『メイジーの瞳』マクギー&シーゲル監督、 O・アプリール インタビュー光溢れる映像と音が伝える
メイジーの心。

(2014.01.29)


『メイジーの瞳』主演のオナタ・アプリールちゃん(中央)、監督ユニットのデヴィッド・シーゲル(左)とスコット・マクギー(右)©2014 by Peter Brune


NYに暮らす6歳のメイジーが、両親の離婚という残酷な現実に翻弄されながらも、家族とは? 本当の幸せとは? といった普遍的な命題に向き合い、自らの意志で新たな生活を始めるまでを描いた『メイジーの瞳』。女性映画批評家協会賞若手女優賞を受賞するなど、主演を務めたオナタ・アプリールちゃんの繊細で素晴らしい演技が早くも注目を集めています。『キッズ・オールライト』で、レズビアン夫婦と思春期の子どもたちが織り成す「新しい家族のカタチ」を見事に描いた製作陣が手掛けた作品とあって、本作も、単なる身勝手な大人の都合に振り回される可哀想な子ども、というありきたりな図式に納まることなく、6歳のメイジーの視点を通して見えてくる、決して一筋縄ではいかない大人の世界を、丁寧な筆致で浮き彫りにしています。

監督を務めたのは、『綴り字のシーズン』(’05)においても、家族の崩壊と再生の物語を美しい映像と音楽で映画化した、スコット・マクギー&デヴィッド・シーゲルのお二人。公開に先駆けて来日された監督とオナタちゃんに、作品とご自身のつながりについて伺いました。


パンダ紙風船に大はしゃぎのオナタちゃん。©2014 by Peter Brune ■オナタ・アプリール プロフィール Onata Aprile 2005年ペンシルヴァニア生まれ。母で女優のヴァレンタイン・アプリールがオナタのために作ったWEB映像作品” Hello, Petula!”でデビュー。テレビシリーズ『LAW & ORDER:性犯罪特捜班 』、ニック・カサヴェテス監督『Yellow』(’12)などに出演。最新作は『Almost Family』など。

光あふれる映像と
優しい音楽が伝えるもの。

「オマタセイタシマシタ」というマクギー監督の流暢な日本語のご挨拶からスタートした今回のインタビュー。まずは、オナタちゃんに「おもてなし」の気持ちを込めてささやかなプレゼント。「こうするの?」と早速「ふーふー」一生懸命パンダの紙風船に息を吹き込み始めたオナタちゃんは、膨らんだ風船を片手に日本語で「ドウモアリガトウ!」とにっこり。実はオナタちゃんの父方のお祖母さまは日本人で、オナタちゃんはクォーターとのこと。

さらに、折り紙で折った小さなミドリガメを差し出すと、「わぁ、タルーラと同じだ!」と喜んでくれました。なんと映画中盤に登場する共演のカメに「タルーラ(TALLULAH)」と名付けて、現在も一緒に暮らしているというオナタちゃん。相棒の近況を伺ってみたところ、「タルーラは元気にゆっくりと生きてます。今はお家でお留守番中なの。」と教えてくれました。

―『メイジーの瞳』は幼い少女が直面する両親の離婚という重いテーマを扱っているにも関わらず、光あふれる映像と優しい音楽に救われました。

シーゲル:それはまさに僕らが意図したとおりだね。

マクギー:そうそう、そこなんだよね。僕らの狙いをちゃんと汲み取ってくれてありがとう。

―監督の映像や音楽へのこだわりをお伺いしたいです。部屋に差し込む光がとても美しく、印象的でした。

シーゲル:撮影監督のジャイルズ・ナットジェンズと一緒に仕事をするのは今回で3度目になるね。プロダクションデザイナーを務めたケリー(・マクギー)は、スコットの妹なんだ。二人のことは、とても信頼している。

