映画『オールディックフォギー / 歯車にまどわされて』ロックバンドを続けるとは? ドキュメンタリー映画から見えること

(2016.08.11)
『オールディックフォギー』ボーカル兼マンドリン担当の伊藤雄和さん。
『オールディックフォギー』ボーカル兼マンドリン担当の伊藤雄和さん。
なぜ『オールディックフォギー』のドキュメンタリー映画なのか?

今、公開中の映画『AMY エイミー』を宣伝している最中に、ある映画配給担当者から『OLEDICKFOGGY(オールディックフォギー)』というバンドのドキュメンタリー映画を川口監督が撮ったので宣伝をお願いしたいという連絡が来た。そのバンド名は初耳だったし、正直どういう曲をやっているバンドかも知らず、川口潤監督(『77BOADRUM』)が撮ったならと思って、まずは映画を見せてもらった。

映画を見て、すぐにこの映画の宣伝を引き受けることにした。なぜなら、彼らの曲が耳から離れず、そしてこの映画の中で描かれているテーマが、私自身が興味を持っていたことだったからだ。世界の数々の映画を見る中で、私にとっての面白い映画の定義とは「リアリティのある映画」だ。これはドキュメンタリーでもフィクションでも同じ。そのリアリティの中に存在する問題を探すことが映画としての面白味だと私は思う。

この映画を見ると、“なぜ、30代後半でバンドを続けるのか?”といったような疑問がたくさん頭に浮かんだ。世の中には売れるバンド、売れないバンド、売れずにいなくなるバンドなど、バンドをやっている人達は沢山いて、彼らは何を目指しているのか? どうして続けられるのか? 

映画の中で使われていた『いなくなったのは俺の方だったんだ』という曲を紐解くと答えが見えてきそうな気がして宣伝活動を始めた。

演奏中の『OLEDICKFOGGY』を後ろから撮影。
演奏中の『OLEDICKFOGGY』を後ろから撮影。
“30代後半でバンドを続けるとは?”
『オールディックフォギー』と伊藤雄和。

『OLEDICKFOGGY』は、”ラスティックミュージック”と言われるジャンルの音楽を奏でるバンド。ラスティックとは「古くさい旋律を今風に演奏する音楽。今風というのは、パンク、ロックという要素を入れたところ。ラスティックの代表格のバンドと言えば『東京スカンクス』です。バンドによっては各国の民謡を入れた楽曲もありますよ。」と伊藤さんは説明した。

伊藤雄和さんは『OLEDICKFOGGY』のボーカル兼マンドリン担当、1979年静岡県沼津出身。父親は沼津で居酒屋経営、母親はタイ人。『MAGIC』、『東京スカンクス』を聴き、バンド活動をはじめ、中学2年からはスケボーにはまる青春時代を過ごし、パンクバンドの衣装をカスタマイズする延長で、全身黒のボロボロのパンクの衣装を直すことが出来るようになりたくて、文化服装学院に進学、上京。在学中は、一切バンド活動はせず、縫製、カラーコーディネート、刺繍など真面目に勉強し、時間を見つけては人のバンドを見に行く程度。その時期に特にロック・カルチャーに興味を持つようになり、ファッションが多くのロック・カルチャーから影響を受けているということを実感した。そんな中、自分はファッションに影響を与える側になりたいと思い、再び卒業と共にバンド活動を始めることになる。ここまでで、20代前半。ここからもう15年近くバンドを続けていることになる。でも今は、就職、結婚、子供を持ったりすることで、バンドマンたちが周りからどんどんいなくなっていっている現状がある。実は『いなくなったのは俺の方だったんだ』という楽曲は、そのことを歌ったものだそうだ。まわりがいなくなったのではなく、会社に通い、家族を持つ普通の生活から「いなくなったのは俺の方だったんだ」と。

パンクに目覚め、スケボー少年だった伊藤さん。パンクの衣装を直すことができるようになりたいと服飾の専門学校へ行きファッションを真面目に勉強したことが『OLEDICKFOGGY』の創生につながった。
パンクに目覚め、スケボー少年だった伊藤さん。パンクの衣装を直すことができるようになりたいと服飾の専門学校へ行きファッションを真面目に勉強したことが『OLEDICKFOGGY』の創生につながった。

ステージで着物を着て歌うのは、好きなバンド、『日本脳炎』のヴォーカルから、ライブで着ていた着物をもらってからだという。着物を着ると「よし、がんばろう」という気持ちが切り替わると、「そんな迷信みたいなもの、本当は嫌いだけど。」とはにかみながら語った。腕に入っているタトゥーは、外国人パンクバンドへの憧れから。いたって普通のバンドマンだ『OLEDICKFOGGY』としてステージに立つ伊藤雄和、労働作業をする伊藤雄和、家庭での伊藤雄和、30代後半を迎える今、この3つの顔を持ち続け、バランスを保てることが自分らしさだと語る。

伊藤さんが自分で曲を作れるようになったのはバンドを始めてから。以前のバンドでは自分でやりたいことを表現出来ない事でストレスを感じていたとのこと。楽器を弾けるようになるために、以前のバンドをやめて京都に修行に行き、そこで『ゴシップオブフォレスト』という曲が生まれた。「東京に戻ってバンドでこの曲を演奏したら、あ、売れる!と思いました。(笑)」それから自分がやりたいスタンスもわかり、テクニックも上がって、今は楽しんでバンドをやっていると。

