ペドロ・アルモドバル監督最新作、ペネロペ・クルスが美しすぎる『抱擁のかけら』公開。

(2010.02.06)

ストーリー

2008年、マドリード。脚本家のハリー・ケイン(ルイス・オマール)は、ある事件をきっかけに、名前を変えて違う人生を生きている。14年前、彼は本名のマテオ・ブランコを名乗り、映画監督として活躍していた。その事件で視力を失った彼は、もっと大切なものを同時に失くしたことを、心の奥深くに封印した。

すべての事情を知るエージェントのジュディット・ガルシア(ブランカ・ポルティージョ)と、彼女の息子のディエゴ(タマル・ノバス)の助けを借りて、ハリーは仕事も私生活も何不自由ない日々を送っていた。

ある日、ライ・X(ルーベン・オカンディアノ)と名乗る男が現れ、自分の監督作の脚本をハリーに依頼する。彼が望むのは、「父の記憶に復讐する息子の物語」。自分向きではないと断るハリーは、その男が誰かを思い出していた。記憶から抹殺した男、エルネスト・マルテル(ホセ・ルイス・ゴメス)の息子だ。どうやら、決別した過去が、ハリーを捕らえようとしていた。

隠されたハリーの過去に興味を抱くディエゴに求められるまま、ハリーはマテオ時代の物語を語り始める。それは、甘美な恋と激しい嫉妬、恐ろしい裏切りに満ちた男女の愛の物語だった……。

 

 

 ひとすじ縄ではいかない三角関係。

『オール・アバウト・マイマザー』でアカデミー外国語映画賞受賞。デビューから30年を迎えたスペインのペドロ・アルモドバル監督の新作。『ハイヒール』で母&娘&母の愛人、『オール・アバウト・マイ・マザー』で尼僧&シーメール(豊胸しつつ外性器を残す元男性)&その息子を亡くした母、『バッド・エデュケーション』で少年&同級生&神父とひとすじ縄ではいかない三角関係を描いてきたアルモドバル監督が、男&女&男の一見古典的な三角関係の悲劇を描く。

関係の中心である貧しく美しい女、レナを演じるのはアルモドバル監督のミューズ、ペネロペ・クルス。監督お墨付きの『世界最高峰のバストライン』を披露している。

アルモドバル映画の特徴である変態的な人物造形も健在で、本作の代表的な変態キャラは、いくら愛されててもこれはイヤでしょ~という執拗さでレナを追う南米出身の富豪エルネスト。フレッド・アステアからエレガンスを半分ほど抜いて傲慢さを注入したようなホセ・ルイス・ゴメスが演じている。息子であるエルネストJr.にレナの監視を命じるエルネストの嫌らしさ加減が度を超していて腹立たしいのであるが、なぜか呆れて笑ってしまう。

エルネストの恋敵で、レナを自作の主演女優に抜擢、彼女と愛し合うようになる監督・マテオをジットリした色気のあるルイス・オマールが演じる。

ユーモア、ファッショナブルな衣裳、キッチュなインテリア(レナとエルネストの大食卓のバック、静物画に注目)、心に響く音楽で世界中に根強いファンを持つアルモドバル映画。キレイ、可愛いのだけどちょっとおバカさんな「女」や強い「母」を主人公の多くに据え悲劇のフルコースを描いてきた。しかし本作では三角関係を通して「父」の存在、息子にとっての「父」の姿が浮き彫りにされている。対照的な父像である点が興味深い。

 
「美しすぎる」女性、レナ演じるペネロペ・クルス。

眉上3センチで前髪を揃えても。ポニーテールにした首筋後れ毛がちょっと下に落ちていても。笑っていても、怒っていても、叫んでいても。地味なスーツを着て電話口で泣いていても。ブラックドレス+夜会巻にアップしたヘアに、何連にもなったゴールドのネックレスでちょっとモりすぎでも。もっさり気味のニットセーターを着ていても。

ブロンドのウィッグにちょっと不気味な目玉モチーフの耳飾りをしていても。ゲロしていても。タバコを吸っていても。ブラジャーとパンティだけでも。乱れた髪で鼻血が出てても。階段からころげ落ちても。ギプスをしていても。キッチンでトマトを切っていても。ソファでぐったりしていても。

イイ女はいつでもイイ女。それが本作の中でふたりの男を虜にする「美しすぎる」女性、レナです。この役に、アルモドバル監督は好きな映画のヒロインのエッセンスを凝縮させたといいます。だから↑みたいないろんなペネロペちゃんを見ることができるのです。