―旋律の美しさは、メイジーの繊細な心を表現する上で、重要な役割を果たしていますね。

マクギー:ジュリアン・ムーアが演じたメイジーの母親スザンナはロックスターという設定だから、その時点でこの映画にはすでに音楽の要素があるんだけど、それとは別に、メイジーの領域を音で確立したいと考えた。彼女の心のあり方を象徴するような音楽を作りたかったんだ。作曲家のニック・ウラタの作る音楽はとても繊細で、子どもの声を見事に代弁してくれている。ニックは「DeVotchKa」というバンドのリーダーで、いろんな楽器が演奏できて、とても才能あふれるミュージシャンなんだ。

オナタちゃんを囲んで笑顔が絶えない3人。■スコット・マクギー&デヴィッド・シーゲル プロフィール Scott MCgehee & David Siegel マクギー監督はカリフォルニア州出身、コロンビア大を経てカリフォルニア大学バークレー校で映画理論と日本映画史を学んだ。シーゲル監督はカリフォルニア大学バークレー校を経てロードアイランド造形大学で美術学を修める。1990年短編の製作をきっかけに監督チームに。長編デビュー作『Suture』(’01)がサンダンス映画祭 インディペンデント・スピリット新人賞受賞。ジュリエット・ビノシュ主演『綴字のシーズン』(’05)、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット主演『ハーフ・デイズ』(’09)などを手がける。

メイジーの可愛いファッションとお洒落なインテリア、
そして色彩がもたらす効果。

―共同親権を持った両親と新しいパートナーの間を、行ったり来たりする過酷な状況でありながらも、メイジーの服やインテリアがとてもキュートでお洒落に整えられていることで、悲壮感を感じることがなかったです。不器用ながらも、両親やそれぞれのパートナーがメイジーをちゃんと愛していることがとてもよく伝わってきました。

シーゲル:そうなんだ。まさにそれを狙ったんだ。

―劇中でファッションモデルさながら、次から次へと可愛い衣裳に着替えていましたね。オナタちゃんはどのコスチュームがお気に入りですか?

オナタ:(プレスシートに掲載されたスチール写真を眺めながら)水着と、あとこの魚の模様の水色のワンピースが好き。タイガーのカチューシャも。

マクギー:今回も持ってきたんじゃなかったっけ?

オナタ:うん、持ってるよ。あと羽がついてるカチューシャも好き!

―監督はカラフルな衣裳が映画にどんな効果をもたらすと意図されたのでしょう?

シーゲル:映画全体のトーンについては、事前にケリーやデザイナーのステイシー・バタットと何度も話し合った。色がメイジーの感情を表わす役割を果たしていて、まさにカラーパレットでメイジーを表現しているといえるんだ。


メイジーとリンカーンがふたりでお出かけするシーン、お気に入りの魚のプリントのワンピース。


登場するたびに異なるデザインのカチューシャをしている! こちらはキティちゃん風のカチューシャ。

スクリーンから伝わるリアルな信頼感と、
子どもの視点に織り交ぜた幼少時の記憶。

―離婚した母親の新しい年下のパートナーであるリンカーンとメイジーが築き上げる信頼関係がとても自然で魅力的でした。リンカーン役のアレキサンダー・スカルスガルドさんとオナタちゃんは、もともと面識があったのでしょうか。それとも実際に撮影を通じて距離を縮めていかれたのでしょうか。

オナタ:アレキサンダーとはこの映画で初めて会ったんだけど、映画を撮ってるうちに本当に仲良くなったの(笑)。

―本作は、ほぼ全編にわたって6歳のメイジーの視点を中心に描かれています。実際に演出をされる中で、監督ご自身の幼少期の記憶が反映されるような場面もあったりしたのでしょうか?

