本物のセレブだからわかるメランコリア。  映画『SOMEWHERE』。

(2011.04.16)

ハリウッドに実在する伝説のホテル『シャトー•マーモント』を舞台に、人気映画俳優の父と思春期の娘が過ごす何気なくもかけがえのない日々を、メロウなナンバーに乗せて描いた、ソフィア•コッポラ監督最新作『SOMEWEHERE』。製作総指揮を父であるフランシス・フォード・コッポラが務め、兄のローマン・コッポラが製作を担当。さらにはソフィアのパートナーであるトーマス・マーズが在籍するバンド、フェニックスが音楽を手掛けるなど、家族という最強のチームワークによって支えられた本作は、第67回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、ソフィアの新境地を開いた最高傑作として注目を集めています。
 


フェラーリを乗り回し自堕落で退廃的な生活を送る、ハリウッドスターのジョニー・マルコを演じたのは、かつて映画『バック・ビート』のスチュアート・サトクリフ役で脚光を浴びたスティーヴン・ドーフ。そして、思春期特有の輝きを放つ娘クレオに扮しているのが、天才子役として名を馳せたダコタ・ファニングの妹、エル・ファニング。

離れて暮らす娘をしばらく預かるという設定が、親子でありながらも友だちでもあり、小さな恋人のようでもある微妙な関係性を違和感なく作り出しています。

父と娘、浮遊する孤独な心。

ジョニーの住まいは『シャトー・マーモント』の、かつてはU2のBONOが使っていたという57号室。双子のポールダンサーを自室にデリバリーしたり、お酒にも女にも苦労せずパーティーを開いたりのセレブライフ。授賞式に参加するため娘と泊まるイタリア・ミラノ『プリンチぺ・ディ・サヴォイア』のプール付きのスウィートルームにさえ、夜中に女を招き入れ、翌朝三人で一緒に朝食を取ることに悪びれもしない。そんなジョニー•マルコにも、いくつかの異なる側面があります。

スケートリンクでクレオがエレガントにターンする姿を見つめる父親の横顔や、ホテルの部屋でWii Sportsやギターゲームに興じる子どもみたいに無邪気な笑顔。そして華やかな授賞式にクレオをエスコートして出席するスターとしての貌。

父親の複雑な多面性を敏感に感じとりつつも、冷めた目で自分を取り巻く状況を受け入れるクレオには、どこか自伝的な要素も重ね合わせたくなりますが、クレオはあくまで友人の子どもにインスパイアを受けたと語るソフィア。

でもきっと、世の中には一般庶民には一生かかっても知る由もないホンモノのセレブリティだけにしかわからないお金や時間の感覚というものがあって、この映画にはリアルなセレブであるコッポラ家の娘だからこそ描ける苦悩や喜びが滲み出ているともいえます。

揺れ動く少女の繊細な心と、誰もが逃れることのできない孤独な心とを分け隔てなく静かに見つめるソフィア•コッポラの眼差しのやさしさに、是非劇場で触れてみて下さい。

『SOMEWHERE』

監督・脚本:ソフィア・コッポラ
製作:G・マック・ブラウン、ローマン・コッポラ、ソフィア・コッポラ
製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ、フレッド・ルース
撮影監督:ハリス・サヴィデス プロダクション・デザイン:アン・ロス
編集:サラ・フラック
衣装デザイン:ステイシー・バタット
音楽:フェニックス
出演:スティーヴン・ドーフ、エル・ファニング、クリス・ポンティアス

2010年/カラー/ビスタ/ドルビーSR・SRD/98分
www.somewhere-movie.jp
©2010 – Somewhere LLC
配給:東北新社 宣伝:ミラクルヴォイス

2011年4月2日(土)、新宿ピカデリーほか全国ロードショー