スキャンダラスな禁断の愛『私の男』 権威を否定して新しいものを作る 藤竜也さんインタビュー。

(2014.06.21)

watashinootoko-fuji-tatsuya-topphotos / 谷 康弘

現在公開中の映画『私の男』。熊切和嘉監督に続く、インタビュー第2弾は、物語上、重要な鍵を握る大塩役を演じた俳優の藤竜也さんです。出演を決めた理由や、若い世代の監督や共演者への思い、さらにはデビューのきっかけから、幼少時の思い出に至るまで、じっくりとお話を伺いました。

『私の男』
出演の決め手はスキャンダラスなストーリー。

ー本作への出演の決め手について教えてください。台本を読んでどのようなところに惹かれたのでしょうか?

藤:話がスキャンダラスなところがよかったね。お行儀のいい映画もいいけどね、そればっかりじゃ、消化不良を起こすから。まぁ、ホントは悪い男の方をやりたかったんだけど(笑)。

ー熊切組に参加されてみて、いかがでした?

藤:僕は俳優の仕事を始めて53年くらいになるけど、監督も俳優も、すごく進化していると思うよ。

ー進化、ですか?

藤:うん。素晴らしい人たちが沢山いる。僕が一番ハッピーなのは、熊切さんにしろ、浅野さんにしろ、二階堂さんにしろ、新しい才能に出会えるってこと。僕自身まだまだ伸びしろがあると思っているから(笑)、すごく勉強になるしね。

ーなるほど。

藤:例えば、五社協定があった時分だったら(*松竹、東宝、大映、新東宝、東映の映画会社の五社が専属の監督、俳優で映画製作をしていた時代)、映画会社に何十人か監督がいて、会社の予算で映画を撮っているわけじゃない? もちろんその中でも力関係とか戦いはいろいろあったとは思うけど。でもね、今の監督はさ、スクラッチからいろんなことを乗り越えながら1本の映画を作るわけだよ。そりゃね、敬服しますよ。

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舞台は北海道。地震で家族を失った少女・花(二階堂ふみ)を引き取って育てることにした淳悟(浅野忠信)。

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町の名士・大塩(藤竜也)は幼くして被災孤児となった花を常に気遣い、ふたりの生活を見守っていた。

ー極寒の流氷の上での撮影は、相当ハードだったのでは?

藤:海に落っこちて衣装が濡れちゃうと、えらい騒ぎになるから、セリフを話すどころじゃなくてね(笑)。僕は老人役をやってるとね、体内にあるコンドロイチンとかがね、流れ出ちゃって、ホントにギクシャクしてきちゃうのよ(笑)。花を演じた二階堂さんは、ずいぶん心配してくれたようだけどね。

ー淳悟役の浅野忠信さんとは『アカルイミライ』以来の共演になりますね。

藤:浅野さんとは『ACRI』でも一緒だったから今回で3本目だけど、昔から印象は変わらないね。浅野さんはそんなに沢山喋らない人。でも、黙っていても饒舌。いろんなことを喋ってる。それに磨きがかかってきてる感じがするね。

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流氷がやってきて雪に包まれた町。大塩は花と淳悟のただならぬ関係に気づいてしまう。
 
 
早世した父の肩車で観た『ターザン』、
厳格な祖父と反逆精神。

ー藤さんも『私の男』の花のように、幼い頃にお父様を亡くされたそうですね。

藤:満席立ち見の映画館で、肩車の上からワイズミュラーの『類猿人ターザン』を観たのが亡き父親との思い出だね。

ーお父様の不在は、役者である藤さんにとって、どのような影響を及ぼしていると思われますか。

藤:父親の居ない母子家庭で育ったことは、人間形成にすごく影響していると思うよ。でも、役者という仕事をする上では、決してマイナスではなかったんじゃないかな。やっぱり、全部揃っていた方が何かとスムーズだけどね、そうじゃないことによって生まれる感情や物の考え方が、この商売にすごくいい作用をしていると僕は思うな。

ーお祖父様がとても厳格な方だったそうですね。その反動が、ご自身の性格を形作ったという部分もありますか?

藤:そりゃ、あるだろうね。祖父は禅宗の質実剛健のサムライの息子でしたから、相当しつけが厳しかったですよ。きっと父親が生きていてもそうだったと思うし。やっぱり古い権威に反撥しながら若者は育っていくから。

ー確かに、藤さんは『愛のコリーダ』や『愛の亡霊』、『野良猫ロック』シリーズなど、数々の名作に出演され、反逆の精神をお持ちの方だとお見受けします。

藤:権威がキライだね。俳優っていうのは、いささかでもモノを表現する商売だから、とにかくまずは否定するっていうのが大事な要因だと思っている。だから、こういう『私の男』みたいな脚本に惹かれるんだよ。

 

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役作りは撮影に入る数日前に現場入り。近くの居酒屋で酒を呑んでいる地元の人と仲良くなる。そこでその土地の喋り方や暮らしの中で何が楽しみかなどがわかるという藤さん。

 
いろんな人と会って面白がる。

ー藤さんは、日大藝術学部の演劇学科時代、デートの待ち合わせ中にスカウトされて俳優になられたのですよね?

