「帰り来ぬ青春」よ、もういちど! 『ジョージアの日記 ゆーうつでキラキラな毎日』

(2008.11.13)

 

ストーリーは……

イギリスのビーチリゾート、ブライトン。この町に住むジョージアは、学校の仲良し4人組「エース・ギャング」と大騒ぎの楽しい毎日を送る女の子。悩みは、ちょっと「残念」な自分の顔と、石器時代なみに頭の固い両親の小言。でも理想の恋と人生を手に入れるために、ひたすら前向きなジョージア・ニコルソン。オシャレやファッションはもちろんキスの練習(!)にも余念がないし、「ダイナマイト・バディ」とまではいかないけれど、走ればビミョーに揺れる胸もある。大人っぽくて最高にクールなクラブでの誕生日パーティーを開くことで頭がいっぱいのジョージア。そのために絶対に必要なのは、理想の恋人。そんなある日ついに王子さまが出現。しかも双子のイケメン。ジョージアは盟友ジョシュとともに王子ツインズのハートを射止めるための作戦を展開させ……。

 

 

 

このセリフがよいのです。

「でもまだキミが好きだ。イカレてても。」

by ロビー(男子高校生)

 
 
映画の冒頭「赤ピーマン入りオリーブ」に扮した主人公ジョージアが、街中をその格好で駆け抜けるシーンがある。
「エース・ギャング」を名乗る仲良し4人組は、パーティーにそれぞれ「オードブル」の仮装で登場する約束だったのに、蓋を開ければジョージア以外の3人は、無難なフェアリーと小悪魔のコスチューム。
オリーブというよりは、緑の奇抜な恐竜のタマゴみたいなジョージアの着ぐるみは、「気合い入れてつくった」と父親に宣言するだけあって、ものすごくかわいいのだが、どうやらこの素晴らしさは簡単には周囲に理解されない様子。いたたまれなくなったジョージアは、好奇の視線にさらされながら、ただひたすら走りつづける。

この感じ、なんだかわたしも知っている。

思い返せば中1の頃、ご多分にもれず、憧れの先輩に卒業式の花道で制服の第2ボタンをもらう、という恒例行事に参戦していたわたし。
4人の友人に付き添われ、緊張のあまり怪しい雰囲気全開の見知らぬ女子の迫力に怖気づいた先輩は、何を思ったか無言でその場を走り去った。

ギャラリーからの「追いかけろ~!」というアドバイスを真に受け、その場に荷物を投げ捨て、彼が走っていったと思われる方向をめざし、無我夢中で走りだす。体育のマラソンの授業が大嫌いで、いつもサボる理由を考えていたというのに、このときばかりは不思議と信号にすらひっかからず、「あたしは化け物なんかじゃな~い!」と叫びながら、駅までの道をただひたすら走りつづけた。
が、当時すでに180cmを優に超えていた先輩の長いストロークに追いつけるはずもなく、もはや何のために走ってるのかすらわからなくなって、途中で折り返して再び学校まで走って帰った。

人気のなくなった並木道の植え込みの片隅に、ポツンと取り残されていたわたしのカバン……。

傍からみたら悲惨極まりないコメディだけれど、自分の中ではなぜかすがすがしい記憶として残っている。「走る」ことで行き場のないエネルギーを発散し、うっかり爽快感すら味わって、ふと思い返してはまた涙ぐむ。きっと、そんなことを繰り返し、思い出は自分に都合のいいように上書きされるにちがいない。

毎日起こるすべてが一大事で、些細なことに一喜一憂していたあの頃。

ジョージアは理想の王子の気を引くために、愛猫「アンガス行方不明事件」を企てたり、ヒュー・グラントを師と仰ぐ学内1のプレイボーイによる「キス講座」を受けたりと大忙し。どっから聞いても普通の「See you!」を、「ちょっとタメて言ったから、向こうもきっとその気があるはず」と友人を促し、励ましあう。

ジョージアの愛猫アンガス。おしゃれキャット!

岡崎京子の名作『リバーズ・エッジ』(宝島社刊)の登場人物たちと同じく、醒めた頭と虚ろな目を持ち合わせた高校生になったわたしは、今度は深夜のレディオスターに夢中になって、一緒に追っ掛けしていた友人が抜け駆けし、彼と会ったという衝撃の事実に、ショックのあまり授業を飛び出して、屋上で泣いたりしてたっけ。

この映画を見ていると、「あの頃」の自分が怒涛のように押し寄せてくる。

当時ラジオから流れていた曲や、授業中に隠れて回した手紙の中味。そして深夜の長電話。
忌み嫌ってたダサい制服さえも、今となっては愛おしく感じられるほど。

バンドをやってる男子は3割増しに見えるとはいうけれど、ジョージアが恋い焦がれる王子のバンド「スティフ・ディランズ」には、なんとも言えない初々しさがあって、ジョージアならずとも思わずキュンとさせられる。どうやら王子のオーラは本物みたい。

結局ジョージアは「イカレたそんなキミが好き」と言わしめることに成功するが、これは彼女の努力の賜物。欠点を受け入れたうえで、自分の魅力を余すところなく発揮できたとき、誰かの心を動かす力がご褒美として授けられるのかも。その誰かが振り向かせたい相手だったとしたら最高。

残念ながらこの映画に10代の頃出会えなかったわたしは、三十路を過ぎても「エース・ギャング」ならぬ「金曜スリー眼鏡ズ」なるものを結成し、週末の深夜、恵比寿のオヤジ系呑み屋や、時には中目黒のお洒落カフェを舞台に、相変わらず泣き笑いを繰り広げ、懲りずに5箇条を唱える日々からまだ抜けられずにいたりもするのだが……。

ジョージアたちが30代を迎える頃、今度はいったいどんな悩みに直面しているのか、また会ってみたい気がしてならない。

 

『ジョージアの日記 ゆーうつでキラキラな毎日』は、恵比寿ガーデンシネマほかにて11月15日(土)よりロードショー!
配給/パラマウント・ピクチャーズ ジャパン 
上映時間/100分

『ジョージアの日記 ゆーうつでキラキラな毎日』

監督・共同脚本・製作/グリンダ・チャーダ
ジョージア/ジョージア・グルーム
ロビー/アーロン・ジョンソン
ジャス/エレノア・トムリンソン
エレン/マンジーヴェン・グレウォル
ロージー/ジョージア・ヘンショウ