1本のシネマでも幸せになれるために – 5 - 「今」のフランス映画代表『ベルサイユの子』に、生き急いだギョーム‧ドパルデューの最後の生き様を追いかけて観る。

(2009.05.07)
名子役の出現と、フランス公開時話題をさらったマックス・べセット・ド・マルグレーヴ(写真・右)と、ギョーム・ドパルデュー。

今年のカンヌ映画祭も、もう間近か。第62回の開催は、5月13日から24日までですが、昨年のカンヌ「ある視点」部門にノミネートされ、現在公開中のフランス映画『ベルサイユの子』は、今年のフランス映画祭でも上映されたので、ご覧になった方も多いかとも思います。

何より先ずは、この映画に主演した後、37歳という若さで亡くなったギョーム・ドパルデューに敬意を表し、彼の最後の作品として必見すべきでしょう。もし、あなたが映画が好きと言うならば。

フランス映画の良さをめいっぱい醸し出したこの作品、社会から転落した人々を映し出し、今のフランス社会を炙り出すことをてらうことなく完成させている。フランスに詳しくないと言う人でも、あのベルサイユ宮殿や、ルーブル美術館のことくらいは観光ガイドで知っているはず。その良きフランスを象徴するベルサイユ宮殿と言う場所にホームレスの人々が大勢暮らしているという。観光ツアーでは絶対に眼に出来ない光景でもあるでしょう。

ここに小屋を立て自暴自棄になっている男、これをギョームが演じています。役作りのせいなのか、運命とも思える死をどこかで予感していたのか、鬼気迫るほどの鋭角的容貌で全編に登場します。

その彼の容貌が、どこから見ても、父親であるジェラール・ドパルデューにそっくりになってたのにも驚かされます。世界的スターとして知られる父親の存在との折り合いがいつもギョームには課せられていたであろう人生。それに甘んじるも、戦うも、こうも短い時間でギブ・アップしてしまうのでは忍びない限り。実父となれば、その思いは、いかばかりのものか胸が詰まります。どうしてもこの映画は、誰もが、そんなギョ-ムという人の存在を意識して観てしまうことでしょう。 
 
職を失いさすらって、ベルサイユの森を訪れた若い母と5歳の子どもと男との間には奇妙な絆が生れ、男とは違って社会復帰を考えている母親は、勝手ながら男に子どもを託し、職を求め子どもを置いて、旅立ってしまう。見ず知らずの子どもを置き去りにされ多いに悩む男。しかし、この子どもこそが、彼に一度はあきらめかけた社会的自立の道を見直させることになるのです。きっかけはどうあれ、やり方はどうあれ、人間の尊厳はそう簡単に無くなるものではないという力強いメッセージを、あくまで静かに、時に逆説的に語り描きつくしたのが、この作品。

ギョーム最後の作品としても申し分のないものではないでしょうか。むしろ、ギョームの最後を飾るにふさわしい作品とさえ思えてくる美しさがあります。森、空、夜、炎など、森羅万象の情景が美しく表現されていて神々しく、現実を超越しているように感じたのは私だけでしょうか。自分の出来る精一杯の力を発揮した後、ギョーム演じる男もまた、子どもの前から立ち去るのですが、そのことが、何か彼の死を象徴するかのようにも思えてなりません。

エンゾ少年を演じたマックス・べセット・ド・マルグレーヴ。
鬼気迫るほどの鋭角的容貌、ギョーム・ドパルデュー。
美しい人妻役がハマルお年頃となった円熟のオーレ・アッテカ。
『サム・サフィ』で華やか業界デビュー。最初は違う女優さんが演じることになっていて、タカノとしてもピンとこなかったんですが、その後オーレに決まって、ヒット間違いなしと、確信しました。ご本人はデビュー当初からインテリジェンスのある女性でした。

思い出されるのが、イブ・モンタン。彼も、心臓発作で亡くなる前にジャン=ジャック・べネックス監督の『IP5』の撮影をしていました。この作品が最後の作品となったわけですが、内容が、自身と被っていたことを強く感じたものでした。当時は雨の中で大スターであるモンタンに長時間の撮影を強いた監督のせいで亡くなったと批判もされましたが、年老いた男が人生の終焉に少年と出会い、自分の存在を再確認していくという内容で、彼自身は、最後の作品として悔いもなくやり遂げたのではないかと感じられました。

私には『ベルサイユの子』のギョームも、この作品を完成させて召され、役者としては悔いのない生き方をしたのではと思いたいのです。

そんな役者魂を感じさせてくれる作品、観たらみんなでギョームのことを語ってあげたくなる作品です。

はみ出し的に、もうワンエピソード、いいでしょうか。

役者根性と言えば、ギョーム演じる男が、子どもの世話をするため遠のいていた自身の実父に頼みごとをしに行きます。ここでも切れかかっていた絆がまたひとつ復活するんですね、この天使みたいな子どものおかげで。で、そこで父親の新しい奥さんと出会う。これを演じているのが『サム・サフィ』でフランス映画業界デビューしたオーレ・アッテカ。この作品は私が日本側プロデューサーとし製作した日仏合作作品でしたので、同時に日本でのデビューも果たしたわけですが、雑誌『Olive(オリーブ)』の表紙も飾らせていただいたんです。懐かしいですねー。来日してもらい特製Tシャツを着ての登場となりましたが、この頃は本当に「自由でうんざり」のキャッチそのままに、気ままに生きるギャルと言う感じのパリジェンヌでしたが、この作品では美しいマダムとして輝いています。フランス女優と言うと未だドヌーブ、バルドー、ジャンヌ・モロー、ソフィー.マルソー、アジャーニ、ビノシュ……と来て、次がないみたいな認識ですがバイ・プレイヤーとして確たる地位を築いているアッテカにも拍手でした。

『今』のフランス映画を代表する作品に、アッテカありとお伝えしておきます。

 

『ベルサイユの子』

5月2日(土)よりシネスイッチ銀座で公開中、その後全国ロードショー予定。
監督 ピエール・ショレール 
出演 ギョーム・ドパルデュー、マックス・べセット・ド・マルグレーヴ、オーレ・アッテカ
フランス/2008/113分/提供・配給ザジ・フィルムズ