藤:そう、当時の彼女が宝塚歌劇団のファンでね。寿美花代さんの引退公演『華麗なる千拍子』を観に行くというから付き合って。だからこの前、高嶋家の長男の政宏さんと現場で一緒になったときに、「僕はあなたのお母さんがいなかったら俳優になっていなかったんだよ」って伝えたの(笑)。

ーやはり小さい頃から映画俳優に憧れて?

藤:いや、小さい頃は単純ですよ。横浜だから船乗りです。マドロスだね。

ースカウトされ日活からデビューされますが、当時は先輩でもある石原裕次郎さんの作品などもご覧になっていましたか?

藤:もちろん見たよ。でもね、僕は意外と松竹の映画も見ていたんだよ。

ー松竹というと小津安二郎監督の作品などでしょうか?

藤:そう。松竹の映画を見た後は「あぁ、清く正しく生きよう」なんて思ったりしちゃってさ(笑)、日活の映画見ると「やっぱりワルくなろう」と思ったり(笑)。

ー当時好きだった海外の俳優は?

藤:マーロン•ブランド。あとはジェームズ•ディーンかな。

ー藤さんは口髭がトレード・マークですが、口髭を生やされたきっかけは?

藤:自分の顔がつまんね~なと思ったからさ、なんかくっつけようかなって。僕はね、鏡が大っ嫌いなの。絶対に鏡は見ない。メークもしないしね。

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■ 藤竜也プロフィール 
(ふじ・たつや)俳優。1941年8月27日 北京生まれ。日活入社後1962年 古川卓巳監督『望郷の海』でデビュー。『嵐を呼ぶ男』(66/舛田利雄監督)、『野良猫ロック』シリーズ(70・71/藤田敏八監督、長谷部安春監督)など数多くの作品に出演する。76年、主演した大島渚監督『愛のコリーダ』はカンヌ国際映画祭監督週間で上映され一大センセーションを巻き起こした。続いて主演した『愛の亡霊』(78)はカンヌ国際映画祭監督賞を受賞。02年、黒沢清監督作品『アカルイミライ』で第18回高崎映画祭最優秀助演男優賞を、同作と『許されざる者』(03/三池崇史監督)で第13回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞など受賞多数。
 
 

ー俳優として藤さんが常に心がけていることはありますか?

藤:え~っと。なるべく仕事しないこと(笑)。映画以外の人間と付き合って、笑ったり、酒呑んだり、面白がったり、いろんなことに興味を持つことだね。僕はね、新聞読むのが好きなんだよ。世界のニュースに凝るとね、だんだん推理小説みたいに情勢が読めるようになってくるの。

ー推理小説みたいに、ですか?

藤:そう。近々こうなるだろうなって推測していると、時々当たることがあるんだよ。そうなるともうね、ベッドに入って考え始めたら興奮して眠れなくなっちゃって、気付いたら5時間くらい経っている(笑)。これも遊びの一つ。そうやって、仕事を忘れて遊び狂うことだね。

ー藤さんと言えば、語学や陶芸など、さまざまな趣味をお持ちですが、最近打ち込んでいることはありますか?

藤:庭に芝生を植えたからね、今は草むしりが気になってる。仕事が早く終わったらね、草むしりがしたいんだよ!

ー(笑)。藤さんといえば成熟した男性の色気がすぐ思い浮かびますが、趣味はほっこり系なのですね、そのギャップも藤さんの魅力の秘密ですね。てっきり、もっとワルい方なのかと思っていました(笑)。

藤:そうかい?それはご期待に添えなくて悪かったね(笑)。それじゃあこれから襲おうか(笑)

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インタビュー中のスチール撮影の可否について尋ねると「こんな私でよかったら、どこからでもお好きにどうぞ!」と快諾してくださった藤竜也さん。それもそのはず、どこをどう切り取っても絵になる藤さんの、身のこなしや表情、そして何よりそのお人柄に、ライターのみならず、カメラマンも編集者もすっかりメロメロになってしまいました。人を惹きつける「色気」の秘密は、自然体で生きる藤さんそのものが放つ「生命力」にこそ宿っている、と推察しました。

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『私の男』
2014年6月14日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

出演:浅野忠信、二階堂ふみ、モロ師岡、河井青葉、山田望叶、高良健吾、藤 竜也
監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
音楽:ジム・オルーク
撮影:近藤龍人

2013年 / 日本 / 129分 / 5.1ch / シネマスコープ / カラー / デジタル / R15+
©2014「私の男」製作委員会