たった4館の公開から口コミで全米に広がり奇跡の大ヒット! 映画『サンシャイン・クリーニング』はアメリカ版『おくりびと』!?

(2009.07.11)

ストーリー

ハイスクール時代はチアリーダーのアイドル、30代の今はシングルマザーでハウスクリーニングの仕事をするかたわら、かつての恋人と不倫中の姉・ローズ(エイミー・アダムス)。妹・ノラ(エミリー・ブラント)は、バイト先で逆ギレしてはすぐクビになってしまい、いまだに父親ジョー(アラン・アーキン)と実家暮らしを送っている。ジョーはあやしげなお菓子の訪問販売で一攫千金を狙い、ローズの息子オスカー(ジェイソン・スペヴァック)は何でもナメるクセが原因で小学校を退学に! 

そんな人生にぶきっちょな家族が、ローズとノラが始めた“新しいビジネス”で自分たちの生活を立て直そうとする。それは犯罪や事件の現場をクリーニングする、ちょっとあぶない“清掃業”。その名も「サンシャイン・クリーニング」。果たして、姉妹とその家族は幸せな未来を手にすることができるのだろうか?


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みどころ

アラサーともなれば誰にだって、他人には知られたくない人生の綻びも。

『リトル・ミス・サンシャイン』(’06)の製作スタッフが再び集結して作った映画と聞いて、前作の大ファンとしては、期待は高まるものの、どうしても2番煎じの感は否めなかったのですが、さすが前作同様「サンシャイン」をタイトルに掲げるだけあって、この『サンシャイン・クリーニング』も可笑しくて泣きたくなるようなしっかりと見ごたえのある作品に仕上がっています。

この映画の主人公ローズ。かつてのチアリーダーのアイドルの成れの果ては腐れ縁の男と不倫中のシングルマザー。当時彼女に憧れていたというお金持ちマダムとなった同級生の家で、ハウスクリーナーとして再会し、BABYシャワーに誘われる……といった最悪の事態に見舞われたり、息子を私立の学校に転校させるために、ただ単に高給だからという理由で始めた、「自殺や事件・事故現場の特殊清掃業」でも、同業他社が彼女らのシロウトっぷりをボロクソに話している場面に遭遇してしまったり……と、日常生活とは切っても切り離せない「よりによって、なぜ今ここで……」と思わず頭を抱えたくなる局面が度々登場します。

しかし、ローズは普通ならプライドがズタズタになってしまいそうな時でさえも、素直に自分の置かれた状況から逃げずに向き合い、足りない点は補って、整理すべきはすっぱり切る、という芯の強さを持ち合わせているのです。

アラサーともなれば誰にだって、他人には知られたくない人生の綻びも一つや二つ出てくるもの。けれど、過去の栄光にしがみつくことなく、「こんなはずじゃなかった」現実を受け入れるしか生き延びる術はないのです。

大切な人の死に直面して、深く悲しみ、故人を思う気持ちは世界どこでも同じ。

一方、風変わりな父親と実家に暮らす妹のノラは、何をやっても中途半端で、仕事をすぐクビになってしまうような、いまどきの女の子。そんな彼女も、姉ローズに誘われイヤイヤながら「サンシャイン・クリーニング」を始めることに。とある自殺現場で拾った遺品の中に、故人の娘と思われる写真を見つけたノラは、自らの境遇やトラウマと重ね合わせ、なんとかしてそれを手渡そうと画策します。

とはいえ、生来不器用な家族の面々が、何もかも上手くやれるわけもなく、よかれと思ってしたことがかえって裏目に出たり、やっとチャンスを掴んだかと思った矢先、予期せねトラブルに巻き込まれたり……と、どこまで行っても散々な目に合い続けるのです。

この映画、アメリカ版『おくりびと』と言っても過言ではありません。『おくりびと』がアカデミー賞外国語映画賞を受賞した際、日本人独自の死生観が世界中の人に理解されるのか、実は不思議に思っていたのですが、この映画を観て納得できたような気がしました。大切な人の死に直面して、深く悲しみ、故人を思う気持ちは世界どこでも同じなのです。

また、一見衝撃的な職業を取り上げながらも、随所にユーモアの要素をちりばめつつ、ダイナーやモーテルといった典型的なアメリカの風景を残すニューメキシコのアルバカーキをロケ地に選んだ点も、美しい田園風景や銭湯のシーンが印象的な『おくりびと』とどこか似ていると感じた理由の一つかもしれません。

ローズが自分の仕事について同級生に語る場面に「死んでしまった事情はそれぞれ違うけど、悲しみは同じ」「とても小さな仕事だけど、故人を送り出すのに、私たちが手を貸してあげるの」というセリフがありますが、実際に亡骸と接するか現場処理をするかといった違いこそあれど、死者と向き合い、人生を発見するという意味ではどちらも共通しています。中でも、夫に自殺された老婦人の手をとり、迎えがくるまでの間、ただ横に居てあげるローズのやさしさや、母親の残したタバコの吸殻をくわえ、面影に思いを馳せるノラの純粋さが、この映画に余韻をもたらしているのです。

奇行で小学校を退学になった孫に、おじいちゃんが「お前は普通の子どもと違って天才なだけなんだ」と声をかけるシーンや、「私生児って何?」と甥っ子に聞かれて「結婚しないでひとりで子供を育てること。それって、超クールなことよ。」と答えるノラのセリフを耳にしたとき、何事もモノの見方次第なのだ、と目からウロコが落ちる思いがしました。

確かに型破りで問題山積みではあるけれど、一見普通に見えて、実はオソロシイ多くの家族より、よっぽど真っ当に生きているローコウスキ一家。

もしテレビで古い映画が流れたら、「ペガンパイがおススメです」とにっこり微笑むウェイトレスの姿を、ローズとノラ姉妹同様、思わず探してしまいそうです。

 

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『サンシャイン・クリーニング』

出演:エイミー・アダムス、エミリー・ブラント、アラン・アーキン、ジェイソン・スペヴァック、スティーヴ・ザーン、メアリー・リン・ライスカブ、クリフトン・コリンズ.Jr.
監督:クリスティン・ジェフズ
製作 : ビッグ・ビーチ・フィルムズ、バック・ロット・ピクチャーズ
2009年/アメリカ/カラー/ドルビーSRD/92分
提供 : ファントム・フィルム/クオラス
配給 : ファントム・フィルム
www.sunshine-cleaning.jp
7月11日(土)渋谷シネクイント・TOHOシネマズ シャンテ他にてロードショー