川口潤監督(左)と伊藤雄和さん。川口は『OLEDICKFOGGY』としてステージに立つ伊藤雄和、労働作業をする伊藤雄和、家庭での伊藤雄和をとらえる。就職、結婚、子供を持ったりすることで、バンドマンたちが周りからどんどんいなくなっていっている中で、バランスを保てることが自分らしさだと伊藤さんは語る。
川口潤監督(左)と伊藤雄和さん。川口は『OLEDICKFOGGY』としてステージに立つ伊藤雄和、労働作業をする伊藤雄和、家庭での伊藤雄和をとらえる。就職、結婚、子供を持ったりすることで、バンドマンたちが周りからどんどんいなくなっていっている中で、バランスを保てることが自分らしさだと伊藤さんは語る。
 

ここまで話を聞いただけでも、伊藤さんは素直、真面目、普通の人だなぁ、と思う。しかしそんな風に、素直に実直に活動をしていても、インディーズのバンドの宿命で、小さなライブハウスでのライブでお客さんがいっぱいにならないこともあるのだとか。ただ、大きなライブハウスではない分、お客さんの入りの具合や様子も自分の目で感じ、お客さんが増えてきていることを実感できる。そんな時が、幸せなのだという。非常に良い意味で、人間臭い人で好感を持たずにいられない。

ちなみに伊藤さんの好きな映画3本は『アメリカン・グラフィティ』、『ブラッド・イン ブラッド・アウト』、『プロジェクトA』他ジャッキー出演映画全般など。好きな居酒屋ベスト3は、三軒茶屋『入ちゃん』、新宿『萬太郎』、渋谷『細雪』。自分以外に生まれ変わるなら、AV女優のルミカさん。入れ替わって色々見てみたいそうです。

インディー・バンドマンの宿命。
その時を待つ、ということ。

『ボアダムス』のドキュメンタリー映画『77BOARDUM』や、数々のミュージシャンのドキュメンタリーを撮ってきた川口潤監督の作品の中でも、この『オールディックフォギー / 歯車にまどわされて』は別格の作品だと思う。「どうしようもないバンドだよ。」と笑いながらで言っていた監督だが、この映画の中では、バンドの挫折や苦労、そして何気ない日常を撮ることで私たち観客に問題提起をしていたのかもしれない。

お酒を呑むことが大好きな伊藤さんが、映画の中で少し酔っぱらって放った言葉が印象的だった。この映画の核にも感じた。インディーバンドの人達が大きなロックフェスティバルからのオファーを待って、スケジュールを空けておくということがあるという。「待つのはいやだ。」と、本音が伊藤さんの口から出たとき、バンドを続けるのは大変なことだということにも気が付いた。
 
しかし、なぜ伊藤さんがバンドを続けているのか? 本人に直接聞いてみたら意外な答えが返ってきた。

「バンドはおもしろいし、今は辞める理由はない。新しいこともやっていきたいし、今、ディスクユニオンとマネージメント契約して活動しているので、バンドにとっても、もっと目で見えるプラスの結果を出したいという目標もあります。」と伊藤さんは言った。

“楽しい”、“辞める理由がない”、これに尽きるのだ。世界中では色々なバンドが活動しているが、みんなそんな理由で“続けている”、そういうことだと思ったら、妙に腑に落ちた。そして『OLEDICKFOGGY』の曲の歌詞やメロディーがまた聞きたくなった。

『OLEDICKFOGGY』メンバーは伊藤雄和(ボーカル、マンドリン)、スージー(ギター、コーラス)、TAKE(ウッドベース)、 四條未来(バンジョー)、yossuxi(キーボード、アコーディオン、コーラス)、大川順堂(ドラム、コーラス)の 6 名。”ラスティックミュージック”と言われるジャンルの音楽を奏でるバンド。ラスティックとは「古くさい旋律を今風に演奏する音楽。今風というのは、パンク、ロックという要素を入れところ。」とは伊藤さん談。
『OLEDICKFOGGY』メンバーは伊藤雄和(ボーカル、マンドリン)、スージー(ギター、コーラス)、TAKE(ウッドベース)、 四條未来(バンジョー)、yossuxi(キーボード、アコーディオン、コーラス)、大川順堂(ドラム、コーラス)の 6 名。”ラスティックミュージック”と言われるジャンルの音楽を奏でるバンド。ラスティックとは「古くさい旋律を今風に演奏する音楽。今風というのは、パンク、ロックという要素を入れたところ。」とは伊藤さん談。
 
映画『オールディックフォギー / 歯車にまどわされて』

2016年8月11日(木・祝)より、シネマート新宿にて公開
8月11日(木・祝)より、シネマート新宿
8月20日(土)・21日(日)鹿児島ガーデンズシネマ
8月27日(土)より第七藝術劇場、名古屋シネマテーク
9月24日(土)ジョイランドシネマ沼津
以降、広島・横川シネマ他、全国順次公開!

主演:OLEDICKFOGGY(伊藤雄和、スージー、TAKE、四條未来、yossuxi、大川順堂)
出演:渋川清彦、仲野茂(アナーキー)、増子直純(怒髪天)、NAOKI(SA) ほか
監督・撮影・編集:川口潤  
©2016 OLEDICKFOGGY Film Partners