『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』 大人の恋愛に欠かせない、3つのポイントとは?
(2016.08.31)フランス映画といえば、延々と続く男女のおしゃべり!
フランス映画と聞いて私がまず思い浮かべるのは、カフェの軒先で男女が顔を突き合わせて、次々と話題を替えながら飽きずに延々おしゃべりしている場面です。とはいえ、フランス人なら誰もがユーモア、エスプリに富んだ会話を繰り広げられるかというと、必ずしもそうとは限らないようで、やはり会話のセンスや相性というのは極めて重要なんだ!と、9月3日(土)からBunkamuraル・シネマで公開される映画『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』を見ながら、改めて思い知らされました。
“枯れない恋愛マスター”が仕掛ける3つのポイント。
監督を務めているのは、今年79歳となるフランス映画界の大御所、クロード・ルルーシュ監督です。ルルーシュ監督といえば、『男と女』や『愛と哀しみのボレロ』など、数々の作品でタッグを組んできた映画作曲家のフランシス・レイとともに、映画史に残る名曲や名場面を生み出してきたことでも知られていますが、「私にとって愛とは、あらがうことのできない麻薬のようなものだ」と明言する、“枯れない恋愛マスター”だけあり、まさに大人の男と女の恋愛映画の王道ともいうべきポイントが、この最新作にはいくつも盛り込まれているんです。
ポイント1:旅先ならではの解放感と非日常感!
その1つ目が、「異国の地や旅先で男女が出会い、意気投合する」というもの。しかも、舞台はエキゾチック感満載のインドです!
75歳のときに、まわりに勧められて初めてインドを訪れたというルルーシュ監督は、インドの魅力にすっかりはまってしまい、「いつか監督と一緒に映画が作りたい」と申し出た『アーティスト』のジャン・デュジャルダンと、『ミナ』のエルザ・ジルベルスタインを主演に、映画音楽作曲家アントワーヌが、フランス大使夫人のアンナとインドで恋に落ちるラブストーリーを着想。まるで運命に導かれるかのように、ニューデリー、ムンバイ、そしてインド南部のケーララ州へと移動しながら、旅情をそそる情景をカメラに収めていきました。異国の地や旅先では、解放感が増すことに加え、シチュエーションのマジックもあって、普段より恋に落ちやすい傾向にありますよね。しかも、相手が今まで出会ったことがないタイプの異性だとしたら……?
ポイント2:惹かれてはならない相手との禁断の愛!
というわけで2つ目に挙げるのが、「惹かれてはならない相手との運命の出会い」です。古今東西、数々の文学作品のテーマとなってきた「禁断の愛」ですが、すでに互いに幸せを手に入れているはずの良識ある大人の男女が、哲学的な会話を通して、まるで少年と少女のように惹かれあっていく様が、手に取るように描かれています。ここが冒頭の「気づき」へと繋がるのですが、共通の話題や経験のあるなしに関わらず、他愛もないことで会話が盛り上がる相手は、人生でそうそうで出会えるものではなく、たとえパートナーがいようがいまいが、「この人こそ運命の相手だったのかも……」と、ふと頭をよぎる瞬間が、きっと人生には何度かあるのだと思わずにいられません。
ポイント3:神秘的な体験を二人で共有!
さらに3つ目に挙げるのが、「神秘的な体験を共有する」というポイントです。そもそも恋に落ちるときには明確な理由や根拠など無いから、言葉にできない感動や、目に見えないパワーのようなものを共有できたときには、二人の距離はグッと縮まりますよね。この映画に欠かせない神秘体験が、聖者アンマに会いに行き、抱擁されるというシーンなんです。アンナは「子どもを授かりたい」との思いから、ガンジス川での沐浴も体験しながら、2日間かけて列車やバスを乗り継いで巡礼の旅を行い、無事に念願だったアンマのもとまでたどり着き、歓喜の涙を流します。半信半疑ながらアンナに同行したアントワーヌも、多くの人たちを分け隔てなく抱擁し、大きな愛で包み込むアンマの姿を目の当たりにし、自らも抱擁を体験することで、新たな境地に立つのです。
旅先のアンヌとアントワーヌ、ふたりの会話はいつしか大人が道ならぬ恋に必要な“言い訳”が満載になってしまいます。
アントワーヌ「僕たちまずいな」
アンヌ「何が?」
アントワーヌ「何もかも。あなたは夫を忘れかけている。僕は恋人が来たというのに……あなたは何度合図を送ったか……ガンジスでの濡れた姿は……」
相手のせいにしながらも、結局は褒めることになってしまう面白さ。とまどうふたりの言い草には、恋愛マスターがこの道50年、磨き続けたワザが盛り込まれています。恋愛映画の王道、3つのポイントとともにじっくり味わってみてください。
●●●●映画の世界を追体験! 聖者アンマの抱擁とは?●●●●
『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』
2016年9月3日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公
出演:ジャン・デュジャルダン、エルザ・ジルベルスタイン、クリストファー・ランバート、アリス・ポル
監督・原案・脚本:クロード・ルルーシュ
脚本協力:ヴァレリー・ペラン
音楽:フランシス・レイ
2015年/フランス/シネスコ/5.1ch デジタル/114分/
原題:UN+UNE
字幕翻訳:松浦美奈
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
© 2015 Les Films 13 – Davis Films – JD Prod – France 2 Cinéma
配給:ファントム・フィルム