『抱擁のかけら』はレナを演じるペネロペ・クルスの「レビュー・ショー」でもあるのです。気品と野性を兼ね備える情熱的な黒い瞳と眉、少女っぽさを残した口元、表情。扇情的なボディラインで数え切れないほどの衣裳を小粋に着こなすイイ女。
イイ女は、みんなで見て楽しむべきである、
と、観察しました。

 

 

ペドロ・アルモドバル(PEDRO ALMODÓVAR)

1949年、ラ・マンチャ州に生まれた。8歳の時に家族と共に、スペイン南西部に移住する。そこで、サレジオ会の小学校とフランシスコ会の高等学校を卒業。17歳で家を出て、映画を学び、映画を監督するという非常にはっきりした目的を持って、マドリードに移る。だが、フランコ政権の閉鎖により、公的な映画学校に入学するのは不可能となる。数多くの単発の仕事をこなした後、71年にスペインの電電公社に就職し、初めてスーパー8mmカメラを購入することができる。そこで管理スタッフとして12年間働きながら、映画製作者として、また人間としての実地訓練を積んだ。また、様々な反体制派の雑誌と協力し、記事を書いたが、その中には出版されたものもある。さらにパロディ・パンクロック・グループ“アルモドバル&マクナマラ”のメンバーでもあった。

80年にカルメン・マウラ以外は全員初心者のスタッフとキャストという予算ゼロの映画『Pepi, Luci, Bom』を監督する。86年、製作会社エル・デセオSAを弟のアグスティンと共に設立。二人が手がけた初めての作品が『欲望の法則』(87)である。以来、二人は、ペドロが書いて監督するすべての映画と、若手監督たちの作品を製作している。
88年、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』で世界的な注目を浴びる。以来、彼の作品は世界中の国々で公開されている。『オール・アバウト・マイ・マザー』(98)で、米アカデミー賞外国語映画賞を獲得。さらにゴールデン・グローブ賞、セザール賞、ヨーロッパ映画賞の3つの賞、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞、英アカデミー賞の2つの賞、ゴヤ賞の7つの賞、さらにその他45の賞を獲得する。3年後、『トーク・トゥ・ハー』(02)はそれ以上の栄誉に授かり、米アカデミー賞最優秀脚本賞、ヨーロッパ映画賞の5つの賞、英アカデミー賞の2つの賞、ナストロ・ダルジェント賞、セザール賞、さらにスペインだけでなく、世界中で多くの賞を獲得した。

2004年、『バッド・エデュケーション』がカンヌ国際映画祭のオープニング作品に選出される。インディペンデント・スピリット賞、英アカデミー賞、セザール賞、ヨーロッパ映画賞など数多くの賞にノミネートされ、権威あるニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞、ナストロ・ダルジェント賞を獲得する。

06年、アストゥリアス皇太子賞の芸術部門賞を授与される。同年、『ボルベール<帰郷>』をカンヌ国際映画祭コンペティションに出品し、最優秀脚本賞とペネロペ・クルスを筆頭に出演した6名の女優全員が最優秀女優賞に輝いた。この作品は、ヨーロッパ映画賞の5つの賞、ゴヤ賞の5つの賞、国際映画批評家協会賞、全米映画批評会議賞、その他72の各賞を獲得。

ペドロ・アルモドバル フィルモグラフィー

1974-1979 16ミリで撮影した映画(『Salomé』)を含む、スーパー8ミリで撮影された、長さの異なる様々な映画作品
1980 Pepi, Luci, Bom
1982 セクシリア
1983 バチ当たり修道院の最期
1984   グロリアの憂鬱/セックスとドラッグと殺人
1985 Trayler para amantes de lo prohibido(TVEのビデオ用短編映画)
1986 マタドール〈闘牛士〉・炎のレクイエム
1987 欲望の法則
1988 神経衰弱ぎりぎりの女たち
1989 アタメ
1991 ハイヒール
1993 キカ
1995 私の秘密の花
1997 ライブ・フレッシュ
1998 オール・アバウト・マイ・マザー
2002 トーク・トゥ・ハー
2004 バッド・エデュケーション
2006 ボルベール<帰郷>
2009 抱擁のかけら

 

 

 

『抱擁のかけら』
キャスト:ペネロペ・クルス、ルイス・オマール。ブランカ・ポルティージョ、ホセ・ルイス・ゴメス、ルーベン・オチャンディアーノ、タマル・ノバス
監督・脚本: ペドロ・アルモドバル
製作: アグスティン・アルモドバル / エステル・ガルシア
音楽: アルベルト・イグレシアス
編集: ホセ・サルセド
2010年2月6日新宿ピカデリー、TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー
http://www.houyou-movie.com/