1本のシネマでも幸せになれるために – 3 - 拝啓 読んでなくてすみません、キング様。『1408号室』映画で先に観てしまいました。傑作でした。

(2008.11.18)

スティーブン・キング作品、かなり観てます。
また、また新作『1408号室』(’07)の登場で、やれ、うれしや。
「読んでから観るか、観てから読むか」を考えるにふさわしい存在のキング作品。キングほどの文学者はいないと、こよなくリスペクトしてお慕い申し上げている割には、読んでから映画を観た作品といえば、『ミザリー』(’90)、『グリーン・マイル』(’99)くらいのもの。原作の方がより文学性が高かったように感じてます。

(『ランゴリアーズ』(’95)は読んだのに、不覚にも観てないのだーっ。あの内容だと、どんな映像になるんでしょう。観た人は、私に絶対教えないでね。DVDで観ますから、この週末にでも)

後は観てから……、あ、実は読んでいないのです。す、すみません、キング様。

『キャリー』(’76)、『シャイニング』(’80)、『デッド・ゾーン』(’83)、『スタンド・バイ・ミー』(’86)、『バトルランナー』(別ペンネーム)(’87)、『ペット・セメタリー』(’89)、『ドロレス・クレイボーン』(’93)、『ショーシャンクの空に』(’94)然りの、『シークレット・ウィンドウ』(’04)、『ミスト』(’07)など、などほとんど劇場で観てます。仕事を放り出して、試写会か初日にね。

映画として面白くない作品はひとつとしてなかったので、「原作はいかがなものかと確認するという気にもならず…」と言う言い訳を用意し、読んでないのです。いけませんね。観てから読めば読書のスピードは倍速以上、しかも監督の脚色力を知る楽しさも加わり楽しみ倍増。幸せいっぱいにしてくれるのも絶対にキング作品なのだから。

 
 

それにしても、つくづく、彼くらい映画監督なら誰もが一度は作品のいずれかを、映画化したいと思わせる作家もいないのではと思います。
『キャリー』のブライアン・デ・パロマ監督を皮切りに、『デッド・ゾーン』のデビッド・クローネンバーグ監督や、『スタンド・バイ・ミー』のロブ・ライナー監督は一度ならずもで、『ミザリー』も話題作に仕上げました。『ショーシャンクの空に』、『グリーン・マイル』、そして『ミスト』のフランク・ダラボン監督は3度も。皆さん、キング作品に関わるごとに大物になって行ったではないですか。

監督を育てる力さえある作家なんです。しかし、天才監督の名を欲しいままにしていた、スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』(’80)の出来には噛みついたりして。キング自ら監督になり、自分の気に入るテレビ版『シャイニング』を作るに至りましたっけね。どう観ても、キューブリック作品は絶品ですから、原作者の意見を聞き入れなかった芸術家と、原作者としての芸術家の戦いの後に、私たちは両方の作品を見比べることができることになったのでした。

これまた至福の喜びを下さるキング様、そういう意味でも、根っからのサービス精神の持ち主なのですよ。

ドルフィン・ホテルの1408号室で何が起きるのか。
Ⓒ2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.

 

さて、長くなりましたが、新作の『1408号室』降臨。
うーん、読んでなかったなー、これも。『ミスト』に続いての「化け物系」と言おうか、キング作品には大きく分けて2種類あるうちの、ロブ・ライナー監督描いたところのものとは違うタイプで、今回は古典的とも言えそうな「ホーンテット・マンション」もの。日本風に言うと、「開かずの間」のお話。原作は短編だというから、監督の腕前は大したものです。北欧出身の監督だそう。

しかし、いまさらながらこの新作の前作に当たる『ミスト』を作ったダラボン監督が、感動作で大ヒットとなった二つの作品の後に、あえて“化け物系”を作った気持ちはよく分かります。やはり、とてつもない想像の産物、“お化け”を自由闊達に映像にしていい立場を持てたら、キング作品の映像化は優等生じみた感動作にあらず、“化け物系”が真骨頂なんだと思いますよ。3作目にして「やったぞー」と満足したに違いない。

しかも、監督自身が言うように、実は一番怖いのは人間で、お化けに追い詰められた時の人間ほど怖いものはない。この皮肉な人間の存在を浮き彫りにしている傑作が『ミスト』ではありました。まだ、観てない人、観るべし。

と言うわけで、今回も化け物屋敷ならぬホテルの話なんだけど、霊力のあるホテルというと、すぐさま『シャイニング』との比較になり、全米では、それを超えた作品として絶賛されたとの触れ込みですが、どうでしょう。ちょっとでも話すとネタバレになりそうですもん、この手の話は。もう、言えないな。
言えることと言えば、古いホテルの一室、1408号室に入って出られた客はまず、いない。というその部屋に、オカルト・スポットを訪れ本にまとめている作家が挑戦。さて、彼はどんな目に会いますか…。と言う話であること。

観る前から怖いのは、この部屋の数字の総数が、キリスト教世界では忌み嫌われている13と言う数字になることと、よく考えてみると13階を作らないホテルの、14階は実質13階である事実。怖そーでしょ、これだけでもう。

そして、楽しめるのは、あの『ファイト・クラブ』(’99)でブラピとの共演でサド・マゾのマゾ男をよくぞ演じてくれたエドワード・ノートンが、再び徹底したマゾ男を演じてくれるところ。天下一品ですよ、こういう役を彼にやらせたら。
この主人公ときたら、実はこれまで一度たりとも霊的現象にあったことのないことを隠して、オカルトや心霊スポットで読者を怖がらせ儲けてる作家なんですよ。霊たちからしたら、そりゃあ、懲らしめたくなるでしょう、この男を。
ジャック・ニコルソンとどっちが怖がり、怖がらせ上手かは、観てのお楽しみです。

いずれにしてもキングが描きたいのは化け物でも何でもない、人間そのものです。想像もつかない化け物が登場する『ミスト』にせよ、今回の作品にせよ、恐怖心と言うものを増幅し、新たなメタファーを生みだすのは人間そのものであることを、彼は言い続けています。
だから、『1408号室』もホラーなんて言わせません。いみじくも映画の中のセリフにも出てきました、「カフカ」以上の文学作品の映画化と言うべきでしょう。

だからこそ、観てからになっちゃいますが、今からでも原作読まねばね。

映画『1408号室』
監督 ミカエル・ハフストローム

キャスト ジョン・キューザック、サミュエル・L・ジャクソンほか

2007年 / アメリカ / カラー / 107分
2008年11月22日(土)より渋谷東急ほか全国拡大ロードショー

タラボン監督の『ミスト』をホラーと、あなどってはいけない。(販売元 ブロードメディア・スタジオ / 発売元 ポニーキャニオン / ¥3,990 税込)

 

キング様が否定する、天才キューブリック監督『シャイニング』は、グアム行き豪華客船の中のシアターという密室で観たので、怖かったー。ジャック・ニコルソンの名をとどろかせもした作品。「ジャックだよー」の怖―い顔は、『シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン』のパッケージだけでも充分に堪能できますね。(販売元 、発売元 ワーナー・ホーム・ビデオ / ¥1,500 税込)

 

やっぱり、この『1408号室』は『シャイニング』のオマージュなのかも…。と確信する、こんなシーンもあり!