだー。

さて、その他に私が気になったのは、このスペイン映画祭でオープニングを飾った『第211号監房』、そしてアカデミー賞外国語映画賞スペイン代表作にもなった『泥棒と踊り子』。『第211号監房』は密室劇にも近い、刑務所における数日間の事件を描いた物語。生きるか殺されるか、いや、生きてやる!という男たちが暴れる。『泥棒と踊り子』は、刑に服していたが、恩赦によって社会に戻った泥棒たちが、人生をやり直すために奮闘するも、あらたな運命に巻き込まれていく物語。悲しい恋もある。

いずれも、そこには荒くれ野郎、野心に燃える男たちが描かれています。こんなにギラギラした男の人、日本では見ない気がします。それにも目を見張った私、だって今の日本の俳優たちは“草食系”ばかりですから。あぁ、肉食系ってこういう風なのねと認識させられる。そして、男性の象徴とも言うべき立派なお髭がトレードマーク。こんな主人公たちが画面いっぱい、縦横無尽に暴れ回るのです。

役作りのためというよりも、普段からエネルギッシュなんだろうなと思わせるオーラが男優さんたちにはあり、それがスクリーンから伝わって来ました。
女性もまた“肉肉しく”も、美しいんです! 日本の女性は痩せすぎといわれますが、ボディのつくところについてる美しさは真似できない美しさなんですね、悲しいかな。姿勢がスッとしていて、目力もある。見た目だけでなく、肝心なところで男性陣を支える強さもある。(もちろん、支え方は作品によって描き方が違いますが)
この素敵な女優さんたちの存在にも目が離せませんでした。

 

『EL BAILE DE LA VICTORIA』/映画祭邦題『泥棒と踊り子』)監督 フェルナンド・トゥルエバ/出演 リカルド・ダリン、アベル・アヤラ、ミランダ・ボーデンフォファーほか。

スペイン映画でも、撮影はスペインばかりに限りません。『泥棒と踊り子』はチリが舞台。街中を車ではなくて、馬で駆け抜けるシーンなど、プリミティブな風景が現代の日本には珍しくたくましく感じられました。

結果、スペイン映画祭で、スペイン語圏の人に囲まれて、スペイン映画を観ると、やはりスペインの今をもっともっと、知りたくなってくる。スペイン側も、今の日本には興味津々なようですよ。今回、日本をテーマにして『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トーキョー』を作ったイザベル・コイシェ監督が映画祭のオープニングでも言っていました。

ラーメンもいちご大福もカラオケも大好き!と。そして、東京という街が監督にインスピレーションを与えてくれると力説していました。

スペインも日本もお互いに刺激を受け、その文化を“肉食系”でがっつり取り込む。

いいですね。その橋渡しが、こういう映画祭だということなのです。