シーゲル:この作品は1897年に出版されたヘンリー・ジェイムズの小説をナンシー・ドインとキャロル・カートライトが現代的に書き直した脚本を元に撮影していることもあって、僕自身は自伝的要素といったものは一切持ち込んでいないんだ。

マクギー:僕の方は、実は少しだけあるかもね。本編の中でメイジーがあやとりをしているシーンがあるんだけど、あのシーンは僕の子ども時代の記憶でもある。(……と、ここですかさずオナタちゃんが「そうそう!あやとりやったよね」とコメント……)あやとりの進め方は覚えていたんけど、終わらせ方がどうしても思い出せなくて困っていたら、照明スタッフの一人が小さい頃お母さんに教わったといって、問題が解決したこともあったよ(笑)。


メイジーのママ スザンナ(ジュリアン・ムーア)は人気ロック歌手。コンサートツアーでいつも飛び回っているが、メイジーを深く愛している。


アートディーラーのパパ ビール(スティーヴ・クーガン)も忙しい。スザンナと離婚、共同親権を得てメイジーと時間を過ごすことになっても不在がち。


ママの彼、つまりメイジーの新しいパパになったリンカーン(アレキサンダー・スカルスガルド)。メイジーはリンカーンに対して次第に心を開いていくが、ママは……。
日本の四季の移ろいと、
日本映画の名作が及ぼした影響の数々。

―ところで、マクギー監督は先程も流暢な日本語を話されていて驚いたのですが、日本に留学経験もあるそうですね。

マクギー:実は高校時代に応募した留学プログラムで偶然日本に来ることになったのだけど、実際に来てみたら人とのつながりも出来たし、不思議と共感する部分も多くて、大学卒業後に英語教師としてもう一回日本にやってきたんだ。一度離れてから再び戻ってきたせいもあると思うけど、日本ならではの四季の移ろいにすごく深い部分で影響をうけたところがある。日本の人たちは「四季の香り」というものにとても敏感で、季節ごとに合わせた生活をしているところが、特に印象に残ったんだ。

―非常に感覚的な部分で日本特有の風土を理解してくださっていて嬉しいです。お二人の作風に、日本映画が影響を与えている部分というのもありますか?

マクギー:僕はカリフォルニア大学バークレー校で映画理論と日本映画史を学んだんだけど、バークレーにはパシフィック・フィルム・アーカイブというのがあるんだ。おそらく日本国外で(日本映画が観られる)一番大きなアーカイブなんじゃないかな。デヴィッドと映画を作るようになって、二人で一緒にアクセスして昔の日本映画を見始めた。特に鈴木清順監督の破天荒でぶっ飛んだ映画には驚いたな。勅使河原宏監督や篠田正浩監督、成瀬巳喜男監督が僕達の好きな映画監督なんだけど、中でも『女が階段を上る時』(’60)がお気に入り。直接的ではなく、抑えた演出でありながら、観客が登場人物の心情を察することができるメロドラマの描き方に惹かれるんだ。

―それはまさにお二人の作る作品にも通じる要素でもありますね。

シーゲル:まさにそうなんだよ。まちがいなくね。

―同時代の日本人監督についてはいかがでしょうか。

シーゲル:なかなか見られる機会がないんだけど、是枝裕和監督の作品は好きだね。

マクギー:あと、ヤンガー・クロサワ(黒沢清監督)もね!

***

細かなニュアンスをも共有できる監督お二人の阿吽の呼吸と、天使のようなオナタちゃんの微笑みから、撮影現場のチームワークの良さとあたたかさが伝わってくるようでした。類稀なるオナタちゃんの才能と、マクギー&シーゲル監督のさらなる活躍が楽しみです。

メイジーの瞳
2014年1月31日(金)TOHOシネマズ シャンテ、シネマライズ他全国順次公開

出演:ジュリアン・ムーア、アレキサンダー・スカルスガルド、オナタ・アプリール、
   ジョアンナ・ヴァンダーハム、スティーヴ・クーガン
監督:スコット・マクギー、デヴィッド・シーゲル 
衣装デザイン:ステイシー・バタット
プロダクションデザイン:ケリー・マクギー
撮影:ジャイルズ・ナットジェンズ
音楽:ニック・ウラタ
製作:ダニエラ・タップリン・ランドバーグ、リーヴァ・マーカー
原作:ヘンリー・ジェイムズ
原題:WHATMAISIEKNEW
字幕翻訳:松浦美奈
配給:ギャガ

2013年 女性映画批評家協会賞若手女優賞受賞
第25回東京国際映画祭 コンペティション部門出品作品

2013年/アメリカ/99分/
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