齢を重ねても、心は老化しない。
『みんなで一緒に暮らしたら』

(2012.10.26)

ジェーン・フォンダが久々のフランス映画出演。

いよいよ2012年11月3日(祝)より全国順次公開となる映画『みんなで一緒に暮らしたら』。1970年生まれのフランスのステファン・ロブラン監督による本作は、アカデミー賞を2度獲得した名女優、ジェーン・フォンダを始め、喜劇王チャップリンの娘、ジェラルディン・チャップリンや、『グッバイ・レーニン!』で一躍脚光を浴びたドイツの若き俊英、ダニエル・ブリュールら、ベテラン勢と若手実力派俳優を取り揃え、第64回ロカルノ国際映画祭でも非常に話題を集めました。

人生の終盤にさしかかったある5人の男女が、緑豊かなパリ郊外のひとつ屋根の下、「みんなで一緒に暮らして」みたら、いったいどんな毎日が訪れる?という、どこか実験的で、まさに現代社会に即した問題をテーマに、自身の内側からにじみ出るような、名優たちの説得力あふれる自然な演技と、5年の歳月をかけて練り上げられた脚本、そして巧みな演出によって、誰もが抱える孤独や不安を、ユーモアで彩りながら、見事に描きだすことに成功しています。


友人を助けるため共同生活をスタート。

物語の中心となるのは、青春時代をともにすごし、互いの誕生日にはそろってワインを飲むのが長年の習慣となっている、気心の知れた5人組。日記と愛犬オスカルの散歩が日課の夫アルベール(ピエール・リシャール)と、元哲学教師の妻ジャンヌ(ジェーン・フォンダ)、血気盛んな活動家のジャン(ギイ・ブドス)と、孫を呼ぶ口実に庭にプールを作りたいと目論む心理学者のアニー(ジェラルディン・チャップリン)夫妻、そして、妻に先立たれ、一人息子に心配されながら、いまだに若い女性とデートをつづける色男クロード(クロード・リッシュ)。

40年来の友人である彼らも、年齢を重ね、身体がいうことをきかなくなり、悩み多き今日この頃。自らの病が進行していることを知ったジャンヌは、人知れず人生の最期を自分らしく締めくくる方法を模索しながら、認知症を患いつつある夫アルベールのことで常に頭を悩ませています。ある日、デート中に発作で倒れ、老人ホームに入れられてしまったクロードの窮地を救うため、アニーとジャンの家で、5人で共同生活をするという案が一気に具体化し始めます。当初「共同生活はごめんよ。ヒッピーじゃあるまいし」と反対していたアニーも、老人ホームの現実を目の当たりにし、「大切な友をこんな所で死なせられん」という夫の発言に促され、プールの建設を交換条件に、受け入れを決意するのです。

草木に囲まれた広い邸宅に次々運びこまれるそれぞれの荷物。棚には思い思いの写真立て。

共同生活を円滑に続けていくために「細かいルールは何も決めない」という「自由主義」の方針で行くことで全員一致したものの、長年の自分の生活のリズムが乱されることから受けるストレスや、病気が引き起こす予想外のアクシデント、さらには今までずっと隠し通してきた互いの秘密など、本音と建前が、心優しきお世話係の学生ディルク(ダニエル・ブリュール)を介して徐々にさらけ出されていきます。

また、世代間に残る政治的背景や、これまでタブーとされてきた熟年層の性の問題にもサラリと切り込み、決してきれいごとだけに終始してはいません。


温かく切ない笑いを誘う極上のコメディ。
個人主義といわれるフランスで、「老後を一緒に暮らす」という意外とも言えるアイデアが、名優たちの手腕でリアリティをもって描かれることで、フィクションでありながらも、理にかなったモデルケースの一つとして受け入れられつつあるのは、とても興味深いところ。近年「エンディングノート」や「終い支度」という言葉をしばしば耳にするようになり、人生の幕引きを自分自身で演出する人が増えつつある中で、ここ日本でも住宅事情と相続の問題さえ許せば、ありえなくもないかもしれない……と考えさせられるあたり、暮らし方の多様性を提案してくれる有意義な作品ともいえます。

なかでも、犬の散歩係として雇った学生ディルクに、新たな民俗学の研究テーマとして「欧州の老人」問題を勧め、一緒に暮らすことを促すなど、お互いのメリットを生かせる理想的な関係を築くためのヒントも沢山つまっています。

少年少女のような無邪気さと人生の経験値を兼ね備えた、この愛すべき「不良老人たち」の行く末を、ハラハラしながらクスクス笑って見守るうち、いつしか温かい涙が頬を伝う—。それはきっと、誰しもが彼らの姿に未来の自分を重ねてしまうから。エンディングを飾る「切ない嘘」は、真実以上の輝きを放ち、見る者の胸に迫ります。

次々と明かされる、どこまでも段取り上手なジャンヌの心憎い演出の数々を、ぜひ劇場で見届けてみてください。


『みんなで一緒に暮らしたら』

監督:ステファン・ロブラン 
出演:ジェーン・フォンダ『帰郷』、ジェラルディン・チャップリン『トーク・トゥー・ハー』、ダニエル・ブリュール『グッバイ・レーニン!』、ピエール・リシャール『幸せはシャンソニア劇場から』、クロード・リッシュ『ブッシュ・ド・ノエル』、ギイ・ブドス『ミーシャ/ホロコーストと白い狼』
2011年/フランス・ドイツ/仏語/96分/ヴィスタ/ドルビーデジタル/字幕:古田由紀子/配給:セテラ・インターナショナル、スターサンズ


11月